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第一章
34.オレの悪い癖だ
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人の足で歩けば3日ほどの距離だが、エイシェットの背に乗れば僅か数十分だ。先に攻撃した村を焼き払ったので、派手な煙は確認できていたらしい。それに加え、銀鱗のドラゴンが一直線に飛んで来る。村の連中が、魔族の攻撃と判断するのは当然だった。
「魔族めっ!」
「お褒めに預かり恐縮だね」
罵り言葉が心地よい。オレをちゃんと魔族認定してくれたってことだろ? 人間のくせにと言われるより気分がいいぜ。エイシェットの背から滑り落ち、足元に風を起こして着地する。たったこれだけの魔法で、完全に人外扱いだった。
うわぁああ! 雄たけびを上げて振り翳された剣を、リリィの新作で弾く。この剣にも、何かカッコいい名前を考えてやらないといけないな。青みがかった銀の……うーん。悩みながら男の首を刎ねる。人間はこれが一番早く機能停止する。噴き出す血の量は多いが、魔獣の餌にするなら血抜きも必要だし。
人殺しに関する禁忌なんて、感じない。殺されかけて救われたあの日、死にたくないと思った。次に人間を見たときは、もう感傷も同族意識もなかった。ある意味、壊れたんだろう。倫理観や殺人への禁忌、帰れないことへの諦めもついた。戻れないなら、この世界で生きて死ぬしかないんだから。
身近な親兄弟、友人がいない場所へ放り出されて戦い、彼らはすでにオレの召喚で失われた。そう聞いたら、人間への感情なんて粉々になる。目の前にいる人間を殺しても、害虫を踏み潰した程度の感覚しかなかった。
「くそっ、逃げろ」
「散らばれ」
「魔石を……」
口々に叫びながら右往左往する連中に、オレは広範囲への足止めを行う。
「獲物を閉じ込めろ」
魔石を持ち逃げさせる気はない。先ほどの村で回収した分もそうだが、元は魔族の臓器なのだ。魔力の電池扱いされるのは腹立たしかった。使い捨ての消耗品として使うなんざ、100年早いっての。一番距離が近かった男の胸を貫く。深く刺さった剣は、さすがの切れ味だった。
呻く男の筋肉が剣を挟むが、それすら裂いて抜ける。オレが足を掛けて男を蹴り飛ばすより早く、重力で倒れる男の傷はさらに大きく切り裂かれた。収縮する肉でも斬れる剣は砕かず骨も斬る。使い勝手のいい剣を振り回し、手あたり次第に斬った。
さすがに女はいない。子どもも見かけなかった。この時点で、村はすでに農民を排除した後なのだろう。開拓したいなら自分達でやればいいものを、他者の手を借りて楽をする考え方は貴族に似ている。唾棄すべき人間の風習だった。
農民が育てる作物がなければ飢え死にするくせに、底辺民と見做して搾取する。まあ、どっちにしろオレ達の敵だから同情もない。真っ赤に返り血を浴びることがないのも、よく斬れる剣の利点だった。斬った後、少し遅れて血が噴き出すのだ。その間に別の敵に飛びかかるオレに、赤い血がかかることはなかった。
「よしっ! 後は魔石の回収か」
囚われた魔族や魔獣の気配もない。注意深く探ってから、残党狩りをしながら魔石を収納した。赤、青、白……どれもひとつの命だったのに。助けられなかったことを詫び、遅れたことを謝った。最後の魔石を収納したオレは、油断していたのだろう。
「お父ちゃんの仇っ!」
甲高い声と同時に、太腿に激痛が走る。どこに隠れていたのか、幼いと表現できる子どもが陶器の破片を握り締めていた。オレに突き刺した勢いで手が切れ、真っ赤に染まる。その痛みも興奮で感じていない子どもは、無造作に破片を抜いた。もう一度と振り被る姿に、溜め息をつく。
「オレの悪い癖だ」
何度もリリィに指摘されたってのにな。また失敗した。
「魔族めっ!」
「お褒めに預かり恐縮だね」
罵り言葉が心地よい。オレをちゃんと魔族認定してくれたってことだろ? 人間のくせにと言われるより気分がいいぜ。エイシェットの背から滑り落ち、足元に風を起こして着地する。たったこれだけの魔法で、完全に人外扱いだった。
うわぁああ! 雄たけびを上げて振り翳された剣を、リリィの新作で弾く。この剣にも、何かカッコいい名前を考えてやらないといけないな。青みがかった銀の……うーん。悩みながら男の首を刎ねる。人間はこれが一番早く機能停止する。噴き出す血の量は多いが、魔獣の餌にするなら血抜きも必要だし。
人殺しに関する禁忌なんて、感じない。殺されかけて救われたあの日、死にたくないと思った。次に人間を見たときは、もう感傷も同族意識もなかった。ある意味、壊れたんだろう。倫理観や殺人への禁忌、帰れないことへの諦めもついた。戻れないなら、この世界で生きて死ぬしかないんだから。
身近な親兄弟、友人がいない場所へ放り出されて戦い、彼らはすでにオレの召喚で失われた。そう聞いたら、人間への感情なんて粉々になる。目の前にいる人間を殺しても、害虫を踏み潰した程度の感覚しかなかった。
「くそっ、逃げろ」
「散らばれ」
「魔石を……」
口々に叫びながら右往左往する連中に、オレは広範囲への足止めを行う。
「獲物を閉じ込めろ」
魔石を持ち逃げさせる気はない。先ほどの村で回収した分もそうだが、元は魔族の臓器なのだ。魔力の電池扱いされるのは腹立たしかった。使い捨ての消耗品として使うなんざ、100年早いっての。一番距離が近かった男の胸を貫く。深く刺さった剣は、さすがの切れ味だった。
呻く男の筋肉が剣を挟むが、それすら裂いて抜ける。オレが足を掛けて男を蹴り飛ばすより早く、重力で倒れる男の傷はさらに大きく切り裂かれた。収縮する肉でも斬れる剣は砕かず骨も斬る。使い勝手のいい剣を振り回し、手あたり次第に斬った。
さすがに女はいない。子どもも見かけなかった。この時点で、村はすでに農民を排除した後なのだろう。開拓したいなら自分達でやればいいものを、他者の手を借りて楽をする考え方は貴族に似ている。唾棄すべき人間の風習だった。
農民が育てる作物がなければ飢え死にするくせに、底辺民と見做して搾取する。まあ、どっちにしろオレ達の敵だから同情もない。真っ赤に返り血を浴びることがないのも、よく斬れる剣の利点だった。斬った後、少し遅れて血が噴き出すのだ。その間に別の敵に飛びかかるオレに、赤い血がかかることはなかった。
「よしっ! 後は魔石の回収か」
囚われた魔族や魔獣の気配もない。注意深く探ってから、残党狩りをしながら魔石を収納した。赤、青、白……どれもひとつの命だったのに。助けられなかったことを詫び、遅れたことを謝った。最後の魔石を収納したオレは、油断していたのだろう。
「お父ちゃんの仇っ!」
甲高い声と同時に、太腿に激痛が走る。どこに隠れていたのか、幼いと表現できる子どもが陶器の破片を握り締めていた。オレに突き刺した勢いで手が切れ、真っ赤に染まる。その痛みも興奮で感じていない子どもは、無造作に破片を抜いた。もう一度と振り被る姿に、溜め息をつく。
「オレの悪い癖だ」
何度もリリィに指摘されたってのにな。また失敗した。
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