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41.真綿で首を絞めるように

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 王族は、神の花嫁に手を伸ばした。王子妃に据えて支配下に置こうと迫ったが、乙女は自ら神を目覚めさせ救われた。

 あっという間に、誤解と強欲によって話が作られていく。物語を作るように、それは簡単に組み立てられた。王家がどう否定しようと、出来上がった話を人々は好んだ。より衝撃的で、同情しやすい物語――。

 王家が私を王子妃にしようと婚約を打診したことは、貴族ならば知っている。領地が災害に見舞われ、忙しい時期に呼び出したことも。両親を残して、まだ10歳前後の少女に登城を命じた。それだけでも非難に値する。

 断れぬよう贈り物をして、竜の乙女の罪悪感を煽った。竜の加護を得た乙女のお陰で、領地は守られたのに。その加護を横取りしようとした。領地内では、そのような話が広がっているらしい。

 王都の屋敷から戻った私は、別宅の窓辺から外を眺める。悲しそうに、思わしげな表情で。災害によって荒れた領地を見つめ続けた。その側に立つギータ様が、肩を抱いて促すまで。

 部屋に戻って温かなお茶を飲む。薄着でテラスに立つのは、衝動的に外へ出たように見せるため。実際はギータ様の恩恵で、寒さは感じない。それでも親の庇護下にあるご令嬢が、震えながら窓辺に立つ姿は衝撃的に伝えられた。

 これほど領地や領民を愛する令嬢を、自分達の欲で領地から呼び寄せた王族への不信感。元から燻っていた不満を燃料に、この火種は赤々と人々を焦がした。国王陛下は火消しに回り、愚かなイグナシオ王子は我が侭を振り翳す。

 そんな中、意外な出来事があった。王妃殿下が宿下りを申し出たのだ。いわゆる、離縁の準備だった。王宮を出て実家である侯爵家に戻る、そう表明した彼女は淡々と準備を進めた。

「王妃を逃して良いのか?」

「……あの方は、私に酷いことをなさらなかったわ。ただ、王子の愚行を止めもしなかったけれど」

 そう、王子妃教育は厳しかったけれど、不当な扱いはなかった。どの令嬢が受けても、中身は同じだろう。納得出来る教育内容だけれど、王妃殿下は息子を自由にさせた。彼が浮気したことも、それによって私を切り捨てた時も……動かなかっただけ。

「動かぬは罪ではない、と?」

 ギータ様の言い方では、王妃殿下の振る舞いも罰を受ける対象なのね。私は正直、迷っている。

「ふむ、ならばお前は許してやるといい。俺は許さぬ」

 にやりと笑ったギータ様は、神殿の方々が滞留する離れに向かった。見送った私は止めない。

「ペキがまた爪を研いでしまって」

 困り顔のアデライダが、分厚い本を差し出した。革の表紙が付いた聖書は、ペキによってボロボロにされている。きっとギータ様は怒らないわね。神殿の方々は目くじら立てそうだけど。

「いいわ。こっそり埋めちゃいましょう」

 アデライダが目を見開いた。くすくす笑いながら、二人で庭の片隅に穴を掘る。そこへボロボロの聖書を埋めた。きちんと土を掛けて、上からぎゅっと踏み固める。

「これでよし」

「いいのですか?」

「いいのよ。このくらい」

 微笑み掛けた私に、アデライダは頬を緩めた。笑みと呼ぶにはまだ硬い。でも確かに笑顔だった。前回の私を見ている気分で、嬉しくなる。大丈夫よ、今回はうまくやるわ。











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