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04.お家に帰ってきたのに
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どかんと落ちた雷は眩しくて、僕は目を閉じる。ゆっくり開くと、黒い塊が転がっていた。あれ、全部さっきの人達? 僕とディーを殴ろうとした人は、半分に減っていた。遠くにいる人は近づいてこないし、近くは黒い塊ばかり。
「すごいねぇ」
「褒められるとやる気が出る」
もっと褒めていいの? にこにこしながら、僕は知っている言葉をいっぱい並べた。
「かっこいい、強い、すごい、お父さんみたい」
「ん? 最後のはよくわからんぞ」
首を傾げるから、僕と頭がごつんとぶつかった。でも痛くないからいいや。
お父さんは強くて優しくて、僕の大好きな人なの。今のディーはお父さんくらい、かっこいい。説明する間に、ディーは羽を広げていた。
「じゃあ、そのかっこいいお父さんを探すか」
「うん、お母さんも」
「当然だな」
ディーは羽を広げた。薄い膜で出来た羽は、上が波の形なの。そこに牙が生えている。口の中じゃないから、爪かな? よくわかんない。後で見せてもらおう。
強く抱きしめられ、直後、背筋がぞくぞくした。強い魔力を使って、ディーが浮く。慌てて腕に力を込めた。落ちちゃう心配をしたんだけど、ちゃんと左腕で支えられる。羽はばさばさ動かなくて、飛び方はお父さんと同じだった。
僕はまだ飛べない。今は羽が痛いけど、痛くない時も飛べなかったの。お母さんは、もっと大きくなったら飛べるわ、と教えてくれた。そういえば、お母さんは羽がないのに飛んでいたけれど。
そんな話をしながら、山の方へ向かう。知っている山は左側なので、そっちを指差した。
「あっち」
僕が住んでいた場所で、お父さんとお母さんがいた。洞穴があって、そこに家を作ったんだよ。見たことがある岩を飛び越し、山の真ん中より上にある洞穴を見つけた。
「あれ! 僕のおうち」
「よし、ご両親と対面だ」
ディーは明るい声でそう言ったけれど、近づくと変な顔をした。それから僕に目を閉じるよう言い聞かせる。
「どうして?」
「あとで教えてやる」
よくわからないけど、ディーは僕に酷いことをしないから。頷いて従った。こっそり覗いたりしないよ。目を両手で覆うと、顔も半分隠れちゃう。お父さんやお母さんに「ばぁ!」って驚かせるのかも。
ワクワクする僕の鼻が、ひくりと動いた。この臭い知ってる。血の臭いだよ。僕の背中からも同じ臭いがする。たくさん臭いがするから、大きな獲物を獲ったのかな。お父さんは僕が帰ってくると知って、獲物を捕まえたんだ。
嬉しくなって、つい手を外してしまった。早くお母さんを見たくて、お父さんに会いたくて。開いた目に映ったのは……真っ赤な地面と倒れているお父さん。抱き抱えられたお母さんも動かない。
「おと……、さ? ぉかあ……ん」
「見るな」
ディーは、僕を胸に押し付けた。ディーのすっとした匂いを吸い込む。血の臭いが薄れた。でも、さっき見たのは何? あれはお父さんとお母さんなの? 僕は……。頭が沸騰したみたいに熱くて、くらくらしてディーの背中に手を回した。
僕のお父さんとお母さんが赤くて、動かなくて、血の臭いがしてて……。ぷつんと何かが切れる音が聞こえた。
「すごいねぇ」
「褒められるとやる気が出る」
もっと褒めていいの? にこにこしながら、僕は知っている言葉をいっぱい並べた。
「かっこいい、強い、すごい、お父さんみたい」
「ん? 最後のはよくわからんぞ」
首を傾げるから、僕と頭がごつんとぶつかった。でも痛くないからいいや。
お父さんは強くて優しくて、僕の大好きな人なの。今のディーはお父さんくらい、かっこいい。説明する間に、ディーは羽を広げていた。
「じゃあ、そのかっこいいお父さんを探すか」
「うん、お母さんも」
「当然だな」
ディーは羽を広げた。薄い膜で出来た羽は、上が波の形なの。そこに牙が生えている。口の中じゃないから、爪かな? よくわかんない。後で見せてもらおう。
強く抱きしめられ、直後、背筋がぞくぞくした。強い魔力を使って、ディーが浮く。慌てて腕に力を込めた。落ちちゃう心配をしたんだけど、ちゃんと左腕で支えられる。羽はばさばさ動かなくて、飛び方はお父さんと同じだった。
僕はまだ飛べない。今は羽が痛いけど、痛くない時も飛べなかったの。お母さんは、もっと大きくなったら飛べるわ、と教えてくれた。そういえば、お母さんは羽がないのに飛んでいたけれど。
そんな話をしながら、山の方へ向かう。知っている山は左側なので、そっちを指差した。
「あっち」
僕が住んでいた場所で、お父さんとお母さんがいた。洞穴があって、そこに家を作ったんだよ。見たことがある岩を飛び越し、山の真ん中より上にある洞穴を見つけた。
「あれ! 僕のおうち」
「よし、ご両親と対面だ」
ディーは明るい声でそう言ったけれど、近づくと変な顔をした。それから僕に目を閉じるよう言い聞かせる。
「どうして?」
「あとで教えてやる」
よくわからないけど、ディーは僕に酷いことをしないから。頷いて従った。こっそり覗いたりしないよ。目を両手で覆うと、顔も半分隠れちゃう。お父さんやお母さんに「ばぁ!」って驚かせるのかも。
ワクワクする僕の鼻が、ひくりと動いた。この臭い知ってる。血の臭いだよ。僕の背中からも同じ臭いがする。たくさん臭いがするから、大きな獲物を獲ったのかな。お父さんは僕が帰ってくると知って、獲物を捕まえたんだ。
嬉しくなって、つい手を外してしまった。早くお母さんを見たくて、お父さんに会いたくて。開いた目に映ったのは……真っ赤な地面と倒れているお父さん。抱き抱えられたお母さんも動かない。
「おと……、さ? ぉかあ……ん」
「見るな」
ディーは、僕を胸に押し付けた。ディーのすっとした匂いを吸い込む。血の臭いが薄れた。でも、さっき見たのは何? あれはお父さんとお母さんなの? 僕は……。頭が沸騰したみたいに熱くて、くらくらしてディーの背中に手を回した。
僕のお父さんとお母さんが赤くて、動かなくて、血の臭いがしてて……。ぷつんと何かが切れる音が聞こえた。
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