上 下
57 / 135
第二章

57.やられた分はやり返すさ

しおりを挟む
 逢瀬を楽しんだんでしょう? そう揶揄うリリィを無視したら、足払いを掛けられた。今のオレは勇者の時の数倍強いってのに、相変わらず彼女には勝てない。諦めて両手を上げた。

「降参」

「魔王の代理が根性ないこと言わないでよ」

 嘆くフリをしながら、ソファに腰掛けた。リリィはオレにとって姉のような存在で、同時に師匠だった。戦い方を仕込み、魔法の使い方を叩き込んだ。その技術は確かだったから、オレは生きていられる。多少スパルタすぎて、数回オレを殺したらしいが。

 蘇生できたのは、非常識なまでの魔力量をオレが持っていたからだとか。その辺は濁して詳細を教えてくれなかった。いずれ聞き出す予定だ。絶対にまだ何か隠してる。嘘を吐けないというリリィだが、上手に誤魔化し話を逸らされてきた。それでも信じるのは、5年前のあの日、オレを拾った人だからだ。

「今回はどうするの? 偵察に行った街から潰すと聞いたけど」

 ハーブを乾燥させて毒草ギバの葉を混ぜたお茶を口にするリリィは、こてりと首を傾げた。可愛らしい所作は、初対面なら彼女を若く見せる。実際には魔王以上の長寿だという。魔王だって数千年は生きたと聞いた。年上もここまでくると、一周回って気にならないな。

「オレがされたことを、そっくり返してやるつもりだよ」

 あの街は凱旋したオレが捕らえられた城塞都市だ。王都と離れるため、黒い森に近い辺境の中心都市として機能していた。行政機能が集まり、周辺の村や町を管理する。商人の拠点もあり、賑わった。

 魔王城へ攻め込むオレ達を後方から支援する拠点として選ばれ、実際には何もしなかった。いや、それならまだ許される。攻撃されてケガを負った仲間が開門を求めても無視し、魔物に襲撃される彼らを見殺しにした。周辺国から送られた物資を横領し、オレ達から隠した。矢が尽きて弓を振り回して戦う者が出たのに、その時期に彼らは横領した物資で宴会を開いていたのだ。

「都市への補給を断ち、あいつらの備蓄を奪う。門を固定して出入りを制限し、助けを求める彼らを見下ろして笑ってやるさ。矢が尽き、剣が折れ、心が砕けるまで……ああ、魔物に食い殺されるのも忘れちゃいけなかった」

 毒草ギバのお茶を差し出され、オレは無言で口をつけた。ほんのり甘い。この甘さが毒だった。魔力が多い魔族にとっては、微糖のお茶に過ぎない。だが魔力がほとんどない人間を蝕み、狂わせる。見た目は、小さな白い花を咲かせる可憐な草花だった。

「ギバって沢山ある?」

「あるわよ、嗜好品だもの」

 魔王城周辺に自生する草を思い浮かべ、口元を歪めた。魔物に襲撃させて反撃されたら可哀想だし、徹底的に弱らせてから潰すか。オレの能力が衰えるまで20年以上、まだまだ時間は余ってた。人生かけた復讐を急いで掻っ込んだら勿体無い。じっくり味わわないとな。

 城塞都市ラウガへの仕掛けを練りながら、オレはギバのお茶を味わう。魔力が余っているオレでも高揚感を得るんだ。これを耐性がない人間が飲んだら、さぞ愉快な状況になるだろうな。偵察でエイシェットに声を掛けたような連中から使うのが早い。順番を頭で組み上げて、残りのお茶を飲み干した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

魔王を倒した勇者

大和煮の甘辛炒め
ファンタジー
かつて世界に平和をもたらしたアスフェン・ヴェスレイ。 現在の彼は生まれ故郷の『オーディナリー』で個性的な人物達となんやかんやで暮らしている。 そんな彼の生活はだんだん現役時代に戻っていき、魔王を復活させようと企む魔王軍の残党や新興勢力との戦いに身を投じていく。 これは彼がいつもどうりの生活を取り戻すための物語。 ⭐⭐⭐は場面転換です。 この作品は小説家になろうにも掲載しています

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

最終戦争(ハルマゲドン)の戦闘用アンドロイドが異世界転移すると、ネコ耳娘受肉するらしい

テツみン
ファンタジー
*本作品は11月末をもって、一旦、非公開にします。読者のみなさま、どうもありがとうございました。 エル:「なんですか? このやる気のないタイトルは?」 ハーミット:「なんとなく、作品の雰囲気がわかればイイらしいよ」 エル:「なんとなく……って、そもそも『ネコ耳娘受肉』って意味がわからないんですけど?」 ハーミット:「なんでも、『ネコ耳メイドTUEEE!!』っていう物語を書きたかったとか――」 エル:「はあ……いまごろTUEEEネタですか……なら、別に戦闘用アンドロイドが転移しなくてもイイのでは?」 ハーミット:「そこはほら、それなりに説得力ある根拠が欲しかったみたいな?」 エル:「……アンドロイドがネコ耳娘を受肉するという設定のほうが、すでに破綻してると思うのですが……」 ハーミット:「そろそろ始まるみたいよ。ほら、スタンバイして!」 エル:「そうやって、また誤魔化すんだから……」

処理中です...