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第1章 出産から始まる騒動

03.子が出来づらい環境を乗り越えて

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 一斉に結婚式を行ったが、妊娠した順番と期間には大きな開きがあった。というのも、魔力量が多く長寿な種族は、子孫を残しづらい。強い者ほど子を作りづらい現状があった。その法則は、強い種族が大量に繁殖して他の種族を駆逐する事態を避けるためだろう。

 魔の森が眠っている現状、詳しいことは分からない。アスタロトが18回も結婚して、子どもはわずか15人しか生まれなかったのもこの法則が影響していると思われた。孫も少なく25人だ。法則から逃れる方法として、他種族との結婚が推奨された。

 産まれる子は混血にはならず、親のどちらかの血統のみを受け継ぐ。竜族と吸血種が結婚しても、吸血鬼の特徴を持つドラゴンが生まれることはなかった。

 ルーサルカが大公女の中で一番早く身籠ったのは、予想通りだ。生まれるまでは機嫌の悪かったアスタロトも、産まれた孫を見るなり態度が軟化した。養女であるルーサルカと血は繋がらないが、可愛がった娘の産んだ孫だ。まさに舐めるように可愛がった。

 意外にも早くベルゼビュートも身籠った。これがリリスの気持ちに焦りを生じさせた要因だ。魔力量が多い大公が数年で子を成すなら自分も……そう考えた。だがまだこの頃は楽観していたように思う。

 男児を産んだルーサルカの次は、シトリーで二年連続で兄と妹を産んだ。さらにレライエが続き、ドラゴンの卵を産み落とす。その頃からリリスも考え込む時間が増えた。子どもが出来ないことを悩んでいる様子で、ルシファーがあれこれ話しても悲しそうに頷くだけ。

 大公女達の子どもを可愛がりながら、リリスは我が子が欲しいと強く望んだ。その頃、ルーシアが一年ほど間を開けて姉妹を産む。後から結婚したストラスとイポスに妊娠の兆候が表れ、リリスは激しく落ち込んでしまう。部屋に閉じこもる日が増え、周囲が心配していた矢先、彼女も妊娠した。

 魔力の影響だと説明されても、一緒に結婚した仲間がどんどん子を産めば不安になるだろう。腹に宿った我が子を大切に慈しみ、ルシファーも心配で常に側に寄り添った。守られて迎えた陣痛に顔を歪めながらも、一番喜んだのはリリス自身だ。

「ごめんな」

 声に出さず唇を動かして詫びる。リリスの黒髪を手櫛で整えながら、ルシファーは目を伏せた。純白の魔王、白いほど魔力量が多いこの世界で最強の称号だ。その魔力量が原因で子ができにくいことは覚悟していたが、ここまでリリスを追い詰めると思わなかった。

「ルシファー? あの子は!? 夢じゃないわよね! っ……」

 目を開けた途端飛び起きたリリスが、痛みに顔を顰める。産後の痛みに対し治癒魔法を使うことは、危険なので避けていた。胎内がゆっくり戻るまで、痛みの緩和や治療は行わないのが通例なのだ。そのためまだ胎内が痛むのだろう。優しく撫でてリリスを再び横たえた。

「夢じゃないさ、オレの子を産んでくれてありがとう。リリス」

 ほっとした顔のリリスは、素直にクッションに身を沈めた。それから腹部をゆっくり撫でる。その表情は安堵と慈しみに満ち、母親の顔だった。

「一緒に名前を考えよう。それから可愛がって、大切に育てるんだ」

 額をくっつけて近い距離で話しかける。時々口付けを挟んで、言い聞かせた。

「うん、そうね。無事に生まれてくれたんだもの、大切に育てましょう」

 穏やかな口調で繰り返すリリスは、とろんと目を細める。まだ眠いのだろう。目の上に手を乗せて眠りへ誘導する。寝息を立てるまで見守り、リリスの手を優しく包む形で握った。

 隣の部屋から聞こえる幼子達のぐずる声、それを宥める親の子守歌。産まれたばかりの我が子は眠っているのか、静かだった。明日になれば体も楽になるだろう。この細い体で立派に出産を終えた妻を労わるため、魔王は外の喧騒を遮った。
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