9 / 135
序章
9.帰れる場所がないなら
しおりを挟む
「力ならあるの、サクヤは気づいていないだけよ」
断言したリリィはお菓子を差し出した。意味がわからず首を傾げるオレに食べなさいと促す。
「これに回復系の食材を使ったの。食べられるだけ口になさい。そうしたら治療してあげられるわ」
痛む体が楽になると言われ、メレンゲに似た菓子を口に押し込んだ。ほんのり甘い。噛み締めるとほろりと砕けた。
この世界にある治療は魔術、治癒は魔法として存在する。治癒魔法は魔力を対価とするので、治癒を発動する側の魔力が消費される。しかし人間が使う治療魔術は、対象者の体力が対価だった。体力がない者を治療すると、傷が消えても死んでしまうのだ。
体力がないから治療出来ないと言われれば、リリィが使うのは魔術だと判断できた。
「食べながら聞きなさい。魔王を倒せるのが異世界人だけ、それは事実よ。召喚したのもそれが理由、でも最初からあなたを帰す気はなかった。だって……帰れる場所がないんだもの」
意味が分からず首を傾げる。だがすぐに思い当たった。先ほど、オレの召喚に親しい人間を使ったと聞いたから……戻った日本で、オレの知り合いが生きていない可能性を口にしたのだ。唇を噛み締め、現実を受け止める。
「辛くても理解しなさいね。あなたは理不尽に奪われたのよ」
無言で頷く。皿の上の菓子を口に頬張って、ただ噛み締めた。滲みそうな涙を必死で堪える。奪われ、騙され、殺されかけた。この世界でオレは異端だ。
「リリィは、どうして」
「サクヤを助けたか? でしょ。簡単よ、私はこの世界が嫌いなの。あなたと大差ないわ。裏切られ、奪われ、捨てられた……復讐するなら手は多い方がいい。いろんな知恵と力が使えるもの」
微笑んだ彼女の顔は美しくて、ぞっとする怖さを孕んでいた。同じ……か。
「オレは帰れるのか?」
復讐が終われば、オレは日本に戻る方法があるか。この問いが全てだった。頬張ったため、菓子は皿に残っていない。リリィの指がオレの手を握った。じわりと熱を感じる。魔法陣が光り、オレの肌にいくつも浮かび上がった。気持ち悪いほど肌を彩る赤、黒、暗い黄色、青ざめた緑の痣が消えていく。瘡蓋が取れて、傷は治っていた。
治療を終えたリリィは、オレの目を正面から見つめて断言する。
「無理よ。あちらの世界との接点が消えてしまった」
接点とは親や友人のことか。オレを知る人がいない日本は、オレを引き戻す力が無いのだろう。ぐじぐじと悩んで残していた未練が吹っ切れた。
もういい。
自暴自棄とも違う、妙な感覚が広がった。諦観と呼ぶのが近い。戻れないなら、そのために足掻く必要はない。この世界で朽ちるしかないなら、息を引き取る瞬間までオレや魔族を案じた友人の復讐でもしようか。
滅びかけた世界を壊して、召喚したことを後悔させてやる。オレの家族や友人を犠牲にした連中を全員殺すまで……。
傷が消えた手で拳を握る。爪が食い込んだ皮膚が、ずきんと新たな痛みを生んだ。黙って待つリリィに答えようとしたオレは、屋敷に入り込んだ人間に気づく。この屋敷には魔族がいる。追われるオレも。
「魔族だ! 罪人を出せ! 殺せ!!」
「ここにいるのは分かってるんだ。火をつけろ」
物騒な叫び声。
「やめろ」
「姫様、逃げて!」
人間に抵抗する双子の声が響いた。扉を壊す音で、オレは武器を探す。壁に飾られた剣を引き抜き、怠い腕にしっかりと握った。
この屋敷にいるのは恩人だ。もう何も奪わせない。オレは……何も失いたくなかったんだ!! 感情が爆発した。
断言したリリィはお菓子を差し出した。意味がわからず首を傾げるオレに食べなさいと促す。
「これに回復系の食材を使ったの。食べられるだけ口になさい。そうしたら治療してあげられるわ」
痛む体が楽になると言われ、メレンゲに似た菓子を口に押し込んだ。ほんのり甘い。噛み締めるとほろりと砕けた。
この世界にある治療は魔術、治癒は魔法として存在する。治癒魔法は魔力を対価とするので、治癒を発動する側の魔力が消費される。しかし人間が使う治療魔術は、対象者の体力が対価だった。体力がない者を治療すると、傷が消えても死んでしまうのだ。
体力がないから治療出来ないと言われれば、リリィが使うのは魔術だと判断できた。
「食べながら聞きなさい。魔王を倒せるのが異世界人だけ、それは事実よ。召喚したのもそれが理由、でも最初からあなたを帰す気はなかった。だって……帰れる場所がないんだもの」
意味が分からず首を傾げる。だがすぐに思い当たった。先ほど、オレの召喚に親しい人間を使ったと聞いたから……戻った日本で、オレの知り合いが生きていない可能性を口にしたのだ。唇を噛み締め、現実を受け止める。
「辛くても理解しなさいね。あなたは理不尽に奪われたのよ」
無言で頷く。皿の上の菓子を口に頬張って、ただ噛み締めた。滲みそうな涙を必死で堪える。奪われ、騙され、殺されかけた。この世界でオレは異端だ。
「リリィは、どうして」
「サクヤを助けたか? でしょ。簡単よ、私はこの世界が嫌いなの。あなたと大差ないわ。裏切られ、奪われ、捨てられた……復讐するなら手は多い方がいい。いろんな知恵と力が使えるもの」
微笑んだ彼女の顔は美しくて、ぞっとする怖さを孕んでいた。同じ……か。
「オレは帰れるのか?」
復讐が終われば、オレは日本に戻る方法があるか。この問いが全てだった。頬張ったため、菓子は皿に残っていない。リリィの指がオレの手を握った。じわりと熱を感じる。魔法陣が光り、オレの肌にいくつも浮かび上がった。気持ち悪いほど肌を彩る赤、黒、暗い黄色、青ざめた緑の痣が消えていく。瘡蓋が取れて、傷は治っていた。
治療を終えたリリィは、オレの目を正面から見つめて断言する。
「無理よ。あちらの世界との接点が消えてしまった」
接点とは親や友人のことか。オレを知る人がいない日本は、オレを引き戻す力が無いのだろう。ぐじぐじと悩んで残していた未練が吹っ切れた。
もういい。
自暴自棄とも違う、妙な感覚が広がった。諦観と呼ぶのが近い。戻れないなら、そのために足掻く必要はない。この世界で朽ちるしかないなら、息を引き取る瞬間までオレや魔族を案じた友人の復讐でもしようか。
滅びかけた世界を壊して、召喚したことを後悔させてやる。オレの家族や友人を犠牲にした連中を全員殺すまで……。
傷が消えた手で拳を握る。爪が食い込んだ皮膚が、ずきんと新たな痛みを生んだ。黙って待つリリィに答えようとしたオレは、屋敷に入り込んだ人間に気づく。この屋敷には魔族がいる。追われるオレも。
「魔族だ! 罪人を出せ! 殺せ!!」
「ここにいるのは分かってるんだ。火をつけろ」
物騒な叫び声。
「やめろ」
「姫様、逃げて!」
人間に抵抗する双子の声が響いた。扉を壊す音で、オレは武器を探す。壁に飾られた剣を引き抜き、怠い腕にしっかりと握った。
この屋敷にいるのは恩人だ。もう何も奪わせない。オレは……何も失いたくなかったんだ!! 感情が爆発した。
0
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
給料の大半を課金に使い続けヒキニートの友人とパーティ組んでいたらゲームの世界に転生して最強になっていた。
みみっく
ファンタジー
独身、彼女なしの主人公がオンラインゲームにハマり数年、オンラインゲームでの友人とパーティを組み遊んでいると、他のヤツはニートの引き籠もりで、俺だけ会社員だったので給与、ボーナスの話をすると、唆されているのは承知で……ほぼ全額課金をする程にハマっていた。ある日、パーティメンバーと共に俺のレベル上げに付き合ってもらいレベル上げをしていると、気付いたら朝方になってしまい。僅かな仮眠を取り出社をしてなんとか午前を眠さと闘い働き終え、昼食を取り腹が満たされると寝不足もあり強い眠気が襲ってくると意識が直ぐに失われ気付くと、そこは……
アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-
一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。
ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。
基本ゆったり進行で話が進みます。
四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。
魔王を倒した勇者
大和煮の甘辛炒め
ファンタジー
かつて世界に平和をもたらしたアスフェン・ヴェスレイ。
現在の彼は生まれ故郷の『オーディナリー』で個性的な人物達となんやかんやで暮らしている。
そんな彼の生活はだんだん現役時代に戻っていき、魔王を復活させようと企む魔王軍の残党や新興勢力との戦いに身を投じていく。
これは彼がいつもどうりの生活を取り戻すための物語。
⭐⭐⭐は場面転換です。
この作品は小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる