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22.思い出せ、それが真実だ

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 なぜ仲間を消した? 疑問を滲ませたオレに、アモルは心底嫌そうに眉を顰めた。

「あのような下賎、存在する価値はない。俺の予定を邪魔してお前を傷つけたことが気に入らない」

 淡々と告げると、オレの血で汚れた床に平然と膝をついた。

「お前は俺にとって必要だ。だから守っただけのこと」

 気にする必要はないと言われた気がして、オレは目を見開いた。悪魔でありながら、いや……悪魔だからか。この堕天使はオレの味方をするという。それは同類である別の悪魔から攻撃を受ける行為ではないのか? それより、必要だと告げられた意味がわからない。

 彼は血を求めているだけなのか……それとも? ハデスを遠ざけられ、もう何も信じるものがないオレは困惑して視線をゆっくりと伏せていく。

「顔を上げていろ。それでは付け込まれるぞ」

 くすくす笑いながら、アモルがオレの顎に手をかける。無理やり目を合わせると、嫣然と微笑んで見せた。

「なら……ほっといてくれよ」

 力なく呟いたオレに、アモルは笑みを深めて頬に手を滑らせる。冷たい手が触れた場所から凍りつくような恐怖を感じて、オレは反射的に身を捩った。その行為が拒絶を示すと気付いたはずなのに、アモルは気にした様子なく牙を突き立てた首筋までなぞる。

「無理だな」

 即答したアモルが身を起こし、倒れている少年へと近づく。細く黒い後姿に、オレは慌てて手を伸ばした。

「な、何を!?」

「殺す気はない、安心しろ」

 悪魔に言われて安心する祓魔師がいるか? そう叫びたくなるのを押さえ、アモルの後を追うように傷だらけの身体を引きずって進む。床の上に残る血の跡に眉をひそめたのは、悪魔であるアモルだった。

「勿体ない」

 何を……と聞くまでもなく、血の話だろう。脱力しそうになりながら、必死で追いついたオレが子供を自分の背に庇った。もう悪魔の気配を感じさせない少年は、壁に叩き付けられた身体の痛みから気を失っているらしい。

「その子供、記憶を消す必要がある。邪魔をするな」

 すっと伸ばされた手が子供の髪に触れ、すぐに離れた。

「……あんた、何なんだ」

 敵なのか、味方か。それともそんな分類に当てはまらないのか?

 泣き出しそうな声で呟いたオレへ、アモルは身を屈めて膝をついた。乱れた三つ編みの穂先を引き寄せて、口元へ運ぶ。

 まるで忠誠を誓う騎士みたいな仕草で口づけ、幼く見える仕草で穂先をきゅっと握った。

「本当に……覚えていないのか?」

 小首を傾げるアモルの声にいつもの傲慢な見下した響きはなく、迷い子のような不安が滲んでいる。自分がひどく悪いことをした気がして、オレは何か言おうと口を開くが……言葉が見つからなかった。

「思い出せ、それが真実だ」
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