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第4章 魔王なら出来て当たり前

48.天候不順の原因はこれだ!

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 子蛇の脱走問題は後回しにして、当初の案件に戻った。天候が荒れている事件だ。こちらは早く解決しないと、ユニコーンや鳳凰を含めた希少種族の存続に関わる。

 虹蛇の洞窟は大きな山の横穴から入る。だが天井部分が突きつけていた。これは元が火山口だった場所を利用して作られた温室なのだ。天井部分に虹蛇達が結界を張り、侵入者を排除する。しかし陽光や雨風などの自然現象は通過できた。

 温度は多少調整したとしても、びしょ濡れになった大地を見れば問題点は理解できる。天候が崩れたことで大雨が降り、縦穴の中で大量浸水が起きたのだ。水の逃げ道は横穴しかなく、降水量によっては床上浸水に近い騒ぎだった。

 一番の懸念は、虹蛇の体質が蛇そのもので変温動物だという点だ。大量の雨が降り注ぎ体が冷えれば、眠ってしまう。魔力で遮るのも不可能になるのだ。おまけに結界が解除されたら、外部から入り放題だった。以前のように人族が襲う心配はないが、無法者がいないわけではない。

「オレが結界を張っておくか?」

「根本的な解決が必要だと思うよ」

 ルキフェルが唸りながら魔法陣を練るが、そこでリリスが思わぬ指摘をした。

「ロキちゃん、地脈に繋いだらダメよ? 転移魔法陣と魔王城の防御関連の魔法陣だけで、かなり使ってるもの」

「バランスが崩れるという意味ですか」

 ベールが溜め息を吐いた。世界はバランスを保つことで維持されている。地脈は膨大な魔力があるが、元々無駄に流れている訳ではなかった。魔の森の栄養素として、森全体の木々を支えている。そこから生まれるのが魔物であり、新たな魔族だった。

 もし地脈の魔力をすべて使ってしまえば、魔物が生まれずに飢え死にする種族が出る。すでに過去に似た事例が発生し、備蓄の放出で対応している状況だった。これ以上の悪化や長期化は持ち堪えられない。

「魔王城の魔法陣を解除して、オレの結界に切り替えるとか」

 膨大な魔力を誇るからこそ、短期的な作戦ならそれも可能だった。だが魔王が永続的に城を守り続けるのは、合理的ではない。普段から消耗する状態では、魔王チャレンジを仕掛けられた際に不安が残った。

「省魔力の結界? いや……天候を弄る方が早いかな」

 ルキフェルは恐ろしいことを呟きながら、手の中の魔法陣をくるりと回す。一時的な対処なら、この魔法陣で結界を張れば終わる。天候の乱れが今後も続けば、他の種族も助けを求めるだろう。そうしたら、大公や魔王が必死に穴を塞いでも、手が足りなくなるのは必至だった。

「あのね、天候が崩れた原因は……魔の森の消失なの」

「消失?」

「焼失ではなく?」

「え、どこか燃えたの?」

 リリスの呟きに、ルシファー、ベール、ルキフェルの順で質問を重ねる。それから全員で首を傾げた。向かいで真剣に話を聞いていた虹蛇達も、くねっと頭を傾ける。

 ぺしぺしとリリスがルシファーの腕を叩き、降ろしてくれと伝えた。ややぬかるんだ大地をピンクの靴で踏み締めたリリスが、ふふっと笑った。

「ルシファー、地図ある?」

「ああ、これでいいか」

 仕事でよく使う、最新の大陸地図を広げる。空中で展開した地図は半透明で、ルシファーが左へ流すように手を動かすと、地図の絵が従った。

 瓢箪のように中央がくびれた丸が並ぶ二つの大陸、その片方に魔王城があり、もう片方に幻獣達の楽園がある。西大陸と呼ばれるこちら側の一画を指差したリリスが「ここよ、ここが崩れたの」と教えた。

 魔の森の娘の白い指が示す先は、ベールの城の位置だ。きょとんとした顔で振り返るルシファーが、ベール大公に尋ねた。悪気はなかったのだろう。だが刺さる一言だ。

「お前、自分の城が崩れたのに気づかなかったのか?」
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