上 下
14 / 91

14.嘘はついてないわ

しおりを挟む
「これは……何が」

 呆然とする公爵家の騎士達の前で、私はにっこり笑った。公爵家の門へ向かった私達は、森へ入る手前で救助の騎士団と遭遇する。予想より山に近かったので、早く動いてよかったと胸を撫で下ろした。

「お迎えですか。ありがとうございます」

「っ! フラン、フランなの?」

 興奮した様子で、後ろの馬車から飛び出したのは公爵夫人だ。足に力が入らず崩れそうな彼女を、夫である公爵が支えていた。駆け寄りたい二人に、私は自ら近づく。セサルの手を引いて。

「ただいま戻りました。お父様、お母様。ご心配をおかけして申し訳ございません。こちらの方々に助けていただきましたの」

 総勢18人の元野盗は、品のいい服に身を包んでいた。もちろん髭を剃って髪を撫でつけ、石鹸の匂いを漂わせている。ここまで仕上げるのに時間がかかったのよ。遺跡に似た建物の奥は、様々な品物が無造作に積み上げられていた。

 商人の馬車を襲ったと聞いたけれど、その際の戦利品らしい。彼らは食べ物やお酒を引っ張り出したが、残りの品はそのまま積み上げた。販売するルートがない上、食べて消費することもない。そもそも貴族用の商品が多く、何に使うか理解していない物もあった。

 豪華すぎる衣類は袖を通さず放置、石鹸は利用方法を知らない。宝石類は売り捌くと足がつく。彼らは飲食物以外を、すべて役に立たない物として奥に仕舞い込んだ。今回はそれを利用した。

「これは……その、娘の救助にご協力いただき感謝する」

 身なりを整えれば、元は人のいい農民ばかり。にこにこと笑顔を浮かべて挨拶を受ける姿は、野盗には見えなかった。何度も臭いを確認し、洗い直しを指示した私も同じ石鹸で手足を洗っている。

 父であるソシアス公爵の言葉に、騎士達も敬礼して謝意を示した。彼らには褒美が与えられることになり、私は無事帰還する。今回の提案は大成功だと思うわ。

 ああ、忘れないようにしなくちゃ。

「この方達、住んでいた地域で災害があったんですって。お気の毒だわ。なんとかならないかしら」

「災害? この近くで、大きな災害はなかったはずだが」

 様々な報告書に目を通す公爵なら、気づくと思ったわ。怪訝そうな公爵に、セサルは予定通り説明を始めた。家や畑が土砂に襲われたこと、領主は何もしてくれず困ったこと。それから偶然親切な人に出会い、身なりを整えてもらえたこと。

 多少ぼかしたけど、嘘はついていない。だからセサルもすらすらと話を進めた。当然、言い淀む不自然さもなかった。

 その間に、感極まった公爵夫人に抱き締められた。私の髪を撫で、何度も頬に口づけ、神に感謝を伝える。涙が止まらない公爵夫人の様子に、農民の一部がもらい泣きし始めた。これは予定外だわ。でも救助の話の信憑性は高まるわね。

「帰りましょう、家でゆっくりして。今後は王宮から迎えを出してもらうわ。二度とこんな目に遭わせないから、安心してね」

「はい、お母様。助けてくれた彼らは親切でした。是非ともお礼をしてください」

「ええ、もちろんよ。可愛いフランを助けてくれた恩人ですもの」

 公爵夫人から約束を取り付けたことで、私はほっとして表情が和らいだ。その僅かな変化を見逃さず、彼女は愛おしそうに目を細める。

「本当に無事でよかったわ」

「彼らにお礼をしなきゃならん。引き上げるぞ」

 騎士を引き連れた公爵の声に、私と公爵夫人は馬車に乗り込んだ。振り返った私は、セサル達へにっこり笑う。どう? うまくいったでしょ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

両親も義両親も婚約者も妹に奪われましたが、評判はわたしのものでした

朝山みどり
恋愛
婚約者のおじいさまの看病をやっている間に妹と婚約者が仲良くなった。子供ができたという妹を両親も義両親も大事にしてわたしを放り出した。 わたしはひとりで家を町を出た。すると彼らの生活は一変した。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

【R18】青き竜の溺愛花嫁 ー竜族に生贄として捧げられたと思っていたのに、旦那様が甘すぎるー

夕月
恋愛
聖女の力を持たずに生まれてきたシェイラは、竜族の生贄となるべく育てられた。 成人を迎えたその日、生贄として捧げられたシェイラの前にあらわれたのは、大きく美しい青い竜。 そのまま喰われると思っていたのに、彼は人の姿となり、シェイラを花嫁だと言った――。 虐げられていたヒロイン(本人に自覚無し)が、竜族の国で本当の幸せを掴むまで。 ヒーローは竜の姿になることもありますが、Rシーンは人型のみです。 大人描写のある回には★をつけます。

処理中です...