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79.神様の代行は新米神様

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 動き出したギータ様の対応は早かった。元貴族の中から使えそうな文官を数人選び出し、彼らにある程度の権限を持たせる。その上で、お布施を募った。いわゆる税金代わりだと思う。神様が直接夢に出演して、神託を下したことで民は動いた。

 かつての神殿があった場所に用意された箱へ、それぞれが品物やお金を入れていく。あっという間に大行列になった。というのも、ギータ様が手始めだと言って畑の作物を祝福したのだ。まだ種まき後で刈り取りまで半年近くあるのに、昼前にほとんどの作物が収穫可能になった。

「こんなもんか」

 満足そうにギータ様は笑う。

 恩恵を被った人達が、お礼の気持ちを込めてお布施を置いていく。お金だけじゃなく、現物も多かった。収穫したばかりの果物や麦、パン屋の主人は焼き立てパンを。元貴族夫人だった女性は、手持ちがないと宝石を差し出す。そこに貴賤の差はなかった。

 己が手にした物や収穫物の中で、価値があると思う物を神様に捧げる。代わりにギータ様は作物を実らせ、生活を豊かにした。集めた文官達は今後、ギータ様の代理として街の整備を始めるらしい。

 物の値段が高騰して、貨幣は価値をなくした。だから整備にかかる人件費は、お布施から賄う。現物支給や物々交換と同じだった。原始的だけど、本人達が納得すれば効果は高い。欲しい物をもらうわけだから、意味のない金貨より喜ばれた。

「すごい……」

「俺を信仰する民が増えれば、当然力は増える。出来ることが多くなったら、民に返さないとな。お互いに与え合う関係が、神と人の正しい在り方だ」

 遠くから崇めて距離を置くより、こうして近い距離で共に歩く。それが正しいとギータ様は言い切った。日本の八百万の神の考え方に似ているかも。何にでも神は宿り、人々は何に対しても感謝する。そこから信仰が始まり、いつしか傲慢になった人間は神への感謝を忘れた。

 一度崩れた信頼関係をまた構築しようと、ギータ様が歩み寄った形だ。しばらく地上を放置したことで、神や執政者の必要性を改めて民に突きつけた。王家、貴族、神殿への不信感が渦巻く状態で、新しい行政を打ち立てても動かない。ギータ様はそう説明してくれた。

「これで前みたいに街は機能しますか?」

「機能させるのは人間だが、目に見える抑止力があれば問題ないだろ」

 古代竜である神様がいるうちは、人間はその恐ろしさと英知・恩恵を忘れない。そう言い切った後、ギータ様はくしゃりと銀髪をかき乱した。ほんのり金が入った美しい髪を乱暴に混ぜたあと、一言「面倒くさい」とぼやく。

 様々な知識や力がある神様なのに、変なところが人間臭くて。ふふっと笑った私の白い髪に彼は唇を寄せた。肩を抱いて頬に唇を触れさせ、突然思いついたらしい。

「そうだ、リカラにやらせよう」

「リカラに?」

 神様代行をする神様って、普通なのかしら。
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