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51.この世界は本当に残酷だわ

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 ソシアス公爵家は、王家に対して神の花嫁強奪に抗議の声を上げた。後ろで煽ったギータ様は、楽しそうに指先でチェスの駒を弄る。遊戯用の白い駒を手に、次々と黒い駒を倒していった。長い爪に飾られた指先が、最後の王を倒す。

「ふむ、そろそろ頃合いか」

 王家は不要だ。そう言い切ったギータ様の言葉を、神殿の神官長やソシアス公爵は正しく誤解した。教皇猊下まで話は伝わり、国教ギータ・リ・アシスは国王ならびに王子の破門を宣言する。

 人は簡単に踊り、その姿を高みから眺めるのはとても楽しいこと。圧倒的な力を持つ側に回って、初めて私は知った。今踊り続ける愚者は、過去の私だった。何も知らず、糸が絡まって動けなくなる未来も気づかずに回る。そして、不要だと糸を切られた。

「神殿はどうするの?」

「消しても残しても構わないが、王家と公爵家は潰してしまおう」

 ギータ様は簡単そうに口にする。この世界で最上位にいる人だから当然なのかも。部屋の模様替えをするように、ひとつの国の在り方を変更しようと言い切った。ただの人でしかない、私のために?

「お前以外に俺の感情を動かす存在はいないぞ、可愛いフランカ」

 膝に乗っていたペキを魔法で浮かせて、別のソファに下ろしてしまう。温かな膝からひんやりした椅子に下ろされ、ペキは機嫌悪そうに唸った。しかしギータ様が視線を向けると、ぷいっとそっぽを向く。このやり取りはもう何度目かな。

 ギータ様の話では、力の差がありすぎて子猫には理解できていないのだとか。そのため逆らう仕草をみせるけれど、目が合うと怖くなって逸らす。何度も同じことをするのは学習能力の違いで、何度か繰り返せば自然と覚えるだろうと笑っていた。

「お姉様、あの……ペキを抱っこしていいですか」

 アデライダがおずおずと申し出る。可愛がっている子猫だから、心配になったのね。許可を出したら嬉しそうに抱き上げた。ペキも当然のようにアデライダの腕に抱かれている。ちょっと羨ましい。部屋でいつも一緒にいて、世話をしているアデライダに懐くのは分かる。

 でも私だって抱っこしたいわ。手を伸ばしてもするりと逃げてしまうけど。時々膝に乗ってくれるようになっただけでも、かなり改善したわ。私のペットなのに。

「フランカには俺の匂いが沁みついている。嫌がるのはその所為だな」

 ギータ様は申し訳なさそうな口調で呟き、私の白い髪を撫でた。そんな風に慰めなくてもいいです。そう思った心を読んで「本当だぞ」と念押しされた。そこで必死になるところが可愛いと感じるなんて、無礼でしょうか。

「お前なら何でも許す」

「甘やかすと後で苦労するそうです」

 侍女から聞いた夫婦の心得を口にして、私は声を上げて笑った。




 数日後、王宮でひとつの騒動が起きる。破門されても王家としての立ち位置を守ろうとした国王陛下の命令に、一人の貴族が否を唱えた。それを咎め罰を与えようとした国王に対し、他の貴族が決起を呼びかけたのだ。あっという間に広がった火種は延焼を起こし、国中に広がった。

 僅か1ヵ月で、王都に集まった義勇軍は5万人を超え……王宮は陥落する。あんなに強固に見えた貴族と王家の繋がりは、驚くほど脆かった。前回の記憶と違い過ぎる現状に、私は言葉を失う。

「安心いたせ、これはお前の咎ではない」

 慰めるようなギータ様の言葉は、私の意識を上滑りした。自業自得と叫ぶ歓喜の声を聞きながら、ゆっくりと目を閉じる。この世界は本当に残酷だわ。
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