93 / 113
93.一緒に寝るのは無理だ、我慢できない
しおりを挟む
辺境伯夫人としてレードルンド領へ赴いたからには、認めてもらわねばなりません。早朝から使用人達への挨拶と顔見せ、午後は寄子の貴族や騎士からの挨拶を受けます。もちろん、明日は街へ降りる予定でした。
「ならば明後日まで寝室を分けよう」
「嫌です」
突然何を仰るのでしょう。無理ですわ、絶対に嫌です。新しいベッドはまだ選んでおりませんので、古いままです。多少狭いでしょうが並んで眠るには不自由しませんわ。
「……ヴィー、俺は我慢できない」
「我慢しなければ良いではありませんか」
「ならば明日は立てなくなるぞ?」
お風呂に入った直後、なぜ寝室でこのようなやり取りが始まったのかしら。こてりと首を傾げて意味を考えます。ああ、閨事をしたら、翌朝の私が辛いお話なのですね。それは分かりましたが、それなら別に何もせず眠れば良いではありませんか。
「だから、それは無理だ」
絶対に手を出す。言い切られてしまいました。でも結婚式までは、あんなに我慢していたではないですか。そちらの話を持ち出すと、青くなったり赤くなったりした後「一度タガが外れたら戻らない」と。
壊れたタガは修理すればいいと思います。でもアレクシス様が無理だと仰るなら、私も譲歩しますわ。夫の我が侭も受け止めるのが妻ですもの。
「分かりました。ではお部屋にもう一つベッドを置きましょう」
「そうじゃない、違うんだ……ヴィー。本当に頼むから、自室のベッドで寝てくれ」
両手を合わせて懇願され、押し出されるように自室へ戻されました。侍女のエレンがまだ部屋の片付けをしておりましたので、呼んで事情を話してみました。私のどこが悪かったのでしょう。
最初は「奥様を追い出すなんて」と怒ってくれた彼女も、徐々に顔色が悪くなり……ついに「奥様が悪いです」と敵になりました。これが裏切りという経験ですのね。
「奥様、殿方は本能で生きております。私達が感情に振り回されるのと同じで、欲望を抑えるのは大変です」
「ええ」
「これほど愛らしく美しい奥様が隣で眠っていて、手を出さない夫はクズです」
「はぁ……」
「ですから、一緒に寝て手を出せない状況が拷問なのは、お分かりですね?」
「拷問だなんて。ただ寝るだけなのよ」
「今はそれが拷問です。とにかく、大人しく寝てください」
エレンまでおかしなことを言い出して。明日はアントンや屋敷の他の人に聞いてみようかしらね。誰か私に同情してくれる人がいるでしょう。
素直に言われた通り、自室のベッドに入りました。一人だと広いし寒いです。いえ、そんなに寒い季節ではありませんが。なんだか……そう、寂しいのです。寝つくのに時間がかかりましたが、翌朝の予定を考えて頑張りました。
早朝、ご挨拶に伺った場で昨夜のアレクシス様の対応について、お話を聞きたかったのですが。あっという間に口を塞がれ、中断となりました。これも閨事情の吹聴にあたるのだとか。知らずに失礼いたしました。
「ならば明後日まで寝室を分けよう」
「嫌です」
突然何を仰るのでしょう。無理ですわ、絶対に嫌です。新しいベッドはまだ選んでおりませんので、古いままです。多少狭いでしょうが並んで眠るには不自由しませんわ。
「……ヴィー、俺は我慢できない」
「我慢しなければ良いではありませんか」
「ならば明日は立てなくなるぞ?」
お風呂に入った直後、なぜ寝室でこのようなやり取りが始まったのかしら。こてりと首を傾げて意味を考えます。ああ、閨事をしたら、翌朝の私が辛いお話なのですね。それは分かりましたが、それなら別に何もせず眠れば良いではありませんか。
「だから、それは無理だ」
絶対に手を出す。言い切られてしまいました。でも結婚式までは、あんなに我慢していたではないですか。そちらの話を持ち出すと、青くなったり赤くなったりした後「一度タガが外れたら戻らない」と。
壊れたタガは修理すればいいと思います。でもアレクシス様が無理だと仰るなら、私も譲歩しますわ。夫の我が侭も受け止めるのが妻ですもの。
「分かりました。ではお部屋にもう一つベッドを置きましょう」
「そうじゃない、違うんだ……ヴィー。本当に頼むから、自室のベッドで寝てくれ」
両手を合わせて懇願され、押し出されるように自室へ戻されました。侍女のエレンがまだ部屋の片付けをしておりましたので、呼んで事情を話してみました。私のどこが悪かったのでしょう。
最初は「奥様を追い出すなんて」と怒ってくれた彼女も、徐々に顔色が悪くなり……ついに「奥様が悪いです」と敵になりました。これが裏切りという経験ですのね。
「奥様、殿方は本能で生きております。私達が感情に振り回されるのと同じで、欲望を抑えるのは大変です」
「ええ」
「これほど愛らしく美しい奥様が隣で眠っていて、手を出さない夫はクズです」
「はぁ……」
「ですから、一緒に寝て手を出せない状況が拷問なのは、お分かりですね?」
「拷問だなんて。ただ寝るだけなのよ」
「今はそれが拷問です。とにかく、大人しく寝てください」
エレンまでおかしなことを言い出して。明日はアントンや屋敷の他の人に聞いてみようかしらね。誰か私に同情してくれる人がいるでしょう。
素直に言われた通り、自室のベッドに入りました。一人だと広いし寒いです。いえ、そんなに寒い季節ではありませんが。なんだか……そう、寂しいのです。寝つくのに時間がかかりましたが、翌朝の予定を考えて頑張りました。
早朝、ご挨拶に伺った場で昨夜のアレクシス様の対応について、お話を聞きたかったのですが。あっという間に口を塞がれ、中断となりました。これも閨事情の吹聴にあたるのだとか。知らずに失礼いたしました。
5
お気に入りに追加
871
あなたにおすすめの小説
【完結】待ってください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。
毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。
だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。
一枚の離婚届を机の上に置いて。
ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした
せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。
「君を愛するつもりはない」と。
そんな……、私を愛してくださらないの……?
「うっ……!」
ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。
ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。
貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。
旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく!
誤字脱字お許しください。本当にすみません。
ご都合主義です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる