上 下
48 / 135
第一章

48.無様で醜く、ロクなもんじゃねえ

しおりを挟む
 エイシェットの背に乗るか、フェンリル達に跨るか。オレが知らない間に一悶着あったらしい。最終的に行きはエイシェット、帰りは双子のどちらかと決定がなされていた。おい、オレは聞いてないぞ。

 文句を言いながらもエイシェットの背に乗る。慣れた様子で皮紐を咥えるドラゴンというのも、どうだろう。オレの為なのは間違いない。感謝を込めて銀鱗を撫でたら、嬉しそうに鳴いて飛び立った。周囲の木を大きくしならせ、巨体が空を飛ぶ。

 地上から追う部隊は日が昇ってから出立する。それまでに侵入経路を用意するのが、今回の役割だった。地上を侵略した形は必要だが、方法は何でもいいのだ。魔族の危険を減らすため、徹底的に潰した後に到着してもらう方がありがたかった。

 きらりと朝日を弾く王城の屋根は青い。ここからは短期決戦だった。あまり時間をかけると、危機感を募らせた周辺国の介入が始まる。挟み撃ちにされでもしたら、こっちに被害者が出る。

 オレ達が蹂躙した村と町を抜け、街道沿いに飛んだ。関所や砦はもう機能していない。王都は丸裸だった。この状態で、昨夜壊したはずの結界もどきが揺れる。不安定なのか? 首を傾げたオレは理由に気づいた。

 安定した魔力を有する魔石が停止したため、魔術師が直接魔力を流していた。人の放つ魔力は量が少なく、質も悪い。誰かが魔力不足で倒れるたびに膜が揺れた。それでも張るのは、ワイバーンの存在だ。飛竜達は朝食にありつこうと、膜に突進して侵入離脱を繰り返していた。

「あれだな、シャボン玉みたいだ」

 ぐる? 何それと尋ねるエイシェットに「後で見せてやるよ」と約束した。石鹸を借りれば簡単に作れるから、魔族の子どもに広めたら喜びそうだ。虹色のシャボン玉は、女性受けも良いかもな。

 真っ直ぐに飛ぶエイシェットが、ぐあっと口を開く。鋭い牙が並んだ口の中に、不思議な紋様が浮かんだ。生まれながらにブレスを使えるドラゴンは、口の中にブレス発動の紋を持っている。ブレスの威力や種類に違いがあるのは、この紋様が違う所為だった。強烈な炎のブレスを吐く銀竜は、不安定な結界もどきを砕く。

 ぐるりと回って、魔術師の魔力を感知した場所へ向かう。彼女ばかりを働かせるのも悪いから、オレは収納から取り出した弓に矢をつがえた。

「風が運んで、刺さったら爆発だ」

 火と水を使った水蒸気爆発を想像する。弓を目一杯引く必要はなく、方向を定めて軽く放つ。届かないはずの矢は風に運ばれ、到着した場所で火と水が反応して砦を壊した。爆音に興奮したエイシェットが、追い討ちで尻尾を叩きつける。がらがらと崩れる砦の瓦礫が、塀を崩した。

 王都を守る塀の所々に設置された砦は、門を守っている。門を壊すには、砦の場所を攻撃すればいい。こんな攻略のされ方をすると思っていなかっただろう。人間同士の戦いなら、門も砦も効果的だった。だが頭上から魔族に攻撃されたら、格好の的なのだ。

「エイシェット、任せる。オレは降りるぞ」

 王城の屋根を通過したタイミングで飛び降りる。ぐあああ!! 怒ったのか? いや心配してるだけか。ひらひらと手を振って笑ってやると、仕方ないとばかりに塀を壊しに行った。

 彼女が王都の結界もどきを破壊したことで、ワイバーンの朝食も始まる。下降して人間を掴み、塀の外にある街道に叩きつけるのだ。動かなくなるまで繰り返し、死体になると貪りくらう。なぜか生きた獲物を食べないワイバーンは、オレの知るカラスやコンドルが近いのか。

 王城から逃げ出す侍女や騎士が出始め、慌てた門兵が跳ね橋をあげる。命令に従った彼らに、城の住人達は詰め寄った。仲間同士で争いが始まる。殺して門を開ける方法を選んだ騎士が、後ろから別の兵に刺された。無様で醜い争いを見ながら、オレは青い屋根に胡座をかいた。

「ほんと、人間なんてロクなもんじゃねえ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

魔王を倒した勇者

大和煮の甘辛炒め
ファンタジー
かつて世界に平和をもたらしたアスフェン・ヴェスレイ。 現在の彼は生まれ故郷の『オーディナリー』で個性的な人物達となんやかんやで暮らしている。 そんな彼の生活はだんだん現役時代に戻っていき、魔王を復活させようと企む魔王軍の残党や新興勢力との戦いに身を投じていく。 これは彼がいつもどうりの生活を取り戻すための物語。 ⭐⭐⭐は場面転換です。 この作品は小説家になろうにも掲載しています

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)
ファンタジー
ある朝、元傭兵リュール・ジガンの傍らに銀髪美少女の姿があった。 彼女は言った「私はリュール様の剣です」と。 その証拠に、長年愛用していた大剣は消え、少女はリュールを強く慕っていた。 可憐な容姿とは裏腹に、人を傷付けることにためらいがない。 それに、リュールしか知らないはずのことを多く知っていた。 少女の話や態度から、リュールは自身の剣であると信じざるを得なかった。 仕方なく、少女を連れ旅は続く。 彼女に心を許しつつあったリュールは、人の姿をした愛剣に人としての名を与えた。 ある夜、リュールは魔獣と呼ばれる獣に襲われる。 絶望的な状況の中、リュールは少女になった大剣の名を呼んだ。 「ブレイダ」と。 その声を受けたブレイダは、光り輝く大剣に変化する。 リュールは彼女を使い、魔獣を切り裂いた。 後に【魔獣狩り】と呼ばれるリュールとブレイダの物語はここから始まった。 ※感想、ご意見お待ちしております。

東の最果て *ファンタジアØ*

青桜さら
ファンタジー
遠い昔のお話。 はじまりの詩(うた)。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...