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第二章
57.やられた分はやり返すさ
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逢瀬を楽しんだんでしょう? そう揶揄うリリィを無視したら、足払いを掛けられた。今のオレは勇者の時の数倍強いってのに、相変わらず彼女には勝てない。諦めて両手を上げた。
「降参」
「魔王の代理が根性ないこと言わないでよ」
嘆くフリをしながら、ソファに腰掛けた。リリィはオレにとって姉のような存在で、同時に師匠だった。戦い方を仕込み、魔法の使い方を叩き込んだ。その技術は確かだったから、オレは生きていられる。多少スパルタすぎて、数回オレを殺したらしいが。
蘇生できたのは、非常識なまでの魔力量をオレが持っていたからだとか。その辺は濁して詳細を教えてくれなかった。いずれ聞き出す予定だ。絶対にまだ何か隠してる。嘘を吐けないというリリィだが、上手に誤魔化し話を逸らされてきた。それでも信じるのは、5年前のあの日、オレを拾った人だからだ。
「今回はどうするの? 偵察に行った街から潰すと聞いたけど」
ハーブを乾燥させて毒草ギバの葉を混ぜたお茶を口にするリリィは、こてりと首を傾げた。可愛らしい所作は、初対面なら彼女を若く見せる。実際には魔王以上の長寿だという。魔王だって数千年は生きたと聞いた。年上もここまでくると、一周回って気にならないな。
「オレがされたことを、そっくり返してやるつもりだよ」
あの街は凱旋したオレが捕らえられた城塞都市だ。王都と離れるため、黒い森に近い辺境の中心都市として機能していた。行政機能が集まり、周辺の村や町を管理する。商人の拠点もあり、賑わった。
魔王城へ攻め込むオレ達を後方から支援する拠点として選ばれ、実際には何もしなかった。いや、それならまだ許される。攻撃されてケガを負った仲間が開門を求めても無視し、魔物に襲撃される彼らを見殺しにした。周辺国から送られた物資を横領し、オレ達から隠した。矢が尽きて弓を振り回して戦う者が出たのに、その時期に彼らは横領した物資で宴会を開いていたのだ。
「都市への補給を断ち、あいつらの備蓄を奪う。門を固定して出入りを制限し、助けを求める彼らを見下ろして笑ってやるさ。矢が尽き、剣が折れ、心が砕けるまで……ああ、魔物に食い殺されるのも忘れちゃいけなかった」
毒草ギバのお茶を差し出され、オレは無言で口をつけた。ほんのり甘い。この甘さが毒だった。魔力が多い魔族にとっては、微糖のお茶に過ぎない。だが魔力がほとんどない人間を蝕み、狂わせる。見た目は、小さな白い花を咲かせる可憐な草花だった。
「ギバって沢山ある?」
「あるわよ、嗜好品だもの」
魔王城周辺に自生する草を思い浮かべ、口元を歪めた。魔物に襲撃させて反撃されたら可哀想だし、徹底的に弱らせてから潰すか。オレの能力が衰えるまで20年以上、まだまだ時間は余ってた。人生かけた復讐を急いで掻っ込んだら勿体無い。じっくり味わわないとな。
城塞都市ラウガへの仕掛けを練りながら、オレはギバのお茶を味わう。魔力が余っているオレでも高揚感を得るんだ。これを耐性がない人間が飲んだら、さぞ愉快な状況になるだろうな。偵察でエイシェットに声を掛けたような連中から使うのが早い。順番を頭で組み上げて、残りのお茶を飲み干した。
「降参」
「魔王の代理が根性ないこと言わないでよ」
嘆くフリをしながら、ソファに腰掛けた。リリィはオレにとって姉のような存在で、同時に師匠だった。戦い方を仕込み、魔法の使い方を叩き込んだ。その技術は確かだったから、オレは生きていられる。多少スパルタすぎて、数回オレを殺したらしいが。
蘇生できたのは、非常識なまでの魔力量をオレが持っていたからだとか。その辺は濁して詳細を教えてくれなかった。いずれ聞き出す予定だ。絶対にまだ何か隠してる。嘘を吐けないというリリィだが、上手に誤魔化し話を逸らされてきた。それでも信じるのは、5年前のあの日、オレを拾った人だからだ。
「今回はどうするの? 偵察に行った街から潰すと聞いたけど」
ハーブを乾燥させて毒草ギバの葉を混ぜたお茶を口にするリリィは、こてりと首を傾げた。可愛らしい所作は、初対面なら彼女を若く見せる。実際には魔王以上の長寿だという。魔王だって数千年は生きたと聞いた。年上もここまでくると、一周回って気にならないな。
「オレがされたことを、そっくり返してやるつもりだよ」
あの街は凱旋したオレが捕らえられた城塞都市だ。王都と離れるため、黒い森に近い辺境の中心都市として機能していた。行政機能が集まり、周辺の村や町を管理する。商人の拠点もあり、賑わった。
魔王城へ攻め込むオレ達を後方から支援する拠点として選ばれ、実際には何もしなかった。いや、それならまだ許される。攻撃されてケガを負った仲間が開門を求めても無視し、魔物に襲撃される彼らを見殺しにした。周辺国から送られた物資を横領し、オレ達から隠した。矢が尽きて弓を振り回して戦う者が出たのに、その時期に彼らは横領した物資で宴会を開いていたのだ。
「都市への補給を断ち、あいつらの備蓄を奪う。門を固定して出入りを制限し、助けを求める彼らを見下ろして笑ってやるさ。矢が尽き、剣が折れ、心が砕けるまで……ああ、魔物に食い殺されるのも忘れちゃいけなかった」
毒草ギバのお茶を差し出され、オレは無言で口をつけた。ほんのり甘い。この甘さが毒だった。魔力が多い魔族にとっては、微糖のお茶に過ぎない。だが魔力がほとんどない人間を蝕み、狂わせる。見た目は、小さな白い花を咲かせる可憐な草花だった。
「ギバって沢山ある?」
「あるわよ、嗜好品だもの」
魔王城周辺に自生する草を思い浮かべ、口元を歪めた。魔物に襲撃させて反撃されたら可哀想だし、徹底的に弱らせてから潰すか。オレの能力が衰えるまで20年以上、まだまだ時間は余ってた。人生かけた復讐を急いで掻っ込んだら勿体無い。じっくり味わわないとな。
城塞都市ラウガへの仕掛けを練りながら、オレはギバのお茶を味わう。魔力が余っているオレでも高揚感を得るんだ。これを耐性がない人間が飲んだら、さぞ愉快な状況になるだろうな。偵察でエイシェットに声を掛けたような連中から使うのが早い。順番を頭で組み上げて、残りのお茶を飲み干した。
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