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第4章 魔王なら出来て当たり前
53.自己ベスト更新の決裁マシーン
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魔の森の回復によって、不安定な天候は戻るだろう。とリリスが言ったので、今日は休み! そう主張してみたが、アスタロトに無視された。庭でリリスとイヴがお昼寝をすると聞いて、駆け付けるべく午前中に仕事を詰め込む魔王は必死だ。
「午後の仕事も全部片づけるから、早く寄越せ!」
「これはいいですね。これからは午後のお昼寝を日課として組み込みましょう」
アスタロトは機嫌よく、収納から未処理書類を取りだす。これに関しては、署名と押印がなされた時点でどのような魔法も適用できなくなるので、往路だけの特権だ。復路で収納魔法を使うと、未処理書類に戻ってしまう。
大急ぎで書類を確認しながら、時々質問も挟む。やれば出来る魔王は、本人最速記録で署名と押印を続けた。左手に持った印を押し付けながら、右手で署名していく。書き終えたところで、待ち構えるアスタロトが手早く回収した。
慣れた様子で、書類の内容を説明しながら次の書類を差し出す。頷きながら左手が朱肉に伸び、右手が文面を追って署名を始めた。あまりの早さに、全く読んでいないのでは? と文官達は心配になる。が、突然ルシファーの手がぴたりと止まった。
「これは却下」
「はい」
アスタロトは差し戻しの箱に書類を移す。部屋の状況を覗いた文官が、仲間に「ぐっ」と親指を立てて問題なしのジェスチャーを送った。最強の決裁マシーンと化した純白の魔王は、左袖を朱肉で汚し、右手をペンのインクで染めながら、すべての書類を片付けた。
「これで終わりか?」
「はい。お疲れさまでした。お昼寝に向かっていただいて問題ありません」
昼食もすっ飛ばし、夢中で決裁した戦いの痕跡であるインクと朱肉がついた手に気づき、魔力を流して消し去る。浄化魔法を重ね掛けして、機嫌よく廊下へ出ていった。
ひらひらと白く長い髪を靡かせるルシファーが消えた後、アスタロトは手元の書類を再確認する。全く問題なく処理された山は、半分が承認で、一割が差し戻し。残った分は条件付き承認だった。事前に内容を把握していたアスタロトは、手際よく書類を各部署へ発送する。
アベルが慣れた手付きで各所に配布し始め、溜まった書類が処理されたことで文官達は忙しく働き出した。アンナの提案で処理量が減ったにも関わらず、一週間近く書類を溜めるから、忙しくなるんです。毎日の昼寝を許可する代わりに、午前中の書類処理を義務付けたら……おそらく時間が余るでしょう。
皮算用しながら、アスタロトは執務室に後にした。すぐにベールに呼び止められ、ルキフェルが待つ別室へ通される。勧められるままソファに腰掛けた彼へ、昨日出張した大公二人がぼそぼそと経緯を説明する。
魔の森の木々を大量伐採したり、山肌が崩れるような災害が起きると、周囲の天候が荒れる可能性があること。リリスはその原因をぴたりと言い当てたこと。何より、魔王の娘イヴが魔王の魔力を無効化した話は、共有しておくべき情報だ。いざという時に知らなかったでは済まない。
「ベルゼビュートは辺境視察中なので、帰り次第伝える予定です」
「いえ、伝令を出した方がいいでしょうね。彼女が何かやらかしてからでは、遅いですよ」
目を細めてそう指摘したアスタロトに、ベールはそれもそうかと納得する。後回しにして伝え忘れ、情報を知らない彼女が暴走したケースは過去にもあった。危険と思われることほど、早く共有するに限る。
「それはそうと……イヴが無効化出来るのって、ルシファーだけだよね?」
改めての確認に、全員が顔を見合わせた。研究者であるルキフェルの視点で提示された懸念に、強者達の視線が彷徨う。
「わかりません、実験……させてもらうしかありませんね」
実験という言葉が相応しくないと思いながらも、事実を口にしたアスタロトは、金髪を乱暴にかき上げた。
「ルシファー様のお子ですから、もう何があっても驚きませんよ」
「午後の仕事も全部片づけるから、早く寄越せ!」
「これはいいですね。これからは午後のお昼寝を日課として組み込みましょう」
アスタロトは機嫌よく、収納から未処理書類を取りだす。これに関しては、署名と押印がなされた時点でどのような魔法も適用できなくなるので、往路だけの特権だ。復路で収納魔法を使うと、未処理書類に戻ってしまう。
大急ぎで書類を確認しながら、時々質問も挟む。やれば出来る魔王は、本人最速記録で署名と押印を続けた。左手に持った印を押し付けながら、右手で署名していく。書き終えたところで、待ち構えるアスタロトが手早く回収した。
慣れた様子で、書類の内容を説明しながら次の書類を差し出す。頷きながら左手が朱肉に伸び、右手が文面を追って署名を始めた。あまりの早さに、全く読んでいないのでは? と文官達は心配になる。が、突然ルシファーの手がぴたりと止まった。
「これは却下」
「はい」
アスタロトは差し戻しの箱に書類を移す。部屋の状況を覗いた文官が、仲間に「ぐっ」と親指を立てて問題なしのジェスチャーを送った。最強の決裁マシーンと化した純白の魔王は、左袖を朱肉で汚し、右手をペンのインクで染めながら、すべての書類を片付けた。
「これで終わりか?」
「はい。お疲れさまでした。お昼寝に向かっていただいて問題ありません」
昼食もすっ飛ばし、夢中で決裁した戦いの痕跡であるインクと朱肉がついた手に気づき、魔力を流して消し去る。浄化魔法を重ね掛けして、機嫌よく廊下へ出ていった。
ひらひらと白く長い髪を靡かせるルシファーが消えた後、アスタロトは手元の書類を再確認する。全く問題なく処理された山は、半分が承認で、一割が差し戻し。残った分は条件付き承認だった。事前に内容を把握していたアスタロトは、手際よく書類を各部署へ発送する。
アベルが慣れた手付きで各所に配布し始め、溜まった書類が処理されたことで文官達は忙しく働き出した。アンナの提案で処理量が減ったにも関わらず、一週間近く書類を溜めるから、忙しくなるんです。毎日の昼寝を許可する代わりに、午前中の書類処理を義務付けたら……おそらく時間が余るでしょう。
皮算用しながら、アスタロトは執務室に後にした。すぐにベールに呼び止められ、ルキフェルが待つ別室へ通される。勧められるままソファに腰掛けた彼へ、昨日出張した大公二人がぼそぼそと経緯を説明する。
魔の森の木々を大量伐採したり、山肌が崩れるような災害が起きると、周囲の天候が荒れる可能性があること。リリスはその原因をぴたりと言い当てたこと。何より、魔王の娘イヴが魔王の魔力を無効化した話は、共有しておくべき情報だ。いざという時に知らなかったでは済まない。
「ベルゼビュートは辺境視察中なので、帰り次第伝える予定です」
「いえ、伝令を出した方がいいでしょうね。彼女が何かやらかしてからでは、遅いですよ」
目を細めてそう指摘したアスタロトに、ベールはそれもそうかと納得する。後回しにして伝え忘れ、情報を知らない彼女が暴走したケースは過去にもあった。危険と思われることほど、早く共有するに限る。
「それはそうと……イヴが無効化出来るのって、ルシファーだけだよね?」
改めての確認に、全員が顔を見合わせた。研究者であるルキフェルの視点で提示された懸念に、強者達の視線が彷徨う。
「わかりません、実験……させてもらうしかありませんね」
実験という言葉が相応しくないと思いながらも、事実を口にしたアスタロトは、金髪を乱暴にかき上げた。
「ルシファー様のお子ですから、もう何があっても驚きませんよ」
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