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75.もう一人の花嫁
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ギータ様の鍾乳洞神殿へ戻れば、あちこち壊れた跡が痛々しい。光る珠がうろうろしているのは、復旧作業をする精霊だった。しょげたリカラは大人しく、後ろをとぼとぼ付いて来る。まだライオン姿なのね。そういえば、戻るまで半日って言ってたっけ。
「勘違いしたのは仕方ないが、我が花嫁に傷をつけた罰は受けてもらうぞ」
ん? 勘違いは仕方ないって。何の話だろう。不思議に思って見上げる私の頬を撫で、ギータ様は苦笑いした。
「リカラの花嫁は、アデライダだ」
「へ?」
間抜けな声が漏れた。さっきから「は」だの「へ」だの、私の言語機能が崩壊してるわ。でも驚いて何も言葉が見つからないの。アデライダがリカラの花嫁? どうやって知るの、いえ……何を基準に選ばれるのかな。神様って、そんなに簡単に花嫁を選んだらダメだと思う。
「簡単じゃないが」
話す間に、神殿の方から「お姉様!」と叫ぶアデライダが走ってきた。足元をぴょこぴょこ飛び回るペキが、踏まれそうで危ない。なんとか無事にたどり着いたアデライダは、勢いそのままに私に飛びついた。後ろでギータ様が支えていなかったら、倒れたかも。ちょっと勢いが怖かった。
「アデライダ、ペキも。無事でよかったわ」
「……僕、意味が分からない」
当事者であるリカラは、花嫁と名指しされたアデライダと私を交互に見つめる。それから大きく首を傾げた。目の前にしても私の方に興味があるのなら、ギータ様の勘違いってこともありそう。
「いいか? ほら」
ギータ様が私の上で何かを払うような仕草をした。途端に、リカラの瞳孔が縦に割れる。興奮した様子で、獅子が足を踏み出した。きょとんとしたアデライダは「大きい猫だ」と手を伸ばす。
「猫じゃなくて、獅子ね」
訂正するものの、リカラが噛むとは思えず見送った。手が触れると、ライオンのタテガミがぶわりと膨らむ。猫の尻尾みたい。ペキは「しゃー」と威嚇しながら尻尾を膨らませた。そうよね、普通は尻尾が膨らむんだもの。
のんびりした私の感想に、ギータ様が喉を震わせて笑った。それから私を抱き上げる。
「理解したか? ならば罰を受けろ」
「あ、うん。ごめんね……」
リカラは素直にギータ様の言葉に頷いた。謝罪の言葉と同時に、私の背中の痛みが軽くなる。これで印自体は消えたらしい。アデライダは薄茶のタテガミに顔を埋めて「ふかふか」と嬉しそうだった。リカラは本当に猫がじゃれるみたいに、アデライダへ鼻先を押し付ける。
花嫁って話は本当みたい。アデライダに対して加減してるし、懐いた猫の仕草だった。触れたら分かるのに、どうして私と間違えたんだろう?
「少しばかり複雑なんだが」
ギータ様は私の疑問を解決するため、抱き上げたまま説明を始めた。首に手を回して態勢を安定させたので、耳元で心地よい声が聞こえる。
「フランカと義妹の立場を入れ替えただろう? あれで歪みが起きた」
本来は公爵令嬢であるアデライダが、リカラの花嫁だった。その立場を逆転させたため、複雑に絡んだ糸をリカラは読み解けなかったのだ。ソシアス公爵令嬢となった私は、本来「ラファエラの娘」のはず。その逆転の偽装を取り払えば、本来の花嫁が認識できる。
さっき何かを払う仕草をしたのは、これだったのね。納得して頷いた。一頻りじゃれて満足したのか、リカラはぺたんと腹ばいになって鼻先を地面に付ける。反省する猫みたい。
「勘違いしたのは仕方ないが、我が花嫁に傷をつけた罰は受けてもらうぞ」
ん? 勘違いは仕方ないって。何の話だろう。不思議に思って見上げる私の頬を撫で、ギータ様は苦笑いした。
「リカラの花嫁は、アデライダだ」
「へ?」
間抜けな声が漏れた。さっきから「は」だの「へ」だの、私の言語機能が崩壊してるわ。でも驚いて何も言葉が見つからないの。アデライダがリカラの花嫁? どうやって知るの、いえ……何を基準に選ばれるのかな。神様って、そんなに簡単に花嫁を選んだらダメだと思う。
「簡単じゃないが」
話す間に、神殿の方から「お姉様!」と叫ぶアデライダが走ってきた。足元をぴょこぴょこ飛び回るペキが、踏まれそうで危ない。なんとか無事にたどり着いたアデライダは、勢いそのままに私に飛びついた。後ろでギータ様が支えていなかったら、倒れたかも。ちょっと勢いが怖かった。
「アデライダ、ペキも。無事でよかったわ」
「……僕、意味が分からない」
当事者であるリカラは、花嫁と名指しされたアデライダと私を交互に見つめる。それから大きく首を傾げた。目の前にしても私の方に興味があるのなら、ギータ様の勘違いってこともありそう。
「いいか? ほら」
ギータ様が私の上で何かを払うような仕草をした。途端に、リカラの瞳孔が縦に割れる。興奮した様子で、獅子が足を踏み出した。きょとんとしたアデライダは「大きい猫だ」と手を伸ばす。
「猫じゃなくて、獅子ね」
訂正するものの、リカラが噛むとは思えず見送った。手が触れると、ライオンのタテガミがぶわりと膨らむ。猫の尻尾みたい。ペキは「しゃー」と威嚇しながら尻尾を膨らませた。そうよね、普通は尻尾が膨らむんだもの。
のんびりした私の感想に、ギータ様が喉を震わせて笑った。それから私を抱き上げる。
「理解したか? ならば罰を受けろ」
「あ、うん。ごめんね……」
リカラは素直にギータ様の言葉に頷いた。謝罪の言葉と同時に、私の背中の痛みが軽くなる。これで印自体は消えたらしい。アデライダは薄茶のタテガミに顔を埋めて「ふかふか」と嬉しそうだった。リカラは本当に猫がじゃれるみたいに、アデライダへ鼻先を押し付ける。
花嫁って話は本当みたい。アデライダに対して加減してるし、懐いた猫の仕草だった。触れたら分かるのに、どうして私と間違えたんだろう?
「少しばかり複雑なんだが」
ギータ様は私の疑問を解決するため、抱き上げたまま説明を始めた。首に手を回して態勢を安定させたので、耳元で心地よい声が聞こえる。
「フランカと義妹の立場を入れ替えただろう? あれで歪みが起きた」
本来は公爵令嬢であるアデライダが、リカラの花嫁だった。その立場を逆転させたため、複雑に絡んだ糸をリカラは読み解けなかったのだ。ソシアス公爵令嬢となった私は、本来「ラファエラの娘」のはず。その逆転の偽装を取り払えば、本来の花嫁が認識できる。
さっき何かを払う仕草をしたのは、これだったのね。納得して頷いた。一頻りじゃれて満足したのか、リカラはぺたんと腹ばいになって鼻先を地面に付ける。反省する猫みたい。
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