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第三章

123.魔王の解放から始まる反撃

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 崩壊する天井、慌てたオレは魔力膜を強めに張る。この場合のオレは、彼らの体の下で守ってもらった方が背中より安全だったんじゃないか? 背中にぺたりと貼りついたオレを乗せたまま、壊した天井の穴へ向けてイヴリースが飛び立った。後ろをエイシェットが追いかけてくる。

 やや安定感に欠ける黒竜の背は、ひどく揺れた。振動と轟音、突然現れたドラゴンに混乱するバルト国を通り過ぎ、黒い森を見下ろしながら高い山の中腹に降り立つ。地殻変動で縦に割れた山のようで、崖が鋭く切り立っていた。中国の水墨画に描かれた山に似ている。

「ドラゴンの聖地だ、ここに女神は近づけぬ」

 崖の上部に残る僅かな平地にオレを降ろし、イヴリースはそう告げた。何やら居心地悪そうに身じろぎしてから、人化する。以前と同じ姿だ。黒髪に赤い瞳、整っているが厳しさを感じさせる顔立ち。がっちりとした筋肉質の体は、ゆったりした黒衣に覆われていた。

 この場は安全だと言い切ったイヴリースの横に着地したエイシェットは、慌ててワンピースを被った。まだ服ごと竜化して戻ることが出来ない。イブリースが振り返らないか睨みながら、いそいそと着替える姿は微笑ましかった。目が合うとにっこり笑う。

「ところで……俺がいない間に、番が出来たのか?」

 揶揄う口調のイヴリースは、エイシェットが着替え終わるのを待って振り返った。直接目で見ていないが、気配のようなもので動きを察しているらしい。こういうチートさが魔王だなと思う。駆け寄るエイシェットが、服の中に押し込んでしまった銀髪を引き出してやりながら頷いた。

「そうだ、オレの番だ」

 目を見開いて動きを止めたエイシェットがぎゅっと抱き着く。服にじわりと染みる涙に気づいて、不甲斐なさを理解した。彼女自身は何度もオレに「番だ」と宣言してきたが、オレはどうだ? きっちり他人の前で宣言してやったことがない。

 得意げな顔をするエイシェットに、イヴリースは良かったなと微笑みかけた。さらさらとした銀髪を揺らして、大きく頷く。

「首が落ちてからの話を聞かせてくれ」

 イヴリースがどかっと地面に胡坐をかく。その前に同じように座ったオレに、エイシェットが寄り掛かった。支えてやりながら、少し姿勢を変えて膝の上に抱き上げた。

「じゃあオレだからだ」

 イヴリースの首をもって戻ったバルト国で、罪人扱いされて殺されかけたこと。人質がいて逆らえなかった状況で、リリィに拾われ、戦い方を覚えた。いくつかの国や都市を滅ぼした方法も、ヴラゴやエルフの婆さんが死んでしまった部分も、一切隠さずに話す。

 主観を交えないよう、淡々とした口調を心掛けた。オレの思考や感情が、イヴリースに影響を与えてはいけない。すべてを聞き終えた後、イヴリースはぽつりと呟いた。

「より過酷な道を選ばせてしまったことを……詫びよう」
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