上 下
31 / 135
第一章

31.新作の剣のテストを兼ねて

しおりを挟む
 木造の粗末な屋根が真っ先に燃え上がる。かやぶきに近い構造だろう。都や大きな街に行けば石積みの建物があるが、山奥に作られた農民の小屋ではこんなもんだ。乾かした藁に似た植物は良く燃える。ぶわっと燃え上がる炎は、勝手に風に煽られて他の家に移った。

 村に魔族の魔力は感知できない。だが魔石の存在は確認できた。つまり、この村はすでに魔石の採取を行った。非道な方法を使う連中が占拠している証拠だ。農民ではなく、冒険者と名乗る荒くれ共や兵士崩れ。護衛に魔術師の一人二人いるかも知れないな。

 飛び出す住人を見つけるたび、上空を旋回するドラゴンが炎で追い回す。強烈な爪と嘴の攻撃だけでも厄介だが、エイシェットは炎のブレスも強かった。動物の世界で、上からの攻撃は数倍の威力を意味する。圧倒的強者であるドラゴンの攻撃に、人々は逃げ惑うしかなかった。

「やっぱ農民じゃねえな」

 村を作ったのは農民だろう。だが、文字通り炙り出された連中の体つきは農民ではない。武器を手に戦う連中の、鍛えた腕は太かった。剣や槍を手に騒ぐ連中をあしらうエイシェットの尻尾が、崩れかけた家を叩く。柱の折れた家が崩壊した。その陰に、いた。

「エイシェット、降りるぞ」

 ぐえぇ?! 驚いた声を上げる彼女の首筋をぽんと叩き、オレは下がった高度に魔力の道を作って駆け下りる。階段状に作り上げた透明の道を一気に降りた先、崩れた家の陰でこそこそと動く人影へ攻撃を加えた。

「風よ、散らして舞い上げろ」

 男が足元に描いていた蝋石の魔法陣を、強風で掻き消す。焦る魔術師の上に飛び降りたオレは、勢いを利用して首を掴んで捻った。ぐきりと嫌な音がして、手応えがぐにゃりと柔らかくなる。動かなくなった男を放り出し、蝋石を粉々に踏み砕いた。

 魔法を使うオレは蝋石を必要としない。それなら敵から奪う理由がないので、砕いて壊すことにしていた。他の魔術師が拾って使ったら危ないからな。粉を風で吹き飛ばし、動かなくなった男を見下ろす。首の神経を圧迫されただけで、まだ呼吸している。生け捕りとして最高の状態だが、フェンリルの兄弟はいないし……勿体ないが放置か。

 ぐるるるぅ。他の連中の目を惹きつけるエイシェットからの危険信号に、オレは収納から剣を引き出す。柄を握った手で鞘を押しやった。これで本体だけが抜ける。銀の刃はほんのり青を帯びていた。リリィ考案の新作だが、どのくらい斬れるか。

「折角だから確かめて報告しないとな」

 口元が笑みに歪む。オレの訓練の過酷さを知るエイシェットは、問題ないと判断して馬車を襲撃し始めた。逃げる連中も焼き殺すつもりらしい。その辺は任せる。彼女も憂さ晴らしになるし、どうせ馬車の中身は魔族から奪った魔石だろう。渡す気はなかった。

「貴様がドラゴンの仲間か!」

「くそっ、貴重な村を」

 口汚く罵る連中に無言で斬りかかる。言葉を交わすと自分が穢れそうだ。ぞっとする。言葉をしゃべる化け物としか認識できない人間を、まず一人。斬れ具合を試すために胴体を横なぎにした。背骨に当たる感触はあったものの、冗談のように振り抜ける。果物の種を切った手応えに似ていた。

 剣を振りかぶった男の胴体が腹から二つになって倒れる。

「こりゃすごい」

 冗談抜きで驚いた。修行でリリィとイヴの風呂に使う薪を割った時より楽だ。手元に引き寄せて刃の状態を確認するが、欠けどころか血も付いていなかった。にやりと口角が持ち上がる。斬れ味が鈍らないのは重畳だ。

 怯えて立ち竦んだ左側の男へ距離を詰め、下がろうとした首を落とす。転がる首、少し時間を置いて血が噴き出した。最上級の切れ味に荒くれ者共の表情が強張る。互いに目配せしたのは、挟み撃ちでも目論んだか。まあ、数十人単位で囲まれても抜けられる程度の地獄は見てきたぞ。

 ぐるりと囲むように広がった5人ばかりの包囲網を、オレは娯楽感覚で受け止めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

指輪一つで買われた結婚。~問答無用で溺愛されてるが、身に覚えが無さすぎて怖い~

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約破棄をされて実家であるオリファント子爵邸に出戻った令嬢、シャロン。シャロンはオリファント子爵家のお荷物だと言われ屋敷で使用人として働かされていた。  朝から晩まで家事に追われる日々、薪一つ碌に買えない労働環境の中、耐え忍ぶように日々を過ごしていた。  しかしある時、転機が訪れる。屋敷を訪問した謎の男がシャロンを娶りたいと言い出して指輪一つでシャロンは売り払われるようにしてオリファント子爵邸を出た。  向かった先は婚約破棄をされて去ることになった王都で……彼はクロフォード公爵だと名乗ったのだった。  終盤に差し掛かってきたのでラストスパート頑張ります。ぜひ最後まで付き合ってくださるとうれしいです。

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

愛がなければ生きていけない

ニノ
BL
 巻き込まれて異世界に召喚された僕には、この世界のどこにも居場所がなかった。  唯一手を差しのべてくれた優しい人にすら今では他に愛する人がいる。  何故、元の世界に帰るチャンスをふいにしてしまったんだろう……今ではそのことをとても後悔している。 ※ムーンライトさんでも投稿しています。

僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲ 捨てられたΩの末路は悲惨だ。 Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。 僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。 いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。

【完結】体目的でもいいですか?

ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは 冤罪をかけられて断罪された。 顔に火傷を負った狂乱の戦士に 嫁がされることになった。 ルーナは内向的な令嬢だった。 冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。 だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。 ルーナは瀕死の重症を負った。 というか一度死んだ。 神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。 * 作り話です * 完結保証付きです * R18

妹に裏切られて稀代の悪女にされてしまったので、聖女ですけれどこの国から逃げます

辺野夏子
恋愛
聖女アリアが50年に及ぶ世界樹の封印から目覚めると、自分を裏切った妹・シェミナが国の実権を握り聖女としてふるまっており、「アリアこそが聖女シェミナを襲い、自ら封印された愚かな女である」という正反対の内容が真実とされていた。聖女の力を狙うシェミナと親族によって王子の婚約者にしたてあげられ、さらに搾取されようとするアリアはかつての恋人・エディアスの息子だと名乗る神官アルフォンスの助けを得て、腐敗した国からの脱出を試みる。 姉妹格差によりすべてを奪われて時の流れに置き去りにされた主人公が、新しい人生をやり直しておさまるところにおさまる話です。 「小説家になろう」では完結しています。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

処理中です...