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65.お兄様とミランダ様の結婚式

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 結婚式に感動して泣いてしまいました。入場したお兄様はきりりと引き締まった顔で、正装に身を包んでいます。全体に白い色が多く、紺と金のストライプで引き締めるデザインでした。ミランダ様の瞳の深青の宝石をブローチとカフスに選んだのは、趣味がいいです。

 カルネウス侯爵令嬢から、エールヴァール公爵夫人になるミランダ様。白に紺と金のデザインはお兄様と同じですが、圧倒的に白の面積が多いですね。ところどころにアクセントとして紺や金が配置されています。センスの良さが光りますが、白い手袋は手首の上までと短い形でした。

 これは指輪を嵌めるからでしょう。手袋を脱がせる際にもたもたしたらカッコ悪いので、苦肉の策かも知れません。代わりにヴェールを長くして、肩から肘まで覆っていました。

「汝らは互いを敬い、尊重し、末永く愛することを誓うか」

 この国の民は妖精信仰です。世界の至るところに妖精がいて、私達を見守ってくれる。だから妖精に嫌われ見放されないよう、人が見ていない場所でも善行を積みなさい。そんな教えが根付いていました。その考えでいくと、妖精王のマーリン様が神様でしょうか。

 妖精の代理として立つ青年は、神職に分類されます。紫のスカーフで右手首を巻くのが目印でした。よく響く声がお決まりの文言を二人に投げかけます。

「はい、私は妻となるミランダを生涯愛し抜きます」

「私は夫になるレオナルド様を愛しております、この気持ちは終生変わりません」

 答えて二人はそれぞれに愛を誓いました。新郎新婦の言葉が、静まり返ったチャペルに響きます。そういえば、どうしてチャペルと呼ぶのでしょうか。今度、マーリン様にお聞きしてみましょう。

「妖精王陛下の御前で誓われた二人の婚姻を、ここに承認する」

 承認が降りた瞬間、私達は一斉に「おめでとう」と口にして拍手をするのです。書類上の手続きはすでに終わっていると聞きました。これで披露宴が行われ、広間で一晩中飲んで食べてお祝いをしますの。もちろん新婚の二人はこっそりと抜けるのですが、気づいても指摘しないのがマナーでした。

 披露宴はすぐに行われるため、着替えはありません。アレクシス様と腕を組んで歩く私は、幸せを周囲にばら撒いておりました。こんなに幸せなのよ、ほらご覧なさい。あなた達の知る妖精姫の表情の中で、今日ほど幸せそうな顔はないでしょう?

 一番のとっておきはアレクシス様のものですが、彼の婚約者になれて心から幸せと示すことは大事です。いまだに一部の王侯貴族が「妖精姫に醜男は相応しくない」と口にするのですから。

 醜い? このお顔の傷が? それとも体に残る大きな爪痕でしょうか。どちらも平民の少年ロブを助けた彼の勲章です。その少年が私であり、ロブの姿で助けられた。アレクシス様が命の恩人だと言えたなら。誤解は解けるのかも知れません。

 両親と妖精王様、アレクシス様に止められていなければ……とっくに話していました。だって、国だけでなく世界を救った英雄に対して、失礼ですもの。

 擦れ違う時に「次はあなたね」と柔らかな声でミランダ様が微笑んで、私はうっとりと頷きました。そうですね、次は私達の番ですわ。
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