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61. まさか僕の名を呼べるなんて!

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 目を覚ました私は、きょろきょろと見回した。部屋は私一人で、あの森の中の小屋じゃない。知らない部屋は絨毯が敷かれているが、掃除は行き届いていなかった。

 吸い込んでしまった埃に咽せていると、誰かが入ってくる。右側にある扉が開いたみたい。生理的な涙で滲んだ目を瞬く。知らない人だわ。神殿の人の服装ではないし、貴族っぽい雰囲気もない。だけど、偉そうな感じがした。

「……これが本当に古代竜の花嫁?」

 胡散臭そうに私を眺め、顔の中央に皺を寄せて首を傾げる。感情表現が豊かな人だな。ぼんやりとそう思ったところで、慌ててギータ様を呼んだ。

「ああ、呼んでも届かないよ。僕の隠蔽範囲内だからね」

 私がギータ様を呼んだことを見透かしたように、無理だと肩を竦めた。この人もギータ様と同じで、心が読めるの? でもギータ様は私を食べて、繋がったから読めると言ったのに。

「どこか、食べたの?」

 痛くないけど、齧られたのかも。血を飲まれた、とか? 心配になってじたばた暴れたら、驚いた顔で否定する。

「ん? ああ、古代竜にその能力はないな。僕は違う種族だからさ、能力も全然違う」

 親切に説明してくれる言葉を、噛み砕く。ギータ様が私の心を読めるのは、食べたから。でも目の前の人が私の心を読むのは、元からの能力ってこと?

「正解、頭は悪くないね」

 褒められたのかしら。それとも馬鹿にされた? ムッとしながら私は縛られた手足で暴れる。目の前の青年は、まだ若い印象だった。薄茶の髪と同じ色の瞳、顔立ちは8割? 10人いたら8人が美形と答える感じね。

 値踏みする私に大笑いし、青年はぱちんと指を鳴らした。拘束していた縄がすべて解ける。というか、バラバラになってしまった。ロープ自体が朽ちたような感じだ。

「8割か、面白い子だな」

「どちら様?」

「僕に名前を聞くなんて勇気あるな。褒美に教えてあげるよ、リカラだ」

「リカラ?」

 私が彼の名を繰り返した途端、薄茶の瞳が大きく見開かれた。瞳孔が縦に開いて、ギータ様に似ていると見つめ返す。しばらく固まった後、リカラは大笑いした。あまりに笑うので、待っているこちらが疲れそう。

「まさか僕の名を呼べるなんて! すごいな、君……えっと、フランシスカだっけ? 神になった僕の名を呼んで、さらに見つめ返す子は初めてだ。この世界の子じゃないのかな」

 いきなり核心に触れてくるリカラに、私は目を彷徨わせた。どうしよう、この人もしかして……ギータ様と敵対したランヘル公爵領の神様っぽい。読まれるのを承知で、私は叫んだ。

 ――ギータ様! 早く迎えに来て!!
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