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69.私があなた様の家族を作ります
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お父様達は心配して駆けつけると言ってくれますが、すでに解決しています。そう伝えて屋敷に留まってもらいました。ただ、アレクシス様のお父様が関わっていた話は、お母様に伝えておきます。
きっとお父様を上手に操って、対応してくださるでしょう。メランデル男爵家は完全に終わりです。アレクシス様はご自分で命令を下し、現当主である父親を断罪しました。すでに長兄と次兄は捕まり、家に残るのは母親のみでしょう。
辺境伯家に盗みに入った件で、家のお取り潰しは確定しました。それでも……お屋敷は手元に残ったはずです。私もそのくらいはと目溢しするつもりでした。アレクシス様を傷つけた罰としては、軽すぎるくらいですが。
「お屋敷はきっと燃えてしまうでしょうね」
「残念ながら、屋敷と呼ぶほど立派な家ではなかった」
独り言への返事に驚いて顔を上げた先で、アレクシス様が苦笑いしていました。
「そんなに小さなお家だったのですか?」
「ああ、この屋敷の三割くらいだ」
広さを聞く限り、裕福な商人のお家くらいですね。貴族と考えれば小さな方でした。男爵家ならマシな方でしょうか? いえ、私がお茶会で親しくしていた男爵令嬢の家は、もっと大きかったと思います。
「一緒にお茶にしませんか」
誘うと、素直に椅子に座ってくれました。ふと違和感を覚えて、アレクシス様をじっくり見つめます。
「あっ! 前髪が少し短くなりましたね」
違いを発見して嬉しくなり、両手を胸の前で組んで声を弾ませました。以前は目元が隠れるほど長くしていた髪です。剣術の稽古の時などは耳に掛けていました。それほど長い前髪が、耳に届かない長さに……ぎりぎり目が見えるでしょうか。
「気分転換だ」
「とても似合います。私は眉が見える長さまで切っても、素敵だと思いますわ」
にこにこと提案すれば、頬を少し赤くして「考えておく」と返してくれました。どうやら気分が前向きになったようです。ご家族のことで暗くなっていたら、どうしよう。そう心配したのが嘘みたいです。
「重荷が消えた感じがして、な」
「実際、消えたのですね。ずっと重かったのでしょう」
アントンが無言でお茶を差し出す。忠実な執事は、茶菓子の並んだ皿を置くと、話が聞こえない距離まで下がった。
アレクシス様の心に、のしかかっていた重荷。影のように付き纏い、冷たく重い足枷さながら邪魔をしていた。ご家族なのでしょうね。
幼い頃愛されたいと願い、振り向いて欲しいと手を差し伸べた人達が近づいてきた時、アレクシス様は喜んだでしょう。複雑な感情と共に、ようやく振り向いてもらえたと感じたはず。しかし顔の傷で手のひらを返す裏切りに遭い、大きな傷を心に負ってしまいました。
重荷でしかなかった家族が、最低最悪の言動をして……ようやく諦めることが出来たのです。彼らを家族として認識することをやめたのではありませんか?
「ああ、重かったのか」
自嘲するでもなく、淡々と呟くアレクシス様は穏やかな笑みを浮かべています。吹っ切れたのでしょう。ならば、私から告げるのはこれだけ。
「良かったです。今後はアレクシス様の家族を、私が作ります」
父母も兄夫妻も……そして私自身が。いずれ生まれてくる私達の子どもが、あなた様の家族になります。大きく目を見開いて、彼は「そうだな」と同意しました。
きっとお父様を上手に操って、対応してくださるでしょう。メランデル男爵家は完全に終わりです。アレクシス様はご自分で命令を下し、現当主である父親を断罪しました。すでに長兄と次兄は捕まり、家に残るのは母親のみでしょう。
辺境伯家に盗みに入った件で、家のお取り潰しは確定しました。それでも……お屋敷は手元に残ったはずです。私もそのくらいはと目溢しするつもりでした。アレクシス様を傷つけた罰としては、軽すぎるくらいですが。
「お屋敷はきっと燃えてしまうでしょうね」
「残念ながら、屋敷と呼ぶほど立派な家ではなかった」
独り言への返事に驚いて顔を上げた先で、アレクシス様が苦笑いしていました。
「そんなに小さなお家だったのですか?」
「ああ、この屋敷の三割くらいだ」
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「一緒にお茶にしませんか」
誘うと、素直に椅子に座ってくれました。ふと違和感を覚えて、アレクシス様をじっくり見つめます。
「あっ! 前髪が少し短くなりましたね」
違いを発見して嬉しくなり、両手を胸の前で組んで声を弾ませました。以前は目元が隠れるほど長くしていた髪です。剣術の稽古の時などは耳に掛けていました。それほど長い前髪が、耳に届かない長さに……ぎりぎり目が見えるでしょうか。
「気分転換だ」
「とても似合います。私は眉が見える長さまで切っても、素敵だと思いますわ」
にこにこと提案すれば、頬を少し赤くして「考えておく」と返してくれました。どうやら気分が前向きになったようです。ご家族のことで暗くなっていたら、どうしよう。そう心配したのが嘘みたいです。
「重荷が消えた感じがして、な」
「実際、消えたのですね。ずっと重かったのでしょう」
アントンが無言でお茶を差し出す。忠実な執事は、茶菓子の並んだ皿を置くと、話が聞こえない距離まで下がった。
アレクシス様の心に、のしかかっていた重荷。影のように付き纏い、冷たく重い足枷さながら邪魔をしていた。ご家族なのでしょうね。
幼い頃愛されたいと願い、振り向いて欲しいと手を差し伸べた人達が近づいてきた時、アレクシス様は喜んだでしょう。複雑な感情と共に、ようやく振り向いてもらえたと感じたはず。しかし顔の傷で手のひらを返す裏切りに遭い、大きな傷を心に負ってしまいました。
重荷でしかなかった家族が、最低最悪の言動をして……ようやく諦めることが出来たのです。彼らを家族として認識することをやめたのではありませんか?
「ああ、重かったのか」
自嘲するでもなく、淡々と呟くアレクシス様は穏やかな笑みを浮かべています。吹っ切れたのでしょう。ならば、私から告げるのはこれだけ。
「良かったです。今後はアレクシス様の家族を、私が作ります」
父母も兄夫妻も……そして私自身が。いずれ生まれてくる私達の子どもが、あなた様の家族になります。大きく目を見開いて、彼は「そうだな」と同意しました。
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