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63.捨てずに選んで残したもの
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真っ白だった神殿は、色がついた絨毯や家具があるだけで家に見える。荘厳で神聖な空間が俗物的な感じ、かな。でもすごく落ち着く。アデライダが使うのは少し離れた部屋だった。元が地下空間みたいな場所だから、庭はない。どの部屋でも同じように光が降り注いだ。
「仕組みってどうなってるんだろ」
いわゆるギリシャ神殿のような太い柱が残る外は、光が差し込むのに洞窟の中だった。上に穴がないのに、どうして光が入ってくるの? 首を傾げて上を見上げる。眩しいだけで何も分からなかった。
周囲を精霊がふわふわと飛び回るけど、蛍みたいに光る球体としか認識できない。話かけてこないけど、こちらの言葉は理解しているようだった。
「このお花はあなた達が用意してくれたの?」
玄関先というか、ギータ様の巣である神殿の前に庭が出来ていた。昨日引っ越してきた時は、何もない土だったのに。自然の野原に似た光景だわ。作り込まれた庭園とは違う。自然な感じだった。ところどころに低木が生え、小さな実や花を付けていた。返事をするように、光が揺れる。
甘い香りに誘われて足を踏み出す。細い獣道があって、その先でアデライダがペキと一緒に寝転がっていた。覗き込んだらよく眠ってる。起こさずに隣に座った。あの道はアデライダが踏み分けたのかな。ごろんと寝転がった場所は、上に木の枝が伸びていた。
日差しが遮られた形で眩しくない。思いきり息を吸い込めば、花の甘い香りが漂った。蜜があるのかな、それとも実がなってるのかも。そんなことを考えながら目を閉じる。いつの間にか出来た庭は、とても居心地が良かった。
「もっと寝ていていいぞ」
身じろいだら、声が掛けられた。いつの間にか膝枕されている。目を開ける前に、顔の上半分を手で覆われた。大きくて温かくて落ち着く。深い息を吐きだして、また微睡む。
温度が一定に保たれているのか、寒くて目が覚めることはなかった。十分休めた気がする。張りつめていた緊張感が消えて、緩み切った感じだ。あふっと欠伸を手で覆い、開いた目の先で美しい顔が見下ろしていた。
ギータ様って、まつげが長い。それに下から見るといつもより若く見えるな。手を伸ばして銀色よりの金髪に触れた。さらさらと手を滑る感触が心地よくて、また伸ばした指先を掴まれる。
「起きたなら戻ろう。食事の支度が出来たぞ」
「誰が?」
「精霊だな。神殿に供えられる供物を持ち込んだ」
驚くけど、神殿にお供えされるのはギータ様宛だよね。問題ないのかも。起き上がった私は、近くで遊ぶアデライダを呼んだ。素直に走ってくる彼女は、編みかけの花冠を差し出す。くれるというより、見せたいのだろう。褒めて彼女の茶髪を撫でた。
年齢相応に幼い笑みを浮かべる義妹と手を繋ぎ、反対の手をギータ様に預ける。ペキを抱いたアデライダは、迷った末に花冠を頭に乗せた。
「出来上がったらお姉様に乗せたいの」
「そう? ありがとう」
前回の私と同じ目に遭ったこの子を、見捨てなくて良かった。偽善から始めた繋がりだけど、今の私に残されたのは二人と一匹だけ。この手は離したくないと強く願った。
「仕組みってどうなってるんだろ」
いわゆるギリシャ神殿のような太い柱が残る外は、光が差し込むのに洞窟の中だった。上に穴がないのに、どうして光が入ってくるの? 首を傾げて上を見上げる。眩しいだけで何も分からなかった。
周囲を精霊がふわふわと飛び回るけど、蛍みたいに光る球体としか認識できない。話かけてこないけど、こちらの言葉は理解しているようだった。
「このお花はあなた達が用意してくれたの?」
玄関先というか、ギータ様の巣である神殿の前に庭が出来ていた。昨日引っ越してきた時は、何もない土だったのに。自然の野原に似た光景だわ。作り込まれた庭園とは違う。自然な感じだった。ところどころに低木が生え、小さな実や花を付けていた。返事をするように、光が揺れる。
甘い香りに誘われて足を踏み出す。細い獣道があって、その先でアデライダがペキと一緒に寝転がっていた。覗き込んだらよく眠ってる。起こさずに隣に座った。あの道はアデライダが踏み分けたのかな。ごろんと寝転がった場所は、上に木の枝が伸びていた。
日差しが遮られた形で眩しくない。思いきり息を吸い込めば、花の甘い香りが漂った。蜜があるのかな、それとも実がなってるのかも。そんなことを考えながら目を閉じる。いつの間にか出来た庭は、とても居心地が良かった。
「もっと寝ていていいぞ」
身じろいだら、声が掛けられた。いつの間にか膝枕されている。目を開ける前に、顔の上半分を手で覆われた。大きくて温かくて落ち着く。深い息を吐きだして、また微睡む。
温度が一定に保たれているのか、寒くて目が覚めることはなかった。十分休めた気がする。張りつめていた緊張感が消えて、緩み切った感じだ。あふっと欠伸を手で覆い、開いた目の先で美しい顔が見下ろしていた。
ギータ様って、まつげが長い。それに下から見るといつもより若く見えるな。手を伸ばして銀色よりの金髪に触れた。さらさらと手を滑る感触が心地よくて、また伸ばした指先を掴まれる。
「起きたなら戻ろう。食事の支度が出来たぞ」
「誰が?」
「精霊だな。神殿に供えられる供物を持ち込んだ」
驚くけど、神殿にお供えされるのはギータ様宛だよね。問題ないのかも。起き上がった私は、近くで遊ぶアデライダを呼んだ。素直に走ってくる彼女は、編みかけの花冠を差し出す。くれるというより、見せたいのだろう。褒めて彼女の茶髪を撫でた。
年齢相応に幼い笑みを浮かべる義妹と手を繋ぎ、反対の手をギータ様に預ける。ペキを抱いたアデライダは、迷った末に花冠を頭に乗せた。
「出来上がったらお姉様に乗せたいの」
「そう? ありがとう」
前回の私と同じ目に遭ったこの子を、見捨てなくて良かった。偽善から始めた繋がりだけど、今の私に残されたのは二人と一匹だけ。この手は離したくないと強く願った。
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