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第4章 魔王なら出来て当たり前

41.落ちてもすぐなら大丈夫!

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 可愛いイヴを抱いた最愛の妻リリスを伴い、ルシファーは湖に飛んだ。ここは数十年前まで人族の都があった場所だ。吹き飛ばした後、湧き水が出て湖を形成した。

 明るいが強すぎない日差し、心地よい気温、目の前に広がる湖の美しさ……森の葉擦れの音も心休まる。こういった景色を愛でるには、適する時期がある。季節と呼んだか。その季節を逃さず見てやるのは、自然への敬意の表れだった。断じて書類に飽きたのではない。

 この世界の自然を司る魔の森への敬意だった。重要なので繰り返しておく。書類の処理が嫌だから逃げた、そんなつもりはなかった。

「素敵ね、魚がいるわ。ほら、イヴ~っ! お魚よ」

「リ、リリ、リリスっ!? 危険じゃないか?」

 抱いたまま湖を覗かせるならまだしも、リリスは魔法で浮かせた我が子を湖の上に飛ばした。ぷかぷかとうつ伏せで漂う我が子に、ルシファーが焦る。リリスに対しても過保護過ぎる魔王が、こんな暴挙に出たことはなかった。せいぜいが、抱いて覗き込むくらいだ。

「平気よ、落ちてもすぐなら死なないわ」

 落ちた焼き菓子も3秒以内に拾って食べたら安全、そんなレベルで我が子を語らないで欲しい。そう思うが口にできず、せめて結界を重ね掛けした。

 美しい湖は真っ青で、湧き水のお陰で透き通っている。底まで見えそうだった。ひらひらと鱗を閃かせて泳ぐのは、銀の小魚だ。もう少し深い場所なら、大きな金色の魚もいた。湖底を歩く巨大海老は、この湖の主だろうか。魔力が感じられるので、魔物分類にした。意思の疎通が取れれば、魔族に昇格となる。

 巨大海老か。蒸し焼きにしたら美味そうだ。できたら魔物のままでいて欲しい。今日一匹捕まえて、土産にしてやろう。確かベールとアデーレが海老好きだったな。

 抜け出た後ろめたさはあるので、土産で懐柔を試みる姑息な魔王ルシファーは、我が子の上にふわりと羽を広げた。抱き上げようと手を伸ばした時、頭上に影がかかる。

「ターゲット発見! これから捕獲に入ります」

「へ?」

 振り返ったルシファーの上に、網らしき物が落ちてくる。触れた先から、翼も腕も服も髪も絡め取られた。粘着性がある網に、我が子イヴも拘束される……が、結界の外側に張り付いただけだった。

「もうっ! ロキちゃん、怒るわよ!!」

「リリス、ルシファーは仕事しないで逃げたんだよ。捕まえないと魔王軍のドラゴンが罰を受ける。おかしいでしょ、そんなの」

 ルキフェルに説得され、魔王妃リリスは少し考えた。話を聞く限り、悪いのはルシファーのような気がする。イヴを抱いて執務室へ向かったら、遠足をしようと誘われたのだ。あの時点で机の上に書類は……あったわね。うん、 積んであったわ。

 記憶を辿ったリリスが、網で捕獲されたルシファーを指差した。

「ルシファーが悪いわ」

「こら、リリス! 人を指差しちゃいけませんって教えただろ。それとオレは悪くない。急ぎの書類はすべて片付けた」

「急ぎではない書類も片付けてください。休暇を取り消されたいのでしょうか」

 ベールが珍しく羽を出して現れた。びくりと肩を揺らし、そっと目を逸らす。やばい、思ったより怒ってる。期限が切られた書類は片付けたし、残りは休暇までに間に合うと踏んで放り出したのだ。本当に困らせて、国の運営を傾けるようなミスはしていない。だから大丈夫だと考えたが、甘かった。

「書類整理します」

「よろしい。ではこのまま帰還します」

「え?」

 脱走した魔王を捕獲しました。そんな感じの網に絡まったルシファーは、網の先を掴んだドラゴンにより空輸される。ここで転移を使ってくれないあたりが、ベールの怒りを如実に表していた。
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