上 下
111 / 122

111.神殿へ愛の証を奉納する

しおりを挟む
 カルレオン帝国に国教の指定はない。統合した国々の支持した宗教はあるが、地域の神様のような扱いだった。その意味で、宗教はどれを選ぶのも自由だ。同時に、他所の神様を否定しない決まりがある。

 国内で祀られる神々を象徴する神殿はあるが、一人の神像を置くことはなかった。神々の象徴とされる一枚の絵画があり、すべての神が収まっている。ここで参拝すれば、一度ですべての神様に祈りが届くと言われてきた。

 多神教と表現するらしい。そのため帝国を束ねる皇族は、結婚式の愛を神様へ誓わない。寄り添う国民に対して、支えてくれる親族や貴族へ向けて誓うのだ。二人で考えた言葉を並べ、最後に向き直ってヴェールを上げてもらった。

「ティナ、君を永遠に愛すると誓う」

「オスカル。私も同じ気持ちですわ」

 唇を重ねる僅かな間に、お互いへの愛を誓った。わっと人々の拍手喝采が広がり、広間が騒がしくなる。席次も関係なく近くの人と手を取り合い、祝い、宴へと突入した。

「おめでとう、ティナ」

 お母様は乳母バーサからエルを引き取り、私の腕に抱かせてくれる。一人でつかまり立ちした頃から重くなり、今も精一杯だった。するとオスカルが、隣からエルを引き取る。

「エルは私の息子だぞ。そろそろ父親に交代の重さだろう」

 くすくす笑いながら示された先で、リリアナは侍女に涙や鼻を拭いてもらい、リップを直しているところだ。可愛く整えてもらい、天使のような銀髪の少女は微笑んだ。

「リリアナ、神様達にご挨拶にいきましょうか」

「はい!」

 皇族の他は来賓の王族のみが神殿へ向かう。他の貴族は私達を見送った。宮殿の敷地内にある神殿までの道は、両側に花が植えられている。常に花を絶やさず、捧げ物にしてきた。花の道をゆっくり進み、リリアナは緊張した面持ちで先頭に立った。

 事前に説明した手順通り、神官が出迎える。一緒に神殿へ入り、リリアナは侍女から受け取った金の小鳥を、紫の宝石箱に収めた。両手で持ち、しっかりと祭壇前で一礼する。神々の絵の前に、他の皇族の納めた金細工の動物が並ぶ。

 神様の前では無言、なぜなら人の吐く言葉は穢れと考えるから。リリアナはリップを塗り直した唇をきゅっと引き結び、黄金の小鳥が載った宝石箱を指定された場所へ置いた。ほっとする。無事に役割を果たした娘が戻ってくるのを待って、私達も一礼した。

 これで儀式は終わり。結婚したことを国民に知らせ、私達は晴れて夫婦となった。すごくドキドキするわ。リリアナと手を繋ぎ、右隣の夫オスカルを見上げる。慣れた手付きで小ナサニエルを抱く彼は、私の視線に気付いて微笑んだ。

 神殿を出て、再び大広間へ歩き出す。来賓の王族が次々と声を掛けた。すべてが祝いの言葉で、これからの人生に祝福があるようにと締めくくられる。微笑んでお礼を告げ、ふと気づいた。

 モンテシーノス王国のカルロス王がいらっしゃらないわ。小首を傾げたものの、私はすぐに思い直した。あんな騒動を起こしたんだもの、来られるわけがないわね。きっとお祖父様達も呼ばなかったんだわ、と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】年下幼馴染くんを上司撃退の盾にしたら、偽装婚約の罠にハマりました

廻り
恋愛
 幼い頃に誘拐されたトラウマがあるリリアナ。  王宮事務官として就職するが、犯人に似ている上司に一目惚れされ、威圧的に独占されてしまう。  恐怖から逃れたいリリアナは、幼馴染を盾にし「恋人がいる」と上司の誘いを断る。 「リリちゃん。俺たち、いつから付き合っていたのかな?」  幼馴染を怒らせてしまったが、上司撃退は成功。  ほっとしたのも束の間、上司から二人の関係を問い詰められた挙句、求婚されてしまう。  幼馴染に相談したところ、彼と偽装婚約することになるが――

【短編】愛人の家から帰ってこない婚約者と婚約破棄したいのですが、、、。婚約者の家族に苛められ、家事を全て押し付けられています。

五月ふう
恋愛
愛人の家からほとんど帰ってこない婚約者は婚約破棄を望む私に言った。 「お前など、好きになるわけないだろう?お前には死ぬまでこの家のために働いてもらう。」 幼馴染であり婚約者のアストラ・ノックスは私にそう言った。 「嫌よ。」 「だがお前に帰る場所などないだろう?」 アストラは薄笑いを浮かべた。確かに私は、もう二度と帰ってくるなと、何度も念押しされて実家を出てきた。 「俺はお前の親から、お前を安値で買ったのさ。」 アストラの言葉は真実であった。私が何度、帰りたいと手紙を書いても、両親から連絡が返ってくることはなかった。 私の名前はリュカ。フラノ国没落貴族の娘。お金が無いことで、昔から苛められてきた。アストラは学生時代、私を虐めていた男達のリーダーだった。 「リュカ!!まだ晩御飯ができないの?!」 今日も義理の母は私を怒鳴りつける。

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

【完結】探さないでください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。 貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。 あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。 冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。 複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。 無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。 風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。 だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。 今、私は幸せを感じている。 貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。 だから、、、 もう、、、 私を、、、 探さないでください。

乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

仲室日月奈
恋愛
転生したのは、大正時代を舞台にした乙女ゲームの世界でした。ただし、ヒロインではなく、その友人役として。サブキャラだから、攻略はヒロインに任せて、私はゲーム案内役の彼を落としてもいいよね? だけど、隠しキャラの謎解きルートを解放しなければ、自分は失踪。父親はショックで倒れて、華族の我が家は没落。それはさすがに困る。 こうなったら、ゲーム案内役の彼と協力して未来を回避し、ゲームクリアを目指します! ※この乙女ゲームでは、話し言葉は標準語、カタカナの表記は現代風という仕様です。 ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

聖女の私と婚約破棄? 天罰ってご存じですか?

ぽんぽこ狸
恋愛
 王宮内にある小さな離宮、そこには幸運の女神の聖女であるルーシャが住んでいた。王太子の婚約者であるルーシャはその加護を王太子クリフにすべて捧げるために幼いころから離宮に隔離され暮らしている。  しかし、ある日クリフは、アンジェリカという派手な令嬢を連れてルーシャの元を訪れた。  そして彼らはルーシャの幸運の力は真っ赤な嘘で、ルーシャは聖女を騙ってクリフをだましているのだと糾弾する。    離宮でずっと怠けていて社交界にも顔を出さない怠惰なごく潰しだと言われて、婚約破棄を叩きつけられる。  そんな彼女たちにルーシャは復讐を決意して、天罰について口にするのだった。  四万文字ぐらいの小説です。強火の復讐です。サクッと読んでってください!  恋愛小説9位、女性ホットランキング2位!読者の皆様には感謝しかありません。ありがとうございます!

処理中です...