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68.あの人達が謝るんですか?
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作られた箱庭――誰も私達を傷つけない。とても安心できて、心が休まる。けれど……気づいているわ。ギータ様は私に内緒で動いた。神殿や貴族、生き残った元婚約者、両親。彼の復讐対象は多岐にわたるでしょうね。それを止められるのは私だけ。
「何が正しいのかな」
分からなくなってしまった。前回の痛みや苦しみを、私はまだ昇華出来ていない。憎しみも怒りもこの胸に燻っていた。だから、何もせず許す選択肢はないの。でも全員死ねとまで思わない。
「お姉様は悩んでいるの?」
並んで庭に座るアデライダは、花冠を作ることに夢中だ。昨日も作ったのに、今日もせっせと二人分作る。ペキにも乗せたいみたいだけど、猫にとっては迷惑のようだった。乗せてもすぐ落としてしまう。アデライダの手で編まれる花冠は完成間近、上手に出来ていた。
色取り取りの花を集めて、指先に草の汁を付けた彼女は編み続ける。くるっと巻いて大きさを確認し、最後に白い花で固定した。
「お姉様の分!」
「ありがとう」
無駄だとは思わない。だって妹が私に作ってくれるんだもの。数日で萎れてしまうとしても、気持ちはずっと積み重なる気がした。
「ねえ、アデライダ。もしお父様やお母様が謝ってきたら、あなたは許せる? 屋敷の隅へ追いやったあの人達を、助ける気になれるかしら」
前提条件が違い過ぎる。それでも参考にしたかった。あの頃の私が縋ったように、ささやかな愛情を求めるのか。今回の私のように拒絶する道を選ぶのか。前回の私より短い時間だけれど、彼女が絶望するまで十分すぎる年月だったはず。
きょとんとした顔でアデライダは固まり、ぎこちなく瞬く。何を言われたのか消化して、ゆっくり考えてから答えを口にした。
「あの人達が謝るんですか?」
「え?」
許す必要があるかと問われたら、ないと答えた。でも両親が謝るのは当然でしょう? 首を傾げた私に、アデライダは無邪気に笑った。
「私が知ってるのは、すぐ叩くメイドのアンネ。それから執事の人、甘いお菓子をくれたお姉様だけ。あっ、ペキもね。大好きなのはお姉様とペキ、あと神様です」
編み終えたと判断したペキは、空いた膝に上がり込む。当然のように丸まってうたた寝を始めた。可愛い子猫に手を伸ばして撫でながら、私はアデライダの出した結論に泣きたくなる。そうよね、あの人達が謝ることはない。だって、反省してないんだもの。
自分が悪いと思っていないのに謝られても、許せない。神の花嫁だからって、清らかであることを強要されるのはご免だわ。ギータ様は私を大切にしてくれる。考えて動いているのに、偽善で自分を騙して止める意味なんてなかった。
ただ、ありがとうと感謝を伝えて受け取ればいい。それが神様の与える愛情で、私が納得できるのなら構わなかった。教えず動くこともギータ様の愛情だわ。
「ありがとう、アデライダ」
なぜお礼を言われたのか首を傾げる妹の髪をくしゃりと乱す。薄茶の髪が柔らかく揺れた。
「ギータ様、早く帰ってくればいいわね。そうしたらこの花冠を譲るわ」
新しい花冠を編み始めたアデライダは、大きく目を見開いて笑った。
「じゃあ、もうひとつ作ります」
「お願いしようかな。アデライダの作る花冠、とても綺麗なんだもの」
前回享受できなかった愛情を得て、それでも貪欲に求めてしまう。それでもいいと笑って許す神がいて、私は彼の花嫁になる。じゃあ、いいじゃない。溺れてしまっても……ギータ様はきっと掬い上げてくれるから。
「何が正しいのかな」
分からなくなってしまった。前回の痛みや苦しみを、私はまだ昇華出来ていない。憎しみも怒りもこの胸に燻っていた。だから、何もせず許す選択肢はないの。でも全員死ねとまで思わない。
「お姉様は悩んでいるの?」
並んで庭に座るアデライダは、花冠を作ることに夢中だ。昨日も作ったのに、今日もせっせと二人分作る。ペキにも乗せたいみたいだけど、猫にとっては迷惑のようだった。乗せてもすぐ落としてしまう。アデライダの手で編まれる花冠は完成間近、上手に出来ていた。
色取り取りの花を集めて、指先に草の汁を付けた彼女は編み続ける。くるっと巻いて大きさを確認し、最後に白い花で固定した。
「お姉様の分!」
「ありがとう」
無駄だとは思わない。だって妹が私に作ってくれるんだもの。数日で萎れてしまうとしても、気持ちはずっと積み重なる気がした。
「ねえ、アデライダ。もしお父様やお母様が謝ってきたら、あなたは許せる? 屋敷の隅へ追いやったあの人達を、助ける気になれるかしら」
前提条件が違い過ぎる。それでも参考にしたかった。あの頃の私が縋ったように、ささやかな愛情を求めるのか。今回の私のように拒絶する道を選ぶのか。前回の私より短い時間だけれど、彼女が絶望するまで十分すぎる年月だったはず。
きょとんとした顔でアデライダは固まり、ぎこちなく瞬く。何を言われたのか消化して、ゆっくり考えてから答えを口にした。
「あの人達が謝るんですか?」
「え?」
許す必要があるかと問われたら、ないと答えた。でも両親が謝るのは当然でしょう? 首を傾げた私に、アデライダは無邪気に笑った。
「私が知ってるのは、すぐ叩くメイドのアンネ。それから執事の人、甘いお菓子をくれたお姉様だけ。あっ、ペキもね。大好きなのはお姉様とペキ、あと神様です」
編み終えたと判断したペキは、空いた膝に上がり込む。当然のように丸まってうたた寝を始めた。可愛い子猫に手を伸ばして撫でながら、私はアデライダの出した結論に泣きたくなる。そうよね、あの人達が謝ることはない。だって、反省してないんだもの。
自分が悪いと思っていないのに謝られても、許せない。神の花嫁だからって、清らかであることを強要されるのはご免だわ。ギータ様は私を大切にしてくれる。考えて動いているのに、偽善で自分を騙して止める意味なんてなかった。
ただ、ありがとうと感謝を伝えて受け取ればいい。それが神様の与える愛情で、私が納得できるのなら構わなかった。教えず動くこともギータ様の愛情だわ。
「ありがとう、アデライダ」
なぜお礼を言われたのか首を傾げる妹の髪をくしゃりと乱す。薄茶の髪が柔らかく揺れた。
「ギータ様、早く帰ってくればいいわね。そうしたらこの花冠を譲るわ」
新しい花冠を編み始めたアデライダは、大きく目を見開いて笑った。
「じゃあ、もうひとつ作ります」
「お願いしようかな。アデライダの作る花冠、とても綺麗なんだもの」
前回享受できなかった愛情を得て、それでも貪欲に求めてしまう。それでもいいと笑って許す神がいて、私は彼の花嫁になる。じゃあ、いいじゃない。溺れてしまっても……ギータ様はきっと掬い上げてくれるから。
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