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11.夜這いの作法はばっちり予習済み

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※まだ夜這いしていません
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 髪の色は染めて誤魔化すことが出来ますが、瞳の色を変える魔法はありません。この世界で使われる魔法のほとんどは、妖精が力を貸したことにより実現します。

 この瞳が虹色であったことで、王家と公爵家は私の保護に力を入れました。先代王妹の孫で血が繋がっているから。そんな理由だけで、一国の王が他国との婚姻を妨げるなどおかしいのです。ただ、妖精姫となる女性は、必ず美しい外見を持って生まれました。

 髪色はさまざまで、黒髪から銀髪、金髪、赤毛。その種類は多岐に渡ります。それ故に他国には漏れていない。私がこの国から連れ出される危険を防ぐ能力を持ち、身も心も捧げたい恩人――レードルンド辺境伯アレクシス様。

 逞しい腕にしっかりとしがみつき、豊満な胸を押し付けました。そっぽを向いていますが、真っ赤な首筋でバレていますわ。

「素敵なお部屋ですわね」

 腕を離してぐるりと見て回る間に、アレクシス様がかよい扉に近づきました。アントンが後ろで鍵を渡し、大急ぎで錠をかけています。全くもって失礼ですわ。まるで私が夜這いをかけるようではありませんか。

 夜這いは窓から行くのがマナーですのに。見た目の華やかさと裏腹に、中身がサバサバした私は貴族令嬢の友人はあまり多くありません。ですが、年上の貴族夫人の皆様には、大変可愛がっていただいております。

 私より顔の広い令嬢は、我が国の社交界にいないでしょうね。令嬢の枠をなくせば、王妃殿下が一番ですけれど。その奥様方に教えていただいたのです。夜這いの作法は、窓から侵入でした。

 通い扉を閉じるのは想定内です。すたすたと窓に近づき、テラスへ続くガラス扉を開きました。手入れされた庭を見るふりで、隣室との距離を測ります。手すりに乗って跳べば、届きそう……。ギリギリですわね。

 部屋に戻り、笑顔でこの部屋がいいと強請りました。この部屋でなくては、窓からの侵入に手こずりますもの。

「あ、ああ。好きな部屋を使ってくれ」

「ありがとうございます。アレクシス様」

 準備は整いました。後は実家から持ち込んだ香油で体を磨き、透け透けの寝着で強襲するだけ。今夜が楽しみです。

 アントンが食事の準備が出来たと告げたので、一緒に下の食堂へ向かいました。その間に、ドレスや小物を運び込んでもらう手筈です。貴族の令嬢や夫人は、自分で片付けをしません。取り出すのが侍女なので、彼女達が分かりやすいよう片付けてもらう必要があるのです。

 食堂は立派な一枚板のテーブルが据えられていますが、当然、アレクシス様のすぐ近くに座りました。出されたサラダは新鮮で、スープも上品なお味です。焼きたてで柔らかなパンと、塊肉の入ったオムレツも最高でした。

「料理長にお礼を伝えてくださいね。とても美味しかったですわ」

 デザートまでしっかり食べ、儚げな印象を払拭する。これ以上、深窓の御令嬢ぶる必要はありませんので。ぴょんと頭の上から逃げていく猫は、しばらく不要ですわね。
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