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第4章 魔王なら出来て当たり前
46.これはそなたらの子か? 違います
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密猟者でも出たのかと心配したが、そうではないらしい。虹蛇の親達がざわざわと通路で揉めていた。
「目を離すからよ」
「仕方ないだろう、トイレぐらい行かせてくれ」
「その場で垂れ流しなさいよ! この馬鹿」
妻に夫が叱られる図に見える。困惑顔のルキフェルとベールの前で、さらにケンカが続いていた。
「どうした?」
「あ、魔王様! 我が子が行方不明に」
「そうじゃないわ。報告は事実のみを告げるのよ。魔王様、私の可愛い娘が脱走しました」
「うん、落ち着け。話がおかしくなってるぞ」
同様の説明を受けて考え込んでいたルキフェル達が出した結論によると、子蛇はなぜか転移が使えるらしい。あちこちに移動しては、親を混乱させてきた。虹蛇は魔法が使えない種族だ。治癒能力が異常に高く、それを他種族に応用出来る能力があった。強いて言えば、それが治癒魔法に似ている。
転移したり空を飛んだりする魔法は使えないので、過去に狩られ過ぎて絶滅寸前まで追い込まれた虹蛇。その子どもが、転移魔法に似た能力を使うのか。
「転移に似た能力で移動する子蛇が、この洞窟から出て行った。それは誘拐ではなく、己の意思だろう……で合ってるか?」
両親の虹蛇が大きく頷く。大人の胴体より太い大蛇は、ちろちろと赤い舌を覗かせながら答えた。
「間違い無いです」
「探してください」
「だから……僕らが発見したって言ったじゃん」
ルキフェルはすでに説明したようだが、興奮した親達は聞き逃したらしい。驚いた顔でルシファーとルキフェルを交互に眺めた。蛇の頭が左右に揺られる様子が、不思議なことに夫婦でシンクロする。なんだか気持ちがほんわかする光景だった。
「可愛いわ」
照れたのかトグロを巻く妻蛇、ぷいっとそっぽを向く夫蛇。双方の前に、イヴのおくるみに入った子蛇を差し出した。
「これがそなたらの子であろう?」
穏やかな口調で差し出した子蛇は、まだ目を覚ましていなかった。じっくり子蛇を眺めた親達は口を揃える。
「「違います」」
「「「え?」」」
ルキフェルとベールも合わせ、3人で聞き返す。リリスは「そうだと思ったわ」と呟きながら、イヴを抱き締める。乱れたおくるみを掛け直す余裕があった。
「どういう、ことです?」
ベールに問われても、ルシファーが答えを知るはずもない。こてりと首を傾げてから、リリスに質問を回した。
「リリス、事情を知ってるなら教えてくれ」
「うーんとね、ルシファー達は色が見えないから難しいんだけど」
魔力を色で区別するリリスは、母蛇を青、父蛇を緑と説明した。
「なのに、子どもがオレンジなのよ」
結論を出して満足げなリリスには悪いが、だから何? と顔に書いて見つめる。通じていないと分かり、リリスはもう少し詳しく話すことにした。
「青と緑が混じったら、その子は青か緑なの。稀に色が重なる子もいるけど、オレンジはないわ」
「別の家族の子か」
「そういうことね」
通じたと安堵の笑みを浮かべるリリスをよそに、ルキフェルが「意外と魔力の色を見る能力は最高なのでは」と呟いた。家族判定まで出来るとなれば、かなり有能である。最高かどうかは受け取る当事者の判断だが、偽者を外見に惑わされず見抜くことも可能だった。
「ん? ということは、虹蛇の子が一匹行方不明じゃないか!」
一番重要なことに気づいたルシファーが叫び、ベールが外へ転移で飛び出した。追いかける形で「僕も行く」とルキフェルが続く。言い出しっぺなのに出遅れたルシファーは、リリスと肩を竦めた。
「ひとまず、この子の親を探そう」
「最近孵った卵は、隣のご夫婦じゃないかしら」
虹蛇の妻の指摘に、それなら渡してこようと子蛇を拾い上げた。するすると洞窟へ戻る虹蛇の後ろを歩くのは、意外と大変だ。ここは外敵対策で滑り加工を施された道である。歩くにはコツが必要だった。イヴを抱いたリリスを抱き上げ、ルシファーはすたすたと進む。
魔王の足が宙に浮いてズルしたことを、後ろから爪を立てて追い掛けるフェンリルだけが知っていた。主君に忠実な彼は当然、誰にも喋らない。爪を使って器用に進むフェンリルの頭上に、何かが降ってくるまでは……。
「目を離すからよ」
「仕方ないだろう、トイレぐらい行かせてくれ」
「その場で垂れ流しなさいよ! この馬鹿」
妻に夫が叱られる図に見える。困惑顔のルキフェルとベールの前で、さらにケンカが続いていた。
「どうした?」
「あ、魔王様! 我が子が行方不明に」
「そうじゃないわ。報告は事実のみを告げるのよ。魔王様、私の可愛い娘が脱走しました」
「うん、落ち着け。話がおかしくなってるぞ」
同様の説明を受けて考え込んでいたルキフェル達が出した結論によると、子蛇はなぜか転移が使えるらしい。あちこちに移動しては、親を混乱させてきた。虹蛇は魔法が使えない種族だ。治癒能力が異常に高く、それを他種族に応用出来る能力があった。強いて言えば、それが治癒魔法に似ている。
転移したり空を飛んだりする魔法は使えないので、過去に狩られ過ぎて絶滅寸前まで追い込まれた虹蛇。その子どもが、転移魔法に似た能力を使うのか。
「転移に似た能力で移動する子蛇が、この洞窟から出て行った。それは誘拐ではなく、己の意思だろう……で合ってるか?」
両親の虹蛇が大きく頷く。大人の胴体より太い大蛇は、ちろちろと赤い舌を覗かせながら答えた。
「間違い無いです」
「探してください」
「だから……僕らが発見したって言ったじゃん」
ルキフェルはすでに説明したようだが、興奮した親達は聞き逃したらしい。驚いた顔でルシファーとルキフェルを交互に眺めた。蛇の頭が左右に揺られる様子が、不思議なことに夫婦でシンクロする。なんだか気持ちがほんわかする光景だった。
「可愛いわ」
照れたのかトグロを巻く妻蛇、ぷいっとそっぽを向く夫蛇。双方の前に、イヴのおくるみに入った子蛇を差し出した。
「これがそなたらの子であろう?」
穏やかな口調で差し出した子蛇は、まだ目を覚ましていなかった。じっくり子蛇を眺めた親達は口を揃える。
「「違います」」
「「「え?」」」
ルキフェルとベールも合わせ、3人で聞き返す。リリスは「そうだと思ったわ」と呟きながら、イヴを抱き締める。乱れたおくるみを掛け直す余裕があった。
「どういう、ことです?」
ベールに問われても、ルシファーが答えを知るはずもない。こてりと首を傾げてから、リリスに質問を回した。
「リリス、事情を知ってるなら教えてくれ」
「うーんとね、ルシファー達は色が見えないから難しいんだけど」
魔力を色で区別するリリスは、母蛇を青、父蛇を緑と説明した。
「なのに、子どもがオレンジなのよ」
結論を出して満足げなリリスには悪いが、だから何? と顔に書いて見つめる。通じていないと分かり、リリスはもう少し詳しく話すことにした。
「青と緑が混じったら、その子は青か緑なの。稀に色が重なる子もいるけど、オレンジはないわ」
「別の家族の子か」
「そういうことね」
通じたと安堵の笑みを浮かべるリリスをよそに、ルキフェルが「意外と魔力の色を見る能力は最高なのでは」と呟いた。家族判定まで出来るとなれば、かなり有能である。最高かどうかは受け取る当事者の判断だが、偽者を外見に惑わされず見抜くことも可能だった。
「ん? ということは、虹蛇の子が一匹行方不明じゃないか!」
一番重要なことに気づいたルシファーが叫び、ベールが外へ転移で飛び出した。追いかける形で「僕も行く」とルキフェルが続く。言い出しっぺなのに出遅れたルシファーは、リリスと肩を竦めた。
「ひとまず、この子の親を探そう」
「最近孵った卵は、隣のご夫婦じゃないかしら」
虹蛇の妻の指摘に、それなら渡してこようと子蛇を拾い上げた。するすると洞窟へ戻る虹蛇の後ろを歩くのは、意外と大変だ。ここは外敵対策で滑り加工を施された道である。歩くにはコツが必要だった。イヴを抱いたリリスを抱き上げ、ルシファーはすたすたと進む。
魔王の足が宙に浮いてズルしたことを、後ろから爪を立てて追い掛けるフェンリルだけが知っていた。主君に忠実な彼は当然、誰にも喋らない。爪を使って器用に進むフェンリルの頭上に、何かが降ってくるまでは……。
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