上 下
47 / 530
第4章 魔王なら出来て当たり前

46.これはそなたらの子か? 違います

しおりを挟む
 密猟者でも出たのかと心配したが、そうではないらしい。虹蛇の親達がざわざわと通路で揉めていた。

「目を離すからよ」

「仕方ないだろう、トイレぐらい行かせてくれ」

「その場で垂れ流しなさいよ! この馬鹿」

 妻に夫が叱られる図に見える。困惑顔のルキフェルとベールの前で、さらにケンカが続いていた。

「どうした?」

「あ、魔王様! 我が子が行方不明に」

「そうじゃないわ。報告は事実のみを告げるのよ。魔王様、私の可愛い娘が脱走しました」

「うん、落ち着け。話がおかしくなってるぞ」

 同様の説明を受けて考え込んでいたルキフェル達が出した結論によると、子蛇はなぜか転移が使えるらしい。あちこちに移動しては、親を混乱させてきた。虹蛇は魔法が使えない種族だ。治癒能力が異常に高く、それを他種族に応用出来る能力があった。強いて言えば、それが治癒魔法に似ている。

 転移したり空を飛んだりする魔法は使えないので、過去に狩られ過ぎて絶滅寸前まで追い込まれた虹蛇。その子どもが、転移魔法に似た能力を使うのか。

「転移に似た能力で移動する子蛇が、この洞窟から出て行った。それは誘拐ではなく、己の意思だろう……で合ってるか?」

 両親の虹蛇が大きく頷く。大人の胴体より太い大蛇は、ちろちろと赤い舌を覗かせながら答えた。

「間違い無いです」

「探してください」

「だから……僕らが発見したって言ったじゃん」

 ルキフェルはすでに説明したようだが、興奮した親達は聞き逃したらしい。驚いた顔でルシファーとルキフェルを交互に眺めた。蛇の頭が左右に揺られる様子が、不思議なことに夫婦でシンクロする。なんだか気持ちがほんわかする光景だった。

「可愛いわ」

 照れたのかトグロを巻く妻蛇、ぷいっとそっぽを向く夫蛇。双方の前に、イヴのおくるみに入った子蛇を差し出した。

「これがそなたらの子であろう?」

 穏やかな口調で差し出した子蛇は、まだ目を覚ましていなかった。じっくり子蛇を眺めた親達は口を揃える。

「「違います」」

「「「え?」」」

 ルキフェルとベールも合わせ、3人で聞き返す。リリスは「そうだと思ったわ」と呟きながら、イヴを抱き締める。乱れたおくるみを掛け直す余裕があった。

「どういう、ことです?」

 ベールに問われても、ルシファーが答えを知るはずもない。こてりと首を傾げてから、リリスに質問を回した。

「リリス、事情を知ってるなら教えてくれ」

「うーんとね、ルシファー達は色が見えないから難しいんだけど」

 魔力を色で区別するリリスは、母蛇を青、父蛇を緑と説明した。

「なのに、子どもがオレンジなのよ」

 結論を出して満足げなリリスには悪いが、だから何? と顔に書いて見つめる。通じていないと分かり、リリスはもう少し詳しく話すことにした。

「青と緑が混じったら、その子は青か緑なの。稀に色が重なる子もいるけど、オレンジはないわ」

「別の家族の子か」

「そういうことね」

 通じたと安堵の笑みを浮かべるリリスをよそに、ルキフェルが「意外と魔力の色を見る能力は最高なのでは」と呟いた。家族判定まで出来るとなれば、かなり有能である。最高かどうかは受け取る当事者の判断だが、偽者を外見に惑わされず見抜くことも可能だった。

「ん? ということは、虹蛇の子が一匹行方不明じゃないか!」

 一番重要なことに気づいたルシファーが叫び、ベールが外へ転移で飛び出した。追いかける形で「僕も行く」とルキフェルが続く。言い出しっぺなのに出遅れたルシファーは、リリスと肩を竦めた。

「ひとまず、この子の親を探そう」

「最近孵った卵は、隣のご夫婦じゃないかしら」

 虹蛇の妻の指摘に、それなら渡してこようと子蛇を拾い上げた。するすると洞窟へ戻る虹蛇の後ろを歩くのは、意外と大変だ。ここは外敵対策で滑り加工を施された道である。歩くにはコツが必要だった。イヴを抱いたリリスを抱き上げ、ルシファーはすたすたと進む。

 魔王の足が宙に浮いてズルしたことを、後ろから爪を立てて追い掛けるフェンリルだけが知っていた。主君に忠実な彼は当然、誰にも喋らない。爪を使って器用に進むフェンリルの頭上に、何かが降ってくるまでは……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。 話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。 混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。 そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変! どうなっちゃうの?! 異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。 ★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。 ★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。 ★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう
ファンタジー
書籍1~8巻好評発売中!  コミカライズ連載中! コミックス1~3巻発売決定! ビッグバロッグ王国・大貴族エストレイヤ家次男の少年アシュト。 魔法適正『植物』という微妙でハズレな魔法属性で将軍一家に相応しくないとされ、両親から見放されてしまう。 そして、優秀な将軍の兄、将来を期待された魔法師の妹と比較され、将来を誓い合った幼馴染は兄の婚約者になってしまい……アシュトはもう家にいることができず、十八歳で未開の大地オーベルシュタインの領主になる。 一人、森で暮らそうとするアシュトの元に、希少な種族たちが次々と集まり、やがて大きな村となり……ハズレ属性と思われた『植物』魔法は、未開の地での生活には欠かせない魔法だった! これは、植物魔法師アシュトが、未開の地オーベルシュタインで仲間たちと共に過ごすスローライフ物語。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ
ファンタジー
その短い生涯を無価値と魔神に断じられた男、中島涼。 そんな男が転生したのは、剣と魔法の世界レムフィリア。 新しい職種は魔王。 業務内容は、勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事? 【アルファポリス様より書籍版1巻~10巻発売中です!】 新連載ウィルザード・サーガもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/novel/375139834/149126713

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...