上 下
149 / 153

148.幸せはどんどん増えていく

しおりを挟む
 寝室はいつもと違う雰囲気だった。照明は落とされ、いくつか蝋燭の火が揺れる。この蝋燭は魔法で作ったから、外に火が飛ぶことはないんだ。イェルドに教わった。

 部屋に薔薇の花びらを散らしたのは、アベルのアイディア。ヒスイが庭師のおじいちゃんと用意した。アスティは普段は言わないけど、ロマンチストなんだよ。他のドラゴンが花嫁との初夜で、薔薇を散らした話を聞いて憧れてたと教えてもらった。

 天蓋の絹も三重にして、上質な薄いものに変更したし、ベッドの上は可愛いハートのクッションを敷き詰めたよ。もちろん、色はピンクと白に限定して。女の子らしいことが大好きなのに、隠してるアスティも好き。だから彼女が喜ぶ内装を考えた。

 ドレス姿のまま運んで、そっとベッドに下ろす。照れた顔を逸らして、お風呂に入ると逃げるアスティを押し倒した。両手で囲って、逃げ場を奪う。

「ダメ、アスティの匂い……僕は好きなんだから」

 くんと首筋を匂って、教えてもらった一際小さな鱗を探す。ゆっくり唇を滑らせて、見つけた鱗に舌を這わせた。びくりと肩を揺らすアスティの指が、僕の肩に食い込む。それでもゆっくり、何度も鱗を舐めた。顔を上げて、真っ赤な顔のアスティの唇に触れる。

「アスティ、僕、君の番に相応しいオスになった?」

「……カイ以外いないわ。最高のお婿さんよ」

 薄っすら涙が膜を張る瞳が、きらきらと輝く。ずっと僕を見守った宝石に敬意を込めて口付けを。そこからは夢中だった。大好きなアスティの声を聞いて、肌に触れて、僕は最高に幸せで気持ちいい時間を過ごす。朝になって明るくなっても、僕はアスティを離さなかった。

「おはよ……」

 自分でも声が掠れてるのが分かる。アスティはもっと酷くて、声が言葉にならなかった。だからボリス師匠に言われて用意したお水を、一口含んで口付ける。

「愛してる、アスティ。ずっと一緒にいようね」

 僕から受け取った水を飲んだアスティが頷き、掠れた声で「愛してるわ」と返してくれた。大広間はずっと朝まで宴会を続けて、きっと今も騒いでる。僕達はそれを知りながら、またお互いの肌に溺れた。

 どんなに大切な人でも、彼女には勝てないから。弱点の鱗を晒して、甘い声を零す彼女は美しくて。この手をすり抜けて逃げてしまいそう。それが怖かったのは子どもだった証拠だね。今なら、逃がさないために閉じ込めて羽を奪ってしまうよ。

 ねえ、それでもいい? 囁いた言葉は恐ろしいのに、アスティはふわりと嬉しそうに笑った。本当に言葉に出来ないほど素敵なお嫁さん。僕は世界一幸せだよ。愛を込めて、最強の竜女王と唇を重ねた。





 数年後、僕は慌ててアスティを呼び止めた。剣なんて持って、何する気なの? 駆け寄って、その手から剣を奪った。

「アスティ! 赤ちゃんがいるのに」

「少し動いた方が体にいいのよ」

「絶対にダメだよ。どうしてもって言うなら、僕……泣くからね」

「ぐぅ……分かったわ」

 僕は結局カッコいい旦那さんには程遠くて、でもアスティは僕に弱い。最強の称号を持つ竜女王なのに、絶対に僕の涙に勝てないんだ。それが擽ったくて嬉しい。大きくなったお腹を撫でて、アスティと腕を組んだ。ちょっと油断すると、すぐ鍛錬をしようとする。赤ちゃんに何かあったら困るからね。

 驚いて青ざめたアベルに頼まれて止めに来た僕は、彼女を連れて部屋に戻った。庭が見えるテラスに用意させた長椅子に寝そべらせ、手前のラグに座ってお腹に耳を押し当てる。

「この子、動いてるわ」

「アスティが無茶しようとしたから、驚いたんだと思う」

「あら。お父さんが泣くなんて言うから、びっくりしたんじゃない?」

 くすくす笑うアスティに伸び上がってキスをして、僕はまたお腹に耳を押し当てた。早く出てきて、すごく大切に愛するから。もうすぐ、僕達の幸せが増えるんだね――。






   Happy END……









*********************
 本編完結です。この後、カイの両親の出会い編を外伝で書きます。明日からの連載になりますので、まだお付き合いください(o´-ω-)o)ペコッ
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

【完結】虐待された幼子は魔皇帝の契約者となり溺愛される

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
 ――僕は幸せになってもいいの?  死ね、汚い、近づくな。ゴミ、生かされただけ感謝しろ。常に虐げられ続けた子どもは、要らないと捨てられた。冷たい裏路地に転がる幼子は、最後に誰かに抱き締めて欲しいと願う。  願いに引き寄せられたのは――悪魔の国ゲーティアで皇帝の地位に就くバエルだった!  虐待される不幸しか知らなかった子どもは、新たな名を得て溺愛される。不幸のどん底から幸せへ手を伸ばした幼子のほのぼのライフ。  日常系、ほのぼの、ハッピーエンド 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 【表紙イラスト】蒼巳生姜(あおみ しょうが)様(@syo_u_ron) 2022/10/31  アルファポリス、第15回ファンタジー小説大賞 奨励賞 2022/08/16  第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 2022/03/19  小説家になろう ハイファンタジー日間58位 2022/03/18  完結 2021/09/03  小説家になろう ハイファンタジー日間35位 2021/09/12  エブリスタ、ファンタジー1位 2021/11/24  表紙イラスト追加

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...