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109.僕の体を返して!

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「憑依は失われた秘術だ。興味深かったが……こうして理屈が分かれば、さほど難しい物でもない」

 指先で新たな魔法陣を作るラーシュが、難しい言葉を並べる。それは魔法陣に関する話みたいで、僕には分からなかった。でもね、自由に動かない体の中で、すごく痛かった全身が楽になる。

 ふわっと浮いた感じで、痛くないの。あの魔法陣のお陰かな。ラーシュ、僕はここだよ。手を振る余裕も出来た。僕のいる場所は暗いのかな。目が見えないはずなのに、外のラーシュの怖い顔が良く見える。それにアスティが心配そうな顔をしてるよ。

 僕は無事だよ、って叫んだら聞こえるかも。そう思って必死で何回も叫ぶ。喉が痛くなるまで叫んだら、アスティがぱっと顔を上げた。僕の声が聞こえたみたい。

「カイ、私の番の声がする」

 小さく呟いたアスティが、泣きそうな表情で目を閉じた。次に目を開けた時、アスティはいつものカッコイイ彼女で。ドラゴンで一番強い僕のアスティだった。

「返してもらう。二度と蘇らぬよう、その魂をずたずたに引き裂いてやる」

「おや、いいのか? この子は怖がって近づかなくかもしれんぞ」

 ニヤニヤと嫌な言い方をする僕の体は、中に悪い人が入ってるんだ。これを退治するなら、僕はアスティが痛いことしても我慢出来る。だからやっつけちゃって! そう願った声が届いたみたいに、アスティは自信たっぷりな顔で笑った。

「私の番を甘くみるな。お前が考える程度の矮小な心根の子ではない」

 不愉快だと言い切って、アスティは僕が勇気ある子だと褒めた。痛みに耐え、困難を乗り越える立派な子って。嬉しくて僕は大きく頷いた。

 そうだよ。僕はお前なんかに負けない! 出ていけ、これは僕の体で、番であるアスティの物なんだから! 僕はアスティを傷つけるお前なんか嫌いだ。

 何度も繰り返して「嫌い」って思っていたら、周りが少し明るくなった。怖いも減るし、アスティが良く見えるよ。もっとたくさん「嫌い」を繰り返したら、僕がお外に出られるかな。アスティに触って、髪を撫でて欲しいの。たくさんキスもしたいし、ご飯を食べたり隣で寝たりしたいよ。

 ぎゅっと拳を握った。僕、頑張るから。絶対にあの変な黒い人に負けたりしないから、待っててね。ラーシュは作った魔法陣を次々と投げて、その度に黒い人は苦しそうな声を出した。僕の体を返して! 僕も中から応援して叫ぶ。

 黒い人は大きな魔法陣を描いて、ラーシュとアスティに攻撃した。いきなり大きな炎や氷をいっぱい投げつける。

 危ないと叫ぶ声より早く、アスティの爪が魔法を真っ二つにした。腕の服が肩まで破けて、剥き出しになった腕は、銀の鱗に覆われている。きらきらして綺麗だな。見惚れる僕と正反対の言葉で、黒い人は彼女を罵った。

「巨大トカゲ風情が! 生意気な!」

 僕のアスティに、僕の声で嫌なこと言わないで! 許さないんだから!!
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