上 下
85 / 91
外伝

外伝1-1.いつお姉様より上に行けるのやら

しおりを挟む
 のんびりとお膝で寛ぐ。見上げれば、私を抱き上げるのはリカラ。ギータ陛下と同じ神様だけど、ドラゴンじゃなかった。ギータ陛下は古代竜という凄く大きく立派な竜なのに、リカラはふさふさの大きな猫なの。でも猫って言うと変な顔するし、お姉様は「獅子」って呼んでた。

「リカラ、あーん」

 目の前のお菓子を食べたければ、声で促す。それが正しい番の形だと教えてもらった。私はずっとお屋敷の奥にいて、お姉様みたいに勉強や習い事をしていない。だから知らないことばかり。番は未来のお嫁さんで、リカラは私の旦那さんになる。

「どうぞ」

 唇に触れたお菓子を齧る。この焼き菓子は甘いけど、少し硬い。もっとほろほろ崩れるお菓子が好きだな。見上げると「次は用意するよ」と言ってくれる。リカラは私の考えが伝わるから、すごく楽。ギータ陛下と出会ってからのお姉様は、あまり言葉を使わなくなった。やっぱり気持ちが伝わるんだって。

 お姉様はギータ陛下のお嫁さんになった。春の暖かな日に、皆で花を集めて祝う。お姉様の頭の上に飾った花冠は私が作ったの。白いドレスのお姉様はすごく綺麗だった。

「アデライダも綺麗になれるよ」

「本当?」

「もちろん。僕のお嫁さんだからね」

 そうなのかな。神様が言うなら、そうなんだよね。神殿の外に出ると、私もお姉様みたいに拝まれる。不思議な感じがした。お前なんか嫌いだと叫ぶ人ばかりだったから。

 あの日突然、お姉様が部屋に来たことを覚えている。遠くからそっと見るだけだったお姫様が、手の届く位置にいてびっくりした。お菓子が入った袋をくれて、全部美味しく食べた。すぐにまた別の袋を運んで来る。不思議に思ったっけ。

 誰も私に声をかけてくれないし、たまに話しかけても「邪魔だ」「あっちへ行け」だった。あちこちを覗いて歩いて言葉を覚えたんだと思う。だからお姉様みたいに綺麗な話し方は出来ない。いつも綺麗なドレスを着て、優しく微笑んでいるお姉様は私の宝物だ。

 私をあの薄暗い部屋から出して、同じ部屋に入れてくれた。猫のペキのお母さんになれたし、旦那さんのリカラもお姉様が教えてくれる。私はいつでもお姉様を信じてれば間違いない。

「出来たら、僕も信じて欲しいんだけど?」

 リカラが眉尻を下げて、情けない顔をする。この顔は好き。たぶん、私しか見てないと思うから。困ったなって呟いて、リカラが私の額にキスをする。これはお姉様と同じだ。寝る前によくキスを貰った。理由を聞いたら、好きだからだと笑った。お姉様にお返しをしたら、驚いた後で抱き締められる。

「いつより上に行けるのやら」

 何を言ってるんだろう。リカラは旦那さん、お姉様は宝物、ギータ陛下は神様なんだよ? 全員別々なのにね。リカラの膝の上で笑う私の膝で、ペキが耳を揺らした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

処理中です...