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71.酷な決断をさせてしまった――SIDE公爵
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産まれた娘が泣く姿を可愛いと感じた。夜中に泣くことが多かったが、鬱陶しいと思うより愛らしい。心配で娘を抱く妻に寄り添ったこともあった。成長する娘にすべてを与えてやりたい。お告げの件はあるが、もっと地盤固めをしたかった。
貴族とのパイプを太くしようと動いた矢先、妹ラファエラが駆け落ちする。どこの馬の骨だか分からぬ男の子を宿し、産んで亡くなった。なんとも迷惑なことだ。貴族として最高峰の公爵家ながら、我がソシアス家は爪はじきにされた。
未婚の公爵令嬢が、父の分からぬ私生児を産む。その醜聞を払拭できず、数年に渡って不遇を味わった。妻はお茶会や夜会の誘いがなくなり、仕事関係からも距離を置かれる。領地を治めるため臣従する男爵家や子爵家からも造反が出た。
必死に騒動を収めたところで、最愛の娘フランシスカと第一王子イグナシオ殿下の顔合わせが実現する。お告げですでに決まった婚約だが、可愛いフランに王子は惚れたらしい。これで娘は幸せになれる。残ったアデライダをどう片付けるか。
私生児など政略結婚にも利用できないので、ごく潰しもいいところだ。外へ出して公爵家の名を汚されても困る。もし数年後にまた私生児を持ち込まれたら、王妃になるフランの足を引っ張るだろう。仕方なく飼い殺しにした。
屋敷の隅へ追いやり、最低限の食事と衣服を与える。生きていくのがやっとの環境で、しぶとく生き残るアデライダに舌打ちした。表立って虐待するのも外聞が悪い。
殺そうと考えたが、この屋敷から棺を持ち出したことが噂になっても厄介だった。死んだのがフランシスカで、生きている方は私生児だ。そんな噂を流されたら、フランシスカの未来に影が差す。死なせず、ぎりぎりのところで保つのが最善策だった。フランシスカが嫁いだ後で始末すればいい。
なぜかフランは、アデライダを気に掛けた。見つからぬよう隔離したはずが、接触した上で侍女にしたいと言い出す。引き離そうにもフランは拒んだ。この頃からか。フランは綺麗な笑顔を作って壁を築く。私達夫婦との接触を減らそうとしていた。
心当たりはない。あの子は私達の娘だ。愛おしくて何でも叶えてやった。お金も物も惜しんだことはなく、いつだって笑顔で接する。それでも間に感じる壁は厚くなり、やがて災害が起きた。屋敷を襲った土砂崩れは不自然だ。ドラゴンが現れて救ったと話が広まり、娘は竜乙女と呼ばれる。
光栄なことだった。古代竜ギータ陛下を柱とする国教は人々に浸透している。この国で、竜乙女と呼ばれる栄誉を得た娘は、やはり特別なのだと喜んだ。
「私はソシアス公爵家を除籍します」
突然の離別宣言に驚く。可愛いフランの口から出た残酷な言葉、ようやくすべてが好転し始めたのだ。妹ラファエラが汚した家名も息を吹き返し、これから……なのに。娘は私と妻を見捨てた?
縋る私達夫婦へ、フランは容赦なく引導を渡す。ギータ陛下に寄り添うフランの言葉に重なる形で、過去の私達の行いが蘇った。隔離し傷つけた前回の記憶が、恐ろしい勢いで広がる。フランとアデライダは同じ? いや、表裏一体だったのか。
謝ろうとする声を封じられ、言い訳ひとつ許されなかった。放り出された先で、私は妻を抱き寄せる。これから厳しい日々が待っているだろう。私達が今回のアデライダや前回のフランにしたような、過酷な仕打ちと生活が待っている。
貴族社会から締め出される程度では済まない。平民も私達の罪を知るのだから……理解しながら私達を捨てた娘フランシスカ。生まれた日の喜びや胸を突く愛おしさを思い出す。
ああ、私達は前回の過ちを今回償えなかったのか。これほど酷な決断をさせてしまった。後悔に苛まれながらも、生きるしかないのだ。死ぬことで、あの子達にこれ以上の罪悪感を背負わせたくないなら、泥を啜っても生きる。だから、お前達は幸せになりなさい――。
貴族とのパイプを太くしようと動いた矢先、妹ラファエラが駆け落ちする。どこの馬の骨だか分からぬ男の子を宿し、産んで亡くなった。なんとも迷惑なことだ。貴族として最高峰の公爵家ながら、我がソシアス家は爪はじきにされた。
未婚の公爵令嬢が、父の分からぬ私生児を産む。その醜聞を払拭できず、数年に渡って不遇を味わった。妻はお茶会や夜会の誘いがなくなり、仕事関係からも距離を置かれる。領地を治めるため臣従する男爵家や子爵家からも造反が出た。
必死に騒動を収めたところで、最愛の娘フランシスカと第一王子イグナシオ殿下の顔合わせが実現する。お告げですでに決まった婚約だが、可愛いフランに王子は惚れたらしい。これで娘は幸せになれる。残ったアデライダをどう片付けるか。
私生児など政略結婚にも利用できないので、ごく潰しもいいところだ。外へ出して公爵家の名を汚されても困る。もし数年後にまた私生児を持ち込まれたら、王妃になるフランの足を引っ張るだろう。仕方なく飼い殺しにした。
屋敷の隅へ追いやり、最低限の食事と衣服を与える。生きていくのがやっとの環境で、しぶとく生き残るアデライダに舌打ちした。表立って虐待するのも外聞が悪い。
殺そうと考えたが、この屋敷から棺を持ち出したことが噂になっても厄介だった。死んだのがフランシスカで、生きている方は私生児だ。そんな噂を流されたら、フランシスカの未来に影が差す。死なせず、ぎりぎりのところで保つのが最善策だった。フランシスカが嫁いだ後で始末すればいい。
なぜかフランは、アデライダを気に掛けた。見つからぬよう隔離したはずが、接触した上で侍女にしたいと言い出す。引き離そうにもフランは拒んだ。この頃からか。フランは綺麗な笑顔を作って壁を築く。私達夫婦との接触を減らそうとしていた。
心当たりはない。あの子は私達の娘だ。愛おしくて何でも叶えてやった。お金も物も惜しんだことはなく、いつだって笑顔で接する。それでも間に感じる壁は厚くなり、やがて災害が起きた。屋敷を襲った土砂崩れは不自然だ。ドラゴンが現れて救ったと話が広まり、娘は竜乙女と呼ばれる。
光栄なことだった。古代竜ギータ陛下を柱とする国教は人々に浸透している。この国で、竜乙女と呼ばれる栄誉を得た娘は、やはり特別なのだと喜んだ。
「私はソシアス公爵家を除籍します」
突然の離別宣言に驚く。可愛いフランの口から出た残酷な言葉、ようやくすべてが好転し始めたのだ。妹ラファエラが汚した家名も息を吹き返し、これから……なのに。娘は私と妻を見捨てた?
縋る私達夫婦へ、フランは容赦なく引導を渡す。ギータ陛下に寄り添うフランの言葉に重なる形で、過去の私達の行いが蘇った。隔離し傷つけた前回の記憶が、恐ろしい勢いで広がる。フランとアデライダは同じ? いや、表裏一体だったのか。
謝ろうとする声を封じられ、言い訳ひとつ許されなかった。放り出された先で、私は妻を抱き寄せる。これから厳しい日々が待っているだろう。私達が今回のアデライダや前回のフランにしたような、過酷な仕打ちと生活が待っている。
貴族社会から締め出される程度では済まない。平民も私達の罪を知るのだから……理解しながら私達を捨てた娘フランシスカ。生まれた日の喜びや胸を突く愛おしさを思い出す。
ああ、私達は前回の過ちを今回償えなかったのか。これほど酷な決断をさせてしまった。後悔に苛まれながらも、生きるしかないのだ。死ぬことで、あの子達にこれ以上の罪悪感を背負わせたくないなら、泥を啜っても生きる。だから、お前達は幸せになりなさい――。
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