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30.これがお前達の礼儀か

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 騎士の攻撃的な態度に、ギータ陛下は肩を竦めた。それから大きく息を吸い込み、騎士を含めたこの場の人間を一喝する。

「国に恩恵を与える竜に剣を向けるのが、お前達の礼儀か!」

「え?」

「竜……」

 心当たりは、崖の下に眠る古代竜ギータ陛下だけ。ざわつく彼らは、しっかり抱き締められた私に気づく。目が合ってしまい、お互いに視線で会話をした……と思う。大丈夫ですか? はい、みたいな感じ。実際は確認できなかったけどね。

「こちらのお方は、古代竜のギータ陛下でいらっしゃいます。剣を下げてください」

 すでに鞘を払った騎士もいるため、私は代わりに口を開いた。もし攻撃したら、絶対に災いが襲うわ。下手すると王宮を破壊されちゃうかも。崩れた塔を見れば、心配になる。

「ギータ陛下、何も知らなかったのです。許してあげてください」

 過去に私を崖に突き落としたのは、神殿の騎士達。王宮に勤める近衛騎士じゃないわ。庇う姿勢を見せた私に、ギータ陛下は不思議そうな顔をした。

「これは前回のお前を傷つけた者ではないのか」

「はい。違います」

 神殿の騎士は、王宮を含めた貴族や平民のために動かない。神と崇める古代竜の谷を守り、神官達を保護するだけ。私は生贄であったから、神殿の管轄に入った。そのため飛び降りる私に槍を突き出したのは、神殿騎士だったの。

 言い切ったことで、ギータ陛下は考え込んだ。私もそこで気づく。ギータ陛下にとって「前回」は過去なのね。私と一緒で記憶があるのだから、戻ったのかしら。それとも同じ時間の流れで私達が繰り返しているの?

「本当に、その……古代竜のギータ陛下でいらっしゃいますか」

 騎士達の先頭に立つ髭の男性が口を開く。剣の柄から手を離し、敬礼して尋ねた。その態度が気に入らないのか、イグナシオ王子が叫んだ。

「何をしている! 僕の婚約者を助けろ!」

 私が嫌がっていないのに、助けろと言われて混乱する騎士達。当然だけど、私はギータ陛下の味方よ。少なくとも、復讐対象であるイグナシオや公爵家に味方することはない。

 癇癪を起こした様子で騒ぐイグナシオは、先日までの大人しい姿が嘘のようだった。でも正直なところ、安心した。過去の彼も癇癪が酷かったし、自分勝手だったもの。隠していただけなのね。

「何を騒いでいるのですか。イグナシオとフランシスカ嬢は……」

 無事? そう尋ねる声が途絶えた。駆けつけた王妃様は、じっくりギータ陛下を見た後、優雅に一礼した。最高の敬意を示す跪礼に、ギータ陛下が満足そうに笑う。

「ふむ、国母たるお前は礼儀を弁えておるようだ」

 どこで判断したのかしら。首やこめかみで光る鱗だとしたら、王妃殿下は観察能力が優れているのね。ずっと抱き上げられたまま、王妃殿下の礼を受けてしまった。後で叱られないといいけど。
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