上 下
40 / 91

40.神殿と王家に生まれる亀裂

しおりを挟む
 ギータ様が公爵家に滞在する。その話を聞いたら、神殿の大神官達が黙っているはずないわ。教皇猊下も含め、神殿の上層部が引っ越す勢いで押しかけてきた。

 騒がしくなった公爵家の玄関ホールを見下ろし、私は笑みを浮かべる。神殿は下手な貴族より権威があるわ。彼らを上手に操れば、王家の地位を貶めることも可能だった。もちろん、直接頼むなんて愚かなことはしない。

 一度目の人生で読んだ小説の知識を混ぜて、前回の人間関係を崩していけばいいの。私がこの手に掴んだ力は、大きなハサミのような物。上手に利用すれば、私を殺した者の首も落とせるはずよ。

「元気になったようで何よりだ」

 ちゅっと音を立てて頬に口付けるギータ様に、後ろから抱き込まれた。恥ずかしいけれど、下の神官達が気付いて平伏する。利用するためには、仲のいい姿を見せつける必要があった。

「ギータ様、私を王家から救い出してくださり、ありがとうございました」

 棘を秘めた言葉で、神官達の疑念を招く。あの場で婚約させられそうになった私のセリフとしては、間違っていない。けれど神殿側は別の受け止め方をするでしょう。

 ギータ様の花嫁に決まった私が、無理やり王家に屈服させられそうになった。神殿の不信感を煽り、王家との間に亀裂を作る。その隙間を広げるのは、公爵夫妻の役割よ。

「構わん。花嫁の願いを叶えるのは、俺の望みだ。お前の飼う子猫とお気に入りの侍女にも、加護をやろう」

 かつて世界を支配した古代竜は、生き神も同然。その1柱が侍女や子猫に加護を与える。神殿で人生を捧げて祈る教皇ですら、加護を得ていないのに……。嫉妬や様々な打算が人々の心に芽生えた。加護を与えられた侍女に手を出せば、神の怒りを招く。ならば、残る手段は限られた。

 小娘に過ぎない花嫁を懐柔し、彼女に願わせればいい。それで古代竜の加護が与えられるはず。人は欲に目が眩むほど、愚かな選択を行う。より簡単で、より危険な道を選んだ。手に取るように理解できる。神官達の考えを操る私に、ギータ様は耳元で囁いた。

「お前はフランカとは違う。だからこそ、より愛おしいな」

 意味が分からなくて、小首を傾げた。さらりと首筋を撫でた白い髪を指先で掬い、毛先に口付ける。ギータ様の仕草に、私の顔は真っ赤になった。もちろん、首や指先まで。

「可愛いフランカ、こちらへおいで」

 人目から隠すように抱き寄せ、彼は私の自室へ移動した。アデライダは私のお下がりのドレスを纏い、子猫ペキの世話をしている。

「あ、お嬢様」

「今日からお姉様でいいわ。だから、今度は裏切らないでね」

 何を言われたのか理解できないアデライダに、微笑んだ私は手を伸ばす。彼女の頬を撫でたところで、その指先をギータ様に奪われる。きゅっと握られ、長椅子に座った彼の膝に下された。

「ギータ様?」

「心配ない。俺の加護は籠と同じ、俺の宝である花嫁を傷つけることはないさ」

 不思議な言い回しに、私は深く考えずに頷いた。長く生きた神様なんだもの。人生3回目の私程度じゃ追いつけないわ。髪を撫でる彼の膝で、力を抜いて寄りかかった。前回の私が欲しかったのは、ただ……こうした温もりだったのよ。涙が出そうになり、ぎゅっと目を瞑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地下アイドルの変わった罰ゲーム

氷室ゆうり
恋愛
さてさて、今回は入れ替わりモノを作ってみましたので投稿します。若干アイドルの子がかわいそうな気もしますが、別にバットエンドって程でもないので、そこはご安心ください。 周りの面々もなかなかいいひとみたいですし。ああ、r18なのでご注意を。 それでは!

TS百合の王道パターン

氷室ゆうり
恋愛
この頃急にはやり始めたTS百合。ツイッターでトレンド入りしたそうですね。そんなわけで急遽作ってみました!ショートショートですがこれぞまさしくTS百合!流行に乗っかってもっともっとtsfの性癖に皆様を誘導していきたいと思っております! そんなわけで、今回もr18です。 それでは!

スキル「火吹き芸」がしょぼいと言われサーカスをクビになった俺、冒険者パーティ兼サーカス団にスカウトされた件〜冒険者としてもスキルを使います〜

マグローK
ファンタジー
ドーラ・バルバドルはスキル「火吹き芸」が使用できるからとサーカスにスカウトされた。 だが、時の経過で火吹き芸はスキルがなくても誰にでもできると言われサーカスをクビにされてしまう。 しかし、ドーラのスキル「火吹き芸」はスキルなしの火吹き芸とは全く別物で、スキル「ブレス」への進化の可能性や仲間にダメージを与えず火を吹けるという独自性を持っていた。 そのことに気づかずドーラをクビにしたサーカスは、ドーラのスキル「火吹き芸」の独自性を見抜けなかったことで、演出役を失い表現の幅が狭まり客を失っていく。 一方ドーラは、スキル「火吹き芸」が進化したスキル「ブレス」で冒険者兼サーカス団員としてモンスターの討伐、サーカスの花形として活躍していく。 これは自分のスキルの可能性に無自覚だった男が、進化したスキルを使い冒険者としてもサーカス団員としてもハーレムや無双し、名を馳せていく物語。 他サイトにも掲載しています。

【R-18】赤い糸はきっと繋がっていないから【BL完結済】

今野ひなた
BL
同居している義理の兄、東雲彼方に恋をしている東雲紡は、彼方の女癖の悪さと配慮の無さがと女性恐怖症が原因で外に出るのが怖くなってしまった半ひきこもり。 彼方が呼んでいるのか、家を勝手に出入りする彼の元彼女の存在もあり、部屋から出ないよう、彼方にも会わないように気を使いながら日々を過ごしていた。が、恋愛感情が無くなることも無く、せめて疑似的に彼女になれないかと紡は考える。 その結果、紡はネットアイドル「つむぐいと」として活動を開始。元々の特技もあり、超人気アイドルになり、彼方を重度のファンにさせることに成功する。 ネットの中で彼女になれるならそれで充分、と考えていた紡だが、ある日配信画面を彼方に見られてしまう。終わったと思った紡だが、なぜかその結果、同担と間違えられオタクトークに付き合わされる羽目になり…!? 性格に難ありな限界オタクの義兄×一途純情ネットアイドルの義弟の義兄弟ものです。 毎日7時、19時更新。エロがある話は☆が付いてます。全17話。12/26日に完結です。 毎日2回更新することになりますが、1、2話だけ同時更新、16話はエロシーンが長すぎたので1日だけの更新です。 公募に落ちたのでお焚き上げです。よろしくお願いします。

幼馴染と婚約しましたが、彼は別の女性が好みのようです。

ララ
恋愛
幼馴染と婚約したのも束の間、彼へ近づく女性の影が。挙句の果てに幼馴染は彼女のことを好きになったようで、私に婚約破棄を告げる。

やめて!お仕置きしないで!本命の身代わりなのに嫉妬するの?〜国から逃亡中の王子は変態悪魔に脅される!?〜

ゆきぶた
BL
弟の代わりになれと脅してきた最低男は主人公に対して、何故か嫉妬したりお仕置き調教してくる話。チャラ悪魔×真面目のすれ違う恋はどうなる? * * * * * * あらすじ 兄弟を救うため国王である父親を殺したデオは、国が混乱している間に逃亡していた。 そんななか、突然チャラ男冒険者にナンパされてしまう。そして隣国までついてきたその男の正体は、女遊びが酷くて、弟が本命の最低男だった!? その最低男にデオは、弟の代わりになるから手を出さないでくれと提案するが、逆に弟をダシにして脅されてしまう。 しかしチャラ男はデオが誰かに触られると嫉妬したり、お仕置きして調教してきたり、まるで身代わりじゃないように接してきて……次第に惹かれていく自分に戸惑うデオは、いつか国に帰ることが出来るのか? * * * * * * ※この世界は人が進化するという概念があるため、作中に出てくる悪魔はその世界独自の物です。 進化した人間=長寿と、進化しようとする人、その二人の恋はどうなるのか……。 言葉責め、乳首責め、媚薬、謎のオモチャ、モブ攻め、異種姦?とかある予定。 ファンタジーなので謎のアイテムが出てきます。 あと主人公はすぐに快楽落ちします。 最後まで書き切るのでお付き合いよろしくお願いします。 とりあえず微エロを☆、エロを★で表記してみました。他カプがあるときは※表記とします。参考にどうぞー! 追記 正直、微エロとエロの違いがわからなくなってますので☆未挿入、★挿入ぐらいで考えて下さい。 現在年末で多忙な為更新頻度下がっております。 大変申し訳ございません!

【完結】私、噂の令息に嫁ぎます!

まりぃべる
恋愛
私は、子爵令嬢。 うちは貴族ではあるけれど、かなり貧しい。 お父様が、ハンカチ片手に『幸せになるんだよ』と言って送り出してくれた嫁ぎ先は、貴族社会でちょっとした噂になっている方だった。 噂通りなのかしら…。 でもそれで、弟の学費が賄えるのなら安いものだわ。 たとえ、旦那様に会いたくても、仕事が忙しいとなかなか会えない時期があったとしても…。 ☆★ 虫、の話も少しだけ出てきます。 作者は虫が苦手ですので、あまり生々しくはしていませんが、読んでくれたら嬉しいです。 ☆★☆★ 全25話です。 もう出来上がってますので、随時更新していきます。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

処理中です...