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148.幸せはどんどん増えていく
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寝室はいつもと違う雰囲気だった。照明は落とされ、いくつか蝋燭の火が揺れる。この蝋燭は魔法で作ったから、外に火が飛ぶことはないんだ。イェルドに教わった。
部屋に薔薇の花びらを散らしたのは、アベルのアイディア。ヒスイが庭師のおじいちゃんと用意した。アスティは普段は言わないけど、ロマンチストなんだよ。他のドラゴンが花嫁との初夜で、薔薇を散らした話を聞いて憧れてたと教えてもらった。
天蓋の絹も三重にして、上質な薄いものに変更したし、ベッドの上は可愛いハートのクッションを敷き詰めたよ。もちろん、色はピンクと白に限定して。女の子らしいことが大好きなのに、隠してるアスティも好き。だから彼女が喜ぶ内装を考えた。
ドレス姿のまま運んで、そっとベッドに下ろす。照れた顔を逸らして、お風呂に入ると逃げるアスティを押し倒した。両手で囲って、逃げ場を奪う。
「ダメ、アスティの匂い……僕は好きなんだから」
くんと首筋を匂って、教えてもらった一際小さな鱗を探す。ゆっくり唇を滑らせて、見つけた鱗に舌を這わせた。びくりと肩を揺らすアスティの指が、僕の肩に食い込む。それでもゆっくり、何度も鱗を舐めた。顔を上げて、真っ赤な顔のアスティの唇に触れる。
「アスティ、僕、君の番に相応しいオスになった?」
「……カイ以外いないわ。最高のお婿さんよ」
薄っすら涙が膜を張る瞳が、きらきらと輝く。ずっと僕を見守った宝石に敬意を込めて口付けを。そこからは夢中だった。大好きなアスティの声を聞いて、肌に触れて、僕は最高に幸せで気持ちいい時間を過ごす。朝になって明るくなっても、僕はアスティを離さなかった。
「おはよ……」
自分でも声が掠れてるのが分かる。アスティはもっと酷くて、声が言葉にならなかった。だからボリス師匠に言われて用意したお水を、一口含んで口付ける。
「愛してる、アスティ。ずっと一緒にいようね」
僕から受け取った水を飲んだアスティが頷き、掠れた声で「愛してるわ」と返してくれた。大広間はずっと朝まで宴会を続けて、きっと今も騒いでる。僕達はそれを知りながら、またお互いの肌に溺れた。
どんなに大切な人でも、彼女には勝てないから。弱点の鱗を晒して、甘い声を零す彼女は美しくて。この手をすり抜けて逃げてしまいそう。それが怖かったのは子どもだった証拠だね。今なら、逃がさないために閉じ込めて羽を奪ってしまうよ。
ねえ、それでもいい? 囁いた言葉は恐ろしいのに、アスティはふわりと嬉しそうに笑った。本当に言葉に出来ないほど素敵なお嫁さん。僕は世界一幸せだよ。愛を込めて、最強の竜女王と唇を重ねた。
数年後、僕は慌ててアスティを呼び止めた。剣なんて持って、何する気なの? 駆け寄って、その手から剣を奪った。
「アスティ! 赤ちゃんがいるのに」
「少し動いた方が体にいいのよ」
「絶対にダメだよ。どうしてもって言うなら、僕……泣くからね」
「ぐぅ……分かったわ」
僕は結局カッコいい旦那さんには程遠くて、でもアスティは僕に弱い。最強の称号を持つ竜女王なのに、絶対に僕の涙に勝てないんだ。それが擽ったくて嬉しい。大きくなったお腹を撫でて、アスティと腕を組んだ。ちょっと油断すると、すぐ鍛錬をしようとする。赤ちゃんに何かあったら困るからね。
驚いて青ざめたアベルに頼まれて止めに来た僕は、彼女を連れて部屋に戻った。庭が見えるテラスに用意させた長椅子に寝そべらせ、手前のラグに座ってお腹に耳を押し当てる。
「この子、動いてるわ」
「アスティが無茶しようとしたから、驚いたんだと思う」
「あら。お父さんが泣くなんて言うから、びっくりしたんじゃない?」
くすくす笑うアスティに伸び上がってキスをして、僕はまたお腹に耳を押し当てた。早く出てきて、すごく大切に愛するから。もうすぐ、僕達の幸せが増えるんだね――。
Happy END……
*********************
本編完結です。この後、カイの両親の出会い編を外伝で書きます。明日からの連載になりますので、まだお付き合いください(o´-ω-)o)ペコッ
部屋に薔薇の花びらを散らしたのは、アベルのアイディア。ヒスイが庭師のおじいちゃんと用意した。アスティは普段は言わないけど、ロマンチストなんだよ。他のドラゴンが花嫁との初夜で、薔薇を散らした話を聞いて憧れてたと教えてもらった。
天蓋の絹も三重にして、上質な薄いものに変更したし、ベッドの上は可愛いハートのクッションを敷き詰めたよ。もちろん、色はピンクと白に限定して。女の子らしいことが大好きなのに、隠してるアスティも好き。だから彼女が喜ぶ内装を考えた。
ドレス姿のまま運んで、そっとベッドに下ろす。照れた顔を逸らして、お風呂に入ると逃げるアスティを押し倒した。両手で囲って、逃げ場を奪う。
「ダメ、アスティの匂い……僕は好きなんだから」
くんと首筋を匂って、教えてもらった一際小さな鱗を探す。ゆっくり唇を滑らせて、見つけた鱗に舌を這わせた。びくりと肩を揺らすアスティの指が、僕の肩に食い込む。それでもゆっくり、何度も鱗を舐めた。顔を上げて、真っ赤な顔のアスティの唇に触れる。
「アスティ、僕、君の番に相応しいオスになった?」
「……カイ以外いないわ。最高のお婿さんよ」
薄っすら涙が膜を張る瞳が、きらきらと輝く。ずっと僕を見守った宝石に敬意を込めて口付けを。そこからは夢中だった。大好きなアスティの声を聞いて、肌に触れて、僕は最高に幸せで気持ちいい時間を過ごす。朝になって明るくなっても、僕はアスティを離さなかった。
「おはよ……」
自分でも声が掠れてるのが分かる。アスティはもっと酷くて、声が言葉にならなかった。だからボリス師匠に言われて用意したお水を、一口含んで口付ける。
「愛してる、アスティ。ずっと一緒にいようね」
僕から受け取った水を飲んだアスティが頷き、掠れた声で「愛してるわ」と返してくれた。大広間はずっと朝まで宴会を続けて、きっと今も騒いでる。僕達はそれを知りながら、またお互いの肌に溺れた。
どんなに大切な人でも、彼女には勝てないから。弱点の鱗を晒して、甘い声を零す彼女は美しくて。この手をすり抜けて逃げてしまいそう。それが怖かったのは子どもだった証拠だね。今なら、逃がさないために閉じ込めて羽を奪ってしまうよ。
ねえ、それでもいい? 囁いた言葉は恐ろしいのに、アスティはふわりと嬉しそうに笑った。本当に言葉に出来ないほど素敵なお嫁さん。僕は世界一幸せだよ。愛を込めて、最強の竜女王と唇を重ねた。
数年後、僕は慌ててアスティを呼び止めた。剣なんて持って、何する気なの? 駆け寄って、その手から剣を奪った。
「アスティ! 赤ちゃんがいるのに」
「少し動いた方が体にいいのよ」
「絶対にダメだよ。どうしてもって言うなら、僕……泣くからね」
「ぐぅ……分かったわ」
僕は結局カッコいい旦那さんには程遠くて、でもアスティは僕に弱い。最強の称号を持つ竜女王なのに、絶対に僕の涙に勝てないんだ。それが擽ったくて嬉しい。大きくなったお腹を撫でて、アスティと腕を組んだ。ちょっと油断すると、すぐ鍛錬をしようとする。赤ちゃんに何かあったら困るからね。
驚いて青ざめたアベルに頼まれて止めに来た僕は、彼女を連れて部屋に戻った。庭が見えるテラスに用意させた長椅子に寝そべらせ、手前のラグに座ってお腹に耳を押し当てる。
「この子、動いてるわ」
「アスティが無茶しようとしたから、驚いたんだと思う」
「あら。お父さんが泣くなんて言うから、びっくりしたんじゃない?」
くすくす笑うアスティに伸び上がってキスをして、僕はまたお腹に耳を押し当てた。早く出てきて、すごく大切に愛するから。もうすぐ、僕達の幸せが増えるんだね――。
Happy END……
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本編完結です。この後、カイの両親の出会い編を外伝で書きます。明日からの連載になりますので、まだお付き合いください(o´-ω-)o)ペコッ
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