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99.皆様、残さず召し上がれ
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大きなベッドは寝心地も良くて最高でした。結局ベッドのサイズが大きくて運び込めないため、最初から中で組み立ててもらいましたの。いざとなればバラして運べる仕様です。
今夜のアレクシス様との利用が楽しみですわ。うっかり料理の疲れで眠ってしまったのは、本当に申し訳ないことです。朝から元気な聖剣を見て「あらぁ」と声が漏れて、一人で赤面しましたわ。
早朝からご機嫌で騎士団の宿舎へ向かいます。料理長によって運び込まれた鍋は、五十人は賄える量が入っていました。こういう施設の鍋って、お風呂になるくらい大きいのよね。
「奥様、本当にこれを?」
「当然よ、昨日の夜作ったから味も染みていて美味しいわ」
笑顔で促す。騎士もさすがに今朝はきちんと制服を纏っていた。どうやら昨日はただの意地悪だったみたいね。アレクシス様に比べたら未熟な筋肉を鍛えるため、頑張ってほしいわ。そのための手料理だもの。
「あら、アレクシス様」
なぜか騎士をかき分けて先頭に並ぶ夫に首を傾げる。エレンは複雑そうな顔で鍋を掻き回していた。温め直しは注意しないと焦げてしまうから、とてもありがたいわ。
「おはよう、ヴィー。妻の手料理は俺が最初に食べる」
「おはようございます。構いませんわ。では私が注ぎましょうね」
そんなに食べたかったのなら、別に作りましたのに。わざわざ駆けつけていただいたなんて、嬉しい限りです。
用意した器に綺麗に盛り付けます。表面はとろりとした紅色、底の方は青で混ぜると紫になりますの。食べ終わる頃には、いつも緑色でしたわ。見慣れたシチューを注ぎ、アレクシス様と一緒に席につきました。木製の硬い椅子はロブの頃以来です。
「さあ、召し上がれ」
お野菜は柔らかく煮えて崩れ、肉はほろほろのはず。くつくつと煮えたように表面が踊っているのは、いつものことでした。あら、この模様は笑ってる顔に見えますね。
遠慮なく顔をぐしゃりと突き刺して掬い、アレクシス様の口元へ運びます。
「あーん、なさって」
ぐっと堪えるように拳を握るアレクシス様に「おやめください」と駆け寄るアントン。でも途中でエレンに邪魔されました。お鍋は料理長が見てくれているようですね。羽交締めにされた執事の様子に、騎士達もざわつき始めました。
ぽたりとシチューが器に波紋を作ったタイミングで、スプーンは夫の口に入りました。一瞬動きが止まり……表情が崩れていきます。分かりますわ、そのお気持ち。
「お、おい……夫人が辺境伯閣下に毒を……」
「やばい、吐いてください。死にますよ、あれ!」
「料理の色じゃないっす!!」
鍋と皿の中身に気づいた彼らが大騒ぎする中、アレクシス様は無言で二口目を自ら運びました。そのまま無言で食べ続けます。
「え? あれ……」
「平気なのか?」
「なんか、やべぇ気がする」
騎士達の前に、侍女によって用意されたパンとシチューが並びます。立ち上る湯気は緑色ですし、一部焦げたのか黒煙の上がる皿もありました。
「昨夜私が手ずから作りましたの。では皆様、残さずに召し上げれ」
「「「「申し訳ありませんでした!!」」」
この砦ではお食事の際に謝る作法があるのかしら。辺境伯家のマナーは奥が深いようです。私もきちんと学び直さなくては……。
「絶品だ、この味は癖になる。まだお代わりはあるか」
「もちろんです」
空になったアレクシス様のお皿に四杯目を注ぎながら、私は食べっぷりのよい夫をうっとり見つめました。
今夜のアレクシス様との利用が楽しみですわ。うっかり料理の疲れで眠ってしまったのは、本当に申し訳ないことです。朝から元気な聖剣を見て「あらぁ」と声が漏れて、一人で赤面しましたわ。
早朝からご機嫌で騎士団の宿舎へ向かいます。料理長によって運び込まれた鍋は、五十人は賄える量が入っていました。こういう施設の鍋って、お風呂になるくらい大きいのよね。
「奥様、本当にこれを?」
「当然よ、昨日の夜作ったから味も染みていて美味しいわ」
笑顔で促す。騎士もさすがに今朝はきちんと制服を纏っていた。どうやら昨日はただの意地悪だったみたいね。アレクシス様に比べたら未熟な筋肉を鍛えるため、頑張ってほしいわ。そのための手料理だもの。
「あら、アレクシス様」
なぜか騎士をかき分けて先頭に並ぶ夫に首を傾げる。エレンは複雑そうな顔で鍋を掻き回していた。温め直しは注意しないと焦げてしまうから、とてもありがたいわ。
「おはよう、ヴィー。妻の手料理は俺が最初に食べる」
「おはようございます。構いませんわ。では私が注ぎましょうね」
そんなに食べたかったのなら、別に作りましたのに。わざわざ駆けつけていただいたなんて、嬉しい限りです。
用意した器に綺麗に盛り付けます。表面はとろりとした紅色、底の方は青で混ぜると紫になりますの。食べ終わる頃には、いつも緑色でしたわ。見慣れたシチューを注ぎ、アレクシス様と一緒に席につきました。木製の硬い椅子はロブの頃以来です。
「さあ、召し上がれ」
お野菜は柔らかく煮えて崩れ、肉はほろほろのはず。くつくつと煮えたように表面が踊っているのは、いつものことでした。あら、この模様は笑ってる顔に見えますね。
遠慮なく顔をぐしゃりと突き刺して掬い、アレクシス様の口元へ運びます。
「あーん、なさって」
ぐっと堪えるように拳を握るアレクシス様に「おやめください」と駆け寄るアントン。でも途中でエレンに邪魔されました。お鍋は料理長が見てくれているようですね。羽交締めにされた執事の様子に、騎士達もざわつき始めました。
ぽたりとシチューが器に波紋を作ったタイミングで、スプーンは夫の口に入りました。一瞬動きが止まり……表情が崩れていきます。分かりますわ、そのお気持ち。
「お、おい……夫人が辺境伯閣下に毒を……」
「やばい、吐いてください。死にますよ、あれ!」
「料理の色じゃないっす!!」
鍋と皿の中身に気づいた彼らが大騒ぎする中、アレクシス様は無言で二口目を自ら運びました。そのまま無言で食べ続けます。
「え? あれ……」
「平気なのか?」
「なんか、やべぇ気がする」
騎士達の前に、侍女によって用意されたパンとシチューが並びます。立ち上る湯気は緑色ですし、一部焦げたのか黒煙の上がる皿もありました。
「昨夜私が手ずから作りましたの。では皆様、残さずに召し上げれ」
「「「「申し訳ありませんでした!!」」」
この砦ではお食事の際に謝る作法があるのかしら。辺境伯家のマナーは奥が深いようです。私もきちんと学び直さなくては……。
「絶品だ、この味は癖になる。まだお代わりはあるか」
「もちろんです」
空になったアレクシス様のお皿に四杯目を注ぎながら、私は食べっぷりのよい夫をうっとり見つめました。
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