上 下
34 / 91

34.私、すでに食べられてたのね

しおりを挟む
 先代国王陛下の時代、私の祖父もお告げが下った場にいたと聞く。国王陛下、先代ソシアス公爵、教会の教皇猊下が揃った場へ、光が降り注いだ。外にいた者は声が聞えなかったが、3人はしっかり聞こえたらしい。

 ――1人目のソシアス公爵令嬢が……王の花嫁になった時、世界は満ち足りて輝くであろう。

 この迷惑な予言じみたお告げの後、私が生まれた。誰もが期待した絶世の美貌や明晰な頭脳はなく、貧相な老婆に似た髪の女児に、国中の貴族が落胆する。それでも祖父が生きていた頃は良かった。私は公爵令嬢として最低限の生活を与えられたから。

 祖父が亡くなり、何もかも取り上げられた。薄暗い部屋に押し込められ、使用人からも無視される日々。食事も満足に与えられず、死ぬことを望むような扱いだった。実際、死んでも構わないと思われていたと思う。両親はそのつもりだった。

 でも直接お告げを聞いた、国王陛下と教皇猊下は違う。国王陛下は「王の花嫁」の王を息子と解釈して、私をイグナシオ王子の婚約者に据えた。それが不満な両親や義妹がどう動いたか、裏の事情は知らないけれど。最終的に入れ替えは国王陛下に認められたのでしょうね。

 お告げの娘が間違っていた、とか。そんな理由を付けて、もっともらしく装った。

 神殿の騎士が私に槍を向けたのだから、教皇猊下も私を邪魔者と認識したのよね。その理由は何かしら。あの人にとって、誰が花嫁でも関係ないはず。守護神と崇める古代竜の機嫌を損なわなければ……。

「どうした?」

「えっと、理由が分からないの」

 口調はだいぶ砕けてきた。そのたびに嬉しそうに笑うギータ様を見ながら、ひとつ深呼吸して一気に吐きだした。

「前回のお告げを捻じ曲げた理由よ。ソシアス公爵家は分かるわ。邪魔な養子より、可愛い愛娘を選んだだけだもの。だけど、国王陛下や教皇猊下はどうして……」

「ふむ。そういった政治面は、経験しなかったか?」

「……そこまで知ってるの?」

 前回を知っているのは分かる。古代竜であるギータ様の谷に落下したし、願いを叶えてくれたなら私の死を巻き戻したのだから。でも一度目は誰にも話していない。私だけの秘密だったのよ。

「前回、お前は俺の上に落下した。その死体を食らい、血から記憶を得たんだ。怒るなよ? 必要な措置だ」

「別にいいわ」

 あの時の私は恨みで真っ黒に心を染めていて、きっと美味しくなかったと思う。逆に「お粗末様でした」と口にして、大笑いされた。一頻り笑った後、彼は楽しそうに口を開く。

「なら教えてやる。あの醜い連中の考えは、お前の想像を超えるぞ」

 ギータ様の瞳孔が縦に割れる。これって、爬虫類っぽいわね。一度目の人生で蛇を見た時は怖かったけど、今は平気だわ。違う、そうじゃない。金色の光が縦に集約して、とても美しく見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地下アイドルの変わった罰ゲーム

氷室ゆうり
恋愛
さてさて、今回は入れ替わりモノを作ってみましたので投稿します。若干アイドルの子がかわいそうな気もしますが、別にバットエンドって程でもないので、そこはご安心ください。 周りの面々もなかなかいいひとみたいですし。ああ、r18なのでご注意を。 それでは!

TS百合の王道パターン

氷室ゆうり
恋愛
この頃急にはやり始めたTS百合。ツイッターでトレンド入りしたそうですね。そんなわけで急遽作ってみました!ショートショートですがこれぞまさしくTS百合!流行に乗っかってもっともっとtsfの性癖に皆様を誘導していきたいと思っております! そんなわけで、今回もr18です。 それでは!

スキル「火吹き芸」がしょぼいと言われサーカスをクビになった俺、冒険者パーティ兼サーカス団にスカウトされた件〜冒険者としてもスキルを使います〜

マグローK
ファンタジー
ドーラ・バルバドルはスキル「火吹き芸」が使用できるからとサーカスにスカウトされた。 だが、時の経過で火吹き芸はスキルがなくても誰にでもできると言われサーカスをクビにされてしまう。 しかし、ドーラのスキル「火吹き芸」はスキルなしの火吹き芸とは全く別物で、スキル「ブレス」への進化の可能性や仲間にダメージを与えず火を吹けるという独自性を持っていた。 そのことに気づかずドーラをクビにしたサーカスは、ドーラのスキル「火吹き芸」の独自性を見抜けなかったことで、演出役を失い表現の幅が狭まり客を失っていく。 一方ドーラは、スキル「火吹き芸」が進化したスキル「ブレス」で冒険者兼サーカス団員としてモンスターの討伐、サーカスの花形として活躍していく。 これは自分のスキルの可能性に無自覚だった男が、進化したスキルを使い冒険者としてもサーカス団員としてもハーレムや無双し、名を馳せていく物語。 他サイトにも掲載しています。

【R-18】赤い糸はきっと繋がっていないから【BL完結済】

今野ひなた
BL
同居している義理の兄、東雲彼方に恋をしている東雲紡は、彼方の女癖の悪さと配慮の無さがと女性恐怖症が原因で外に出るのが怖くなってしまった半ひきこもり。 彼方が呼んでいるのか、家を勝手に出入りする彼の元彼女の存在もあり、部屋から出ないよう、彼方にも会わないように気を使いながら日々を過ごしていた。が、恋愛感情が無くなることも無く、せめて疑似的に彼女になれないかと紡は考える。 その結果、紡はネットアイドル「つむぐいと」として活動を開始。元々の特技もあり、超人気アイドルになり、彼方を重度のファンにさせることに成功する。 ネットの中で彼女になれるならそれで充分、と考えていた紡だが、ある日配信画面を彼方に見られてしまう。終わったと思った紡だが、なぜかその結果、同担と間違えられオタクトークに付き合わされる羽目になり…!? 性格に難ありな限界オタクの義兄×一途純情ネットアイドルの義弟の義兄弟ものです。 毎日7時、19時更新。エロがある話は☆が付いてます。全17話。12/26日に完結です。 毎日2回更新することになりますが、1、2話だけ同時更新、16話はエロシーンが長すぎたので1日だけの更新です。 公募に落ちたのでお焚き上げです。よろしくお願いします。

幼馴染と婚約しましたが、彼は別の女性が好みのようです。

ララ
恋愛
幼馴染と婚約したのも束の間、彼へ近づく女性の影が。挙句の果てに幼馴染は彼女のことを好きになったようで、私に婚約破棄を告げる。

やめて!お仕置きしないで!本命の身代わりなのに嫉妬するの?〜国から逃亡中の王子は変態悪魔に脅される!?〜

ゆきぶた
BL
弟の代わりになれと脅してきた最低男は主人公に対して、何故か嫉妬したりお仕置き調教してくる話。チャラ悪魔×真面目のすれ違う恋はどうなる? * * * * * * あらすじ 兄弟を救うため国王である父親を殺したデオは、国が混乱している間に逃亡していた。 そんななか、突然チャラ男冒険者にナンパされてしまう。そして隣国までついてきたその男の正体は、女遊びが酷くて、弟が本命の最低男だった!? その最低男にデオは、弟の代わりになるから手を出さないでくれと提案するが、逆に弟をダシにして脅されてしまう。 しかしチャラ男はデオが誰かに触られると嫉妬したり、お仕置きして調教してきたり、まるで身代わりじゃないように接してきて……次第に惹かれていく自分に戸惑うデオは、いつか国に帰ることが出来るのか? * * * * * * ※この世界は人が進化するという概念があるため、作中に出てくる悪魔はその世界独自の物です。 進化した人間=長寿と、進化しようとする人、その二人の恋はどうなるのか……。 言葉責め、乳首責め、媚薬、謎のオモチャ、モブ攻め、異種姦?とかある予定。 ファンタジーなので謎のアイテムが出てきます。 あと主人公はすぐに快楽落ちします。 最後まで書き切るのでお付き合いよろしくお願いします。 とりあえず微エロを☆、エロを★で表記してみました。他カプがあるときは※表記とします。参考にどうぞー! 追記 正直、微エロとエロの違いがわからなくなってますので☆未挿入、★挿入ぐらいで考えて下さい。 現在年末で多忙な為更新頻度下がっております。 大変申し訳ございません!

【完結】私、噂の令息に嫁ぎます!

まりぃべる
恋愛
私は、子爵令嬢。 うちは貴族ではあるけれど、かなり貧しい。 お父様が、ハンカチ片手に『幸せになるんだよ』と言って送り出してくれた嫁ぎ先は、貴族社会でちょっとした噂になっている方だった。 噂通りなのかしら…。 でもそれで、弟の学費が賄えるのなら安いものだわ。 たとえ、旦那様に会いたくても、仕事が忙しいとなかなか会えない時期があったとしても…。 ☆★ 虫、の話も少しだけ出てきます。 作者は虫が苦手ですので、あまり生々しくはしていませんが、読んでくれたら嬉しいです。 ☆★☆★ 全25話です。 もう出来上がってますので、随時更新していきます。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

処理中です...