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第二章

71.殺すの我慢した

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 邪魔者登場だが、エイシェットはきょとんとしている。何を言われたか、理解していないようだ。その方が安全だろう、エイシェットではなく向こうにとって。万が一にも内容を理解したら、消し炭確定だった。

「さっさと消えろ」

 目障りだ。端的に用件を伝え過ぎたオレに、剣先が突きつけられる。首に触れる距離の刃に目を走らせ、ふんと鼻で笑った。オレの結界膜を通過できる強度はない。属性付与もしてない武器を笑うと、ぐいっと喉に押し付けるように当てられた。

 この時点で違和感を覚えろよ。普通なら刺さるか切れる距離だぞ。自称冒険者という不成者を見上げていると、エイシェットがぐるると唸った。

「おい、まさかとは思うが……やめとけ」

 刃を無視して動いたオレに刺さった、と思ったらしい。ぐわっと目を見開いたエイシェットが炎のブレスを放った。……口から。

 人の形してたら手から出るのかな? とかファンタジーな想像してた過去の自分を殴りたい。そのまま口から出た。小型ドラゴンそのままの攻撃だが、中途半端に手加減される。

「殺すの我慢した」

「あ、ああ。偉いぞ、エイシェット」

 他に何が言えただろう。消し炭一歩手前で瀕死の重傷になった男達が転がり、剣は高温で曲がっている。服はすべて焼き払われ、裸なのに前後の区別がつかないほど黒く焼かれた。こんがり、を通り越した火加減だ。

 魚を焼いた時以上に絶妙な火加減のおかげで、かろうじて呼吸していた。治癒を施せば生き返るだろうが、そんな義務はない。

 転生もので人が目の前で死ぬのは嫌だと偽善を振りかざして、悪人を助けちゃう主人公がいるが、オレには到底無理だった。殺されかけた経験もあるし、召喚されてから人間の醜さを嫌というほど知った。こいつらが窒息しようが、焼け死のうが関係ない。

「せっかくのデート、邪魔された」

 むっと口を尖らせて唸る彼女に、苦笑いしてオレのシャツを取り出す。左手首の刺青にした魔法陣から厚手のシャツを選び、彼女の肩に掛ける。鼻をひくつかせて匂いを確かめ、にっこり笑った。

「場所を変えて、食事したら休もう」

「寝る?」

「ん?」

 奇妙な聞き方をするエイシェットに、頷くことへの躊躇いが生まれた。魔族は考え方が直球というか、即物的だ。寝るをそのまま受け取って頷いて、違う意味だったらどうする? 襲われるのか。

「えっと、休むんだよな」

 誤解のない表現を選んで尋ねると、首を横に振られた。よかった、頷かなくて。いきなりそっちの話か。

「寝るのはもっとお互いを知ってからだし、番うのは復讐の後だと言ったろ?」

「でも寝るのは番うのと違う」

 それってセフレ? 番う感覚を持つドラゴンでも、そんなのアリ?

 喉を鳴らして細かな説明をされたが、ドラゴン種は番と決めた相手となら性的な関係を結ぶのに抵抗はない。いつでも出会ったその日でも繋がるそうだ。思わぬお誘いに空を仰ぐと、すでに夕闇が広がりつつあった。

「抱きしめて眠る、キス、ここまでで我慢してくれ」

 言い聞かせている間に潮が満ちて、砂浜は半分ほどになっていた。ヴラゴのおっさん、この事態を予想してやがったな。帰ったら、絶対に一発殴ってやる。
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