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40.神殿と王家に生まれる亀裂
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ギータ様が公爵家に滞在する。その話を聞いたら、神殿の大神官達が黙っているはずないわ。教皇猊下も含め、神殿の上層部が引っ越す勢いで押しかけてきた。
騒がしくなった公爵家の玄関ホールを見下ろし、私は笑みを浮かべる。神殿は下手な貴族より権威があるわ。彼らを上手に操れば、王家の地位を貶めることも可能だった。もちろん、直接頼むなんて愚かなことはしない。
一度目の人生で読んだ小説の知識を混ぜて、前回の人間関係を崩していけばいいの。私がこの手に掴んだ力は、大きなハサミのような物。上手に利用すれば、私を殺した者の首も落とせるはずよ。
「元気になったようで何よりだ」
ちゅっと音を立てて頬に口付けるギータ様に、後ろから抱き込まれた。恥ずかしいけれど、下の神官達が気付いて平伏する。利用するためには、仲のいい姿を見せつける必要があった。
「ギータ様、私を王家から救い出してくださり、ありがとうございました」
棘を秘めた言葉で、神官達の疑念を招く。あの場で婚約させられそうになった私のセリフとしては、間違っていない。けれど神殿側は別の受け止め方をするでしょう。
ギータ様の花嫁に決まった私が、無理やり王家に屈服させられそうになった。神殿の不信感を煽り、王家との間に亀裂を作る。その隙間を広げるのは、公爵夫妻の役割よ。
「構わん。花嫁の願いを叶えるのは、俺の望みだ。お前の飼う子猫とお気に入りの侍女にも、加護をやろう」
かつて世界を支配した古代竜は、生き神も同然。その1柱が侍女や子猫に加護を与える。神殿で人生を捧げて祈る教皇ですら、加護を得ていないのに……。嫉妬や様々な打算が人々の心に芽生えた。加護を与えられた侍女に手を出せば、神の怒りを招く。ならば、残る手段は限られた。
小娘に過ぎない花嫁を懐柔し、彼女に願わせればいい。それで古代竜の加護が与えられるはず。人は欲に目が眩むほど、愚かな選択を行う。より簡単で、より危険な道を選んだ。手に取るように理解できる。神官達の考えを操る私に、ギータ様は耳元で囁いた。
「お前はフランカとは違う。だからこそ、より愛おしいな」
意味が分からなくて、小首を傾げた。さらりと首筋を撫でた白い髪を指先で掬い、毛先に口付ける。ギータ様の仕草に、私の顔は真っ赤になった。もちろん、首や指先まで。
「可愛いフランカ、こちらへおいで」
人目から隠すように抱き寄せ、彼は私の自室へ移動した。アデライダは私のお下がりのドレスを纏い、子猫ペキの世話をしている。
「あ、お嬢様」
「今日からお姉様でいいわ。だから、今度は裏切らないでね」
何を言われたのか理解できないアデライダに、微笑んだ私は手を伸ばす。彼女の頬を撫でたところで、その指先をギータ様に奪われる。きゅっと握られ、長椅子に座った彼の膝に下された。
「ギータ様?」
「心配ない。俺の加護は籠と同じ、俺の宝である花嫁を傷つけることはないさ」
不思議な言い回しに、私は深く考えずに頷いた。長く生きた神様なんだもの。人生3回目の私程度じゃ追いつけないわ。髪を撫でる彼の膝で、力を抜いて寄りかかった。前回の私が欲しかったのは、ただ……こうした温もりだったのよ。涙が出そうになり、ぎゅっと目を瞑った。
騒がしくなった公爵家の玄関ホールを見下ろし、私は笑みを浮かべる。神殿は下手な貴族より権威があるわ。彼らを上手に操れば、王家の地位を貶めることも可能だった。もちろん、直接頼むなんて愚かなことはしない。
一度目の人生で読んだ小説の知識を混ぜて、前回の人間関係を崩していけばいいの。私がこの手に掴んだ力は、大きなハサミのような物。上手に利用すれば、私を殺した者の首も落とせるはずよ。
「元気になったようで何よりだ」
ちゅっと音を立てて頬に口付けるギータ様に、後ろから抱き込まれた。恥ずかしいけれど、下の神官達が気付いて平伏する。利用するためには、仲のいい姿を見せつける必要があった。
「ギータ様、私を王家から救い出してくださり、ありがとうございました」
棘を秘めた言葉で、神官達の疑念を招く。あの場で婚約させられそうになった私のセリフとしては、間違っていない。けれど神殿側は別の受け止め方をするでしょう。
ギータ様の花嫁に決まった私が、無理やり王家に屈服させられそうになった。神殿の不信感を煽り、王家との間に亀裂を作る。その隙間を広げるのは、公爵夫妻の役割よ。
「構わん。花嫁の願いを叶えるのは、俺の望みだ。お前の飼う子猫とお気に入りの侍女にも、加護をやろう」
かつて世界を支配した古代竜は、生き神も同然。その1柱が侍女や子猫に加護を与える。神殿で人生を捧げて祈る教皇ですら、加護を得ていないのに……。嫉妬や様々な打算が人々の心に芽生えた。加護を与えられた侍女に手を出せば、神の怒りを招く。ならば、残る手段は限られた。
小娘に過ぎない花嫁を懐柔し、彼女に願わせればいい。それで古代竜の加護が与えられるはず。人は欲に目が眩むほど、愚かな選択を行う。より簡単で、より危険な道を選んだ。手に取るように理解できる。神官達の考えを操る私に、ギータ様は耳元で囁いた。
「お前はフランカとは違う。だからこそ、より愛おしいな」
意味が分からなくて、小首を傾げた。さらりと首筋を撫でた白い髪を指先で掬い、毛先に口付ける。ギータ様の仕草に、私の顔は真っ赤になった。もちろん、首や指先まで。
「可愛いフランカ、こちらへおいで」
人目から隠すように抱き寄せ、彼は私の自室へ移動した。アデライダは私のお下がりのドレスを纏い、子猫ペキの世話をしている。
「あ、お嬢様」
「今日からお姉様でいいわ。だから、今度は裏切らないでね」
何を言われたのか理解できないアデライダに、微笑んだ私は手を伸ばす。彼女の頬を撫でたところで、その指先をギータ様に奪われる。きゅっと握られ、長椅子に座った彼の膝に下された。
「ギータ様?」
「心配ない。俺の加護は籠と同じ、俺の宝である花嫁を傷つけることはないさ」
不思議な言い回しに、私は深く考えずに頷いた。長く生きた神様なんだもの。人生3回目の私程度じゃ追いつけないわ。髪を撫でる彼の膝で、力を抜いて寄りかかった。前回の私が欲しかったのは、ただ……こうした温もりだったのよ。涙が出そうになり、ぎゅっと目を瞑った。
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