22 / 61
22.思い出せ、それが真実だ
しおりを挟む
なぜ仲間を消した? 疑問を滲ませたオレに、アモルは心底嫌そうに眉を顰めた。
「あのような下賎、存在する価値はない。俺の予定を邪魔してお前を傷つけたことが気に入らない」
淡々と告げると、オレの血で汚れた床に平然と膝をついた。
「お前は俺にとって必要だ。だから守っただけのこと」
気にする必要はないと言われた気がして、オレは目を見開いた。悪魔でありながら、いや……悪魔だからか。この堕天使はオレの味方をするという。それは同類である別の悪魔から攻撃を受ける行為ではないのか? それより、必要だと告げられた意味がわからない。
彼は血を求めているだけなのか……それとも? ハデスを遠ざけられ、もう何も信じるものがないオレは困惑して視線をゆっくりと伏せていく。
「顔を上げていろ。それでは付け込まれるぞ」
くすくす笑いながら、アモルがオレの顎に手をかける。無理やり目を合わせると、嫣然と微笑んで見せた。
「なら……ほっといてくれよ」
力なく呟いたオレに、アモルは笑みを深めて頬に手を滑らせる。冷たい手が触れた場所から凍りつくような恐怖を感じて、オレは反射的に身を捩った。その行為が拒絶を示すと気付いたはずなのに、アモルは気にした様子なく牙を突き立てた首筋までなぞる。
「無理だな」
即答したアモルが身を起こし、倒れている少年へと近づく。細く黒い後姿に、オレは慌てて手を伸ばした。
「な、何を!?」
「殺す気はない、安心しろ」
悪魔に言われて安心する祓魔師がいるか? そう叫びたくなるのを押さえ、アモルの後を追うように傷だらけの身体を引きずって進む。床の上に残る血の跡に眉をひそめたのは、悪魔であるアモルだった。
「勿体ない」
何を……と聞くまでもなく、血の話だろう。脱力しそうになりながら、必死で追いついたオレが子供を自分の背に庇った。もう悪魔の気配を感じさせない少年は、壁に叩き付けられた身体の痛みから気を失っているらしい。
「その子供、記憶を消す必要がある。邪魔をするな」
すっと伸ばされた手が子供の髪に触れ、すぐに離れた。
「……あんた、何なんだ」
敵なのか、味方か。それともそんな分類に当てはまらないのか?
泣き出しそうな声で呟いたオレへ、アモルは身を屈めて膝をついた。乱れた三つ編みの穂先を引き寄せて、口元へ運ぶ。
まるで忠誠を誓う騎士みたいな仕草で口づけ、幼く見える仕草で穂先をきゅっと握った。
「本当に……覚えていないのか?」
小首を傾げるアモルの声にいつもの傲慢な見下した響きはなく、迷い子のような不安が滲んでいる。自分がひどく悪いことをした気がして、オレは何か言おうと口を開くが……言葉が見つからなかった。
「思い出せ、それが真実だ」
「あのような下賎、存在する価値はない。俺の予定を邪魔してお前を傷つけたことが気に入らない」
淡々と告げると、オレの血で汚れた床に平然と膝をついた。
「お前は俺にとって必要だ。だから守っただけのこと」
気にする必要はないと言われた気がして、オレは目を見開いた。悪魔でありながら、いや……悪魔だからか。この堕天使はオレの味方をするという。それは同類である別の悪魔から攻撃を受ける行為ではないのか? それより、必要だと告げられた意味がわからない。
彼は血を求めているだけなのか……それとも? ハデスを遠ざけられ、もう何も信じるものがないオレは困惑して視線をゆっくりと伏せていく。
「顔を上げていろ。それでは付け込まれるぞ」
くすくす笑いながら、アモルがオレの顎に手をかける。無理やり目を合わせると、嫣然と微笑んで見せた。
「なら……ほっといてくれよ」
力なく呟いたオレに、アモルは笑みを深めて頬に手を滑らせる。冷たい手が触れた場所から凍りつくような恐怖を感じて、オレは反射的に身を捩った。その行為が拒絶を示すと気付いたはずなのに、アモルは気にした様子なく牙を突き立てた首筋までなぞる。
「無理だな」
即答したアモルが身を起こし、倒れている少年へと近づく。細く黒い後姿に、オレは慌てて手を伸ばした。
「な、何を!?」
「殺す気はない、安心しろ」
悪魔に言われて安心する祓魔師がいるか? そう叫びたくなるのを押さえ、アモルの後を追うように傷だらけの身体を引きずって進む。床の上に残る血の跡に眉をひそめたのは、悪魔であるアモルだった。
「勿体ない」
何を……と聞くまでもなく、血の話だろう。脱力しそうになりながら、必死で追いついたオレが子供を自分の背に庇った。もう悪魔の気配を感じさせない少年は、壁に叩き付けられた身体の痛みから気を失っているらしい。
「その子供、記憶を消す必要がある。邪魔をするな」
すっと伸ばされた手が子供の髪に触れ、すぐに離れた。
「……あんた、何なんだ」
敵なのか、味方か。それともそんな分類に当てはまらないのか?
泣き出しそうな声で呟いたオレへ、アモルは身を屈めて膝をついた。乱れた三つ編みの穂先を引き寄せて、口元へ運ぶ。
まるで忠誠を誓う騎士みたいな仕草で口づけ、幼く見える仕草で穂先をきゅっと握った。
「本当に……覚えていないのか?」
小首を傾げるアモルの声にいつもの傲慢な見下した響きはなく、迷い子のような不安が滲んでいる。自分がひどく悪いことをした気がして、オレは何か言おうと口を開くが……言葉が見つからなかった。
「思い出せ、それが真実だ」
0
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが
古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。
女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。
平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。
そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。
いや、だって、そんなことある?
あぶれたモブの運命が過酷すぎん?
――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――!
BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。
召喚先は腕の中〜異世界の花嫁〜【完結】
クリム
BL
僕は毒を飲まされ死の淵にいた。思い出すのは優雅なのに野性味のある獣人の血を引くジーンとの出会い。
「私は君を召喚したことを後悔していない。君はどうだい、アキラ?」
実年齢二十歳、製薬会社勤務している僕は、特殊な体質を持つが故発育不全で、十歳程度の姿形のままだ。
ある日僕は、製薬会社に侵入した男ジーンに異世界へ連れて行かれてしまう。僕はジーンに魅了され、ジーンの為にそばにいることに決めた。
天然主人公視点一人称と、それ以外の神視点三人称が、部分的にあります。スパダリ要素です。全体に甘々ですが、主人公への気の毒な程の残酷シーンあります。
このお話は、拙著
『巨人族の花嫁』
『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』
の続作になります。
主人公の一人ジーンは『巨人族の花嫁』主人公タークの高齢出産の果ての子供になります。
重要な世界観として男女共に平等に子を成すため、宿り木に赤ん坊の実がなります。しかし、一部の王国のみ腹実として、男女平等に出産することも可能です。そんなこんなをご理解いただいた上、お楽しみください。
★なろう完結後、指摘を受けた部分を変更しました。変更に伴い、若干の内容変化が伴います。こちらではpc作品を削除し、新たにこちらで再構成したものをアップしていきます。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
神獣の僕、ついに人化できることがバレました。
猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです!
片思いの皇子に人化できるとバレました!
突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。
好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています!
本編二話完結。以降番外編。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる