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58.これを償いとします――SIDE王妃
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王宮から実家に戻り、離婚を申し立てる。神殿は渋るが、時間の問題だった。貴族は政略結婚が多いので離婚は少ないが、不満を持っている夫人は多い。平民を焚きつけ、彼女らに噂を回した。
貴族女性の頂点に立つ王妃が離婚すれば、あなた達も権利を獲得できる、と。実際のところは分からないが、その可能性は高まるだろう。騒ぎ立てる外部の声を聞きながら、久しぶりの実家で心を休める。
夫である国王は立派な人だ。でも逆は成り立たなかった。国王として立派でも、夫として役割を果たしていない。私に隠した女性の存在はとうに知れているし、息子を産んでから見向きもしないところも。王妃としての地位に未練はなかった。
前回も今回も同じね。溜め息を吐く。おそらく、公爵令嬢であるフランシスカも記憶を持っているはず。今回の人生で初めてお茶会に招待したとき、まだ幼い年齢の彼女は最上級のカーテシーを披露した。お菓子を食べる仕草、お茶のカップに伸ばした指先、すべてが王子妃教育を受けた後であることを証明している。
何より、私や王子イグナシオに対して見せる距離と怯えが、彼女が覚えているのだと教えた。
前回、私がイグナシオの婚約者変更を知ったのは、妹アデライダを連れて来られた時。フランシスカはすでに、生贄にされた後だった。何を言われたのか、理解できずに目を見開く。そんな私に、息子は得意げに言い放った。
「アデライダなら王妃に相応しい。家柄も可愛さも完璧です。それにソシアス公爵家が後ろについている。父上も理解してくれた」
裏で金が動いたのだわ。おそらく王家に都合のいい契約が結ばれ、その対価として王妃の座を約束した。だからフランシスカは邪魔になったのね。なんて可哀想な子、あんなに必死だったのに。
生贄を差し出した貴族家は、次の生贄を出す義務から逃れられる。何より、生贄を出したことで家名が高まる。他の貴族家はこれで罪悪感を薄めた。それでも娘を死なせたくないと、神殿に寄付をして逃れる家も少なくない。
生贄はあくまで名目、実際に古代竜ギータ陛下が食しているかも不明なのに。ただ名誉のために死ぬ役を、あの哀れな娘が背負ったというの? それを両親や妹、婚約者が支持して……。
己の腹を痛めて産んだ息子が、バケモノのように思えた。気持ち悪い、こんな汚れた生き物を生み出したのが私? それから数日、部屋にこもって嫌悪感や吐き気と戦った。
生贄を捧げて僅か1ヶ月で、この国は崩壊した。目を覚ました古代竜は、炎を吐き氷を突き立て、国を滅ぼす。その怒りを鎮めようと次の生贄が捧げられたが、神の怒りは収まらなかった。
王宮で最期を迎えた私は、なぜか時間を巻き戻り……乳母が育てた傲慢なはずの息子が別人になっていた。人が変わったよう。それは国王も同じだった。まるで童話に出てくる立派な王のように振る舞う。その変化の意味を確かめようと、公爵令嬢のフランシスカをお茶に誘った。
彼女は記憶を持っている。ならば動くはず。自分を殺した家族や元婚約者に対し、何もしないわけがなかった。あんな裏切り、私なら絶対に許さない。前回、知らずに加担した罪を償わなくてはいけないわ。
古代竜が王宮に舞い降りた日、私は決意した。この国が崩壊する未来は知っている。ならば、せめて民だけでも助かる方法を考えよう。私が王族の決まりを無視し、神殿の規律を破れば、世界は変化する。
大人しくしていたイグナシオが独占欲を見せたあの日、竜は怒りを露わに降臨した。ならばそれが答えだ。世界を巻き戻したのは、国教の神であるギータ陛下。花嫁と断言したフランシスカを守るため、彼女の復讐に手を貸すはず。
イグナシオを庇うつもりはない。前回好き勝手に振る舞った国王に、何かを期待する気もなかった。引きこもった実家で、私は最期の審判を待つ。神に否定された王家の妃は、ここで役目を終えるのだから。
家族はすでに逃した。大きな屋敷に残るのは、私一人。押し寄せた領民が叫びながら、松明を投げ込んだ。ランプがガラスを破り、炎が燃え広がる。
前回と違う、自分で選んだ今回に満足していた。我が神よ、これで前回の償いとさせてください。両手を組んで祈り、燃え盛る炎へ身を投じた。
貴族女性の頂点に立つ王妃が離婚すれば、あなた達も権利を獲得できる、と。実際のところは分からないが、その可能性は高まるだろう。騒ぎ立てる外部の声を聞きながら、久しぶりの実家で心を休める。
夫である国王は立派な人だ。でも逆は成り立たなかった。国王として立派でも、夫として役割を果たしていない。私に隠した女性の存在はとうに知れているし、息子を産んでから見向きもしないところも。王妃としての地位に未練はなかった。
前回も今回も同じね。溜め息を吐く。おそらく、公爵令嬢であるフランシスカも記憶を持っているはず。今回の人生で初めてお茶会に招待したとき、まだ幼い年齢の彼女は最上級のカーテシーを披露した。お菓子を食べる仕草、お茶のカップに伸ばした指先、すべてが王子妃教育を受けた後であることを証明している。
何より、私や王子イグナシオに対して見せる距離と怯えが、彼女が覚えているのだと教えた。
前回、私がイグナシオの婚約者変更を知ったのは、妹アデライダを連れて来られた時。フランシスカはすでに、生贄にされた後だった。何を言われたのか、理解できずに目を見開く。そんな私に、息子は得意げに言い放った。
「アデライダなら王妃に相応しい。家柄も可愛さも完璧です。それにソシアス公爵家が後ろについている。父上も理解してくれた」
裏で金が動いたのだわ。おそらく王家に都合のいい契約が結ばれ、その対価として王妃の座を約束した。だからフランシスカは邪魔になったのね。なんて可哀想な子、あんなに必死だったのに。
生贄を差し出した貴族家は、次の生贄を出す義務から逃れられる。何より、生贄を出したことで家名が高まる。他の貴族家はこれで罪悪感を薄めた。それでも娘を死なせたくないと、神殿に寄付をして逃れる家も少なくない。
生贄はあくまで名目、実際に古代竜ギータ陛下が食しているかも不明なのに。ただ名誉のために死ぬ役を、あの哀れな娘が背負ったというの? それを両親や妹、婚約者が支持して……。
己の腹を痛めて産んだ息子が、バケモノのように思えた。気持ち悪い、こんな汚れた生き物を生み出したのが私? それから数日、部屋にこもって嫌悪感や吐き気と戦った。
生贄を捧げて僅か1ヶ月で、この国は崩壊した。目を覚ました古代竜は、炎を吐き氷を突き立て、国を滅ぼす。その怒りを鎮めようと次の生贄が捧げられたが、神の怒りは収まらなかった。
王宮で最期を迎えた私は、なぜか時間を巻き戻り……乳母が育てた傲慢なはずの息子が別人になっていた。人が変わったよう。それは国王も同じだった。まるで童話に出てくる立派な王のように振る舞う。その変化の意味を確かめようと、公爵令嬢のフランシスカをお茶に誘った。
彼女は記憶を持っている。ならば動くはず。自分を殺した家族や元婚約者に対し、何もしないわけがなかった。あんな裏切り、私なら絶対に許さない。前回、知らずに加担した罪を償わなくてはいけないわ。
古代竜が王宮に舞い降りた日、私は決意した。この国が崩壊する未来は知っている。ならば、せめて民だけでも助かる方法を考えよう。私が王族の決まりを無視し、神殿の規律を破れば、世界は変化する。
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家族はすでに逃した。大きな屋敷に残るのは、私一人。押し寄せた領民が叫びながら、松明を投げ込んだ。ランプがガラスを破り、炎が燃え広がる。
前回と違う、自分で選んだ今回に満足していた。我が神よ、これで前回の償いとさせてください。両手を組んで祈り、燃え盛る炎へ身を投じた。
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