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102.どこで暮らすか不安みたい

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 予定通りに宮殿へ戻り、私室でエルをあやす。移動の間もお母様が面倒をみてくれた。お陰で、リリアナとの時間をしっかり取れたことに感謝している。

 オスカル様はすぐに向かうと仰ったけれど、溜まった仕事の量は多かった。戻ったご挨拶の際にその話をしたら、文官の派遣を検討してくれるらしい。宮殿内の書類も無駄が多く、お父様があれこれと手を加えた。各部署のトップに権限を預け、処理する書類量を半分近く減らしたのだとか。

 忙しそうにしていたのは、この為だったんですね。同じシステムをアルムニア公国へ持ち込むことで、大公閣下が署名する書類が激減するそうです。いずれオスカル様が継ぐ爵位ですので、楽になるのはいいことですね。

「お風呂入りました」

 リリアナが駆けてくる。髪を拭いたタオルを手に、侍女が苦笑いした。まだ半乾きの銀髪に触れて、タオルを受け取る。すでに眠っているエルをベッドに移動させ、代わりに隣へ腰掛けたリリアナの髪を乾かし始めた。

 眠る前の蜂蜜入りミルクの準備を侍女に任せ、美しい髪を丁寧に乾かす。侍女ほど上手ではないけれど、形にはなったみたい。手で触れても冷たくない銀髪を梳かした。

「お義母様は公国で暮らすのですか?」

 アルムニア大公妃になると聞いて、不安になったらしい。私が大公妃としてアルムニアへ行ったら、入学後のリリアナは一人で大きな屋敷に住む。もちろん侍女や乳母も付き添うが、家族ではなかった。

「いいえ。リリアナの後はエルが入学するもの。しばらく宮殿と大公家のお屋敷を行ったり来たりね」

 1日あれば移動が出来る。毎月の移動が可能かも知れないと考えていた。大変だとしても、オスカル様ばかり移動するのでは、申し訳ない。そう話せば、リリアナは口元を緩めた。

「たとえば、今月は私達が行ったから、来月はオスカル様に来ていただくの。交互に行き来すれば楽になるわ」

「迷惑、じゃない?」

「ええ。可愛いリリアナが迷惑だなんて、考えたこともないわ」

 少し眠そうなリリアナの目元にキスをして、彼女をベッドに誘導した。真ん中で目を覚ましたエルを抱き上げ、用意されたベッドに横たえる。ベビーベッドより大きくなったが、まだ落下防止の柵がついたベッドだった。

「おやすみなさい。リリアナ、エル」

 返ってくる挨拶に頷き、さっと入浴を済ませる。侍女達と交代で部屋に戻り、リリアナの隣に滑り込んだ。横たわった体は、思ったより疲れていたらしい。馬車に揺られるだけで、こんなに疲れるのね。モンテシーノス王国を脱出した時は、緊張していて分からなかった。

 いつもなら抱き付いてくるリリアナは、丸まって眠っている。よく見れば、人形のマリアを胸に抱いていた。嫌だわ、私ったら自分の作った人形に嫉妬しちゃう。リリアナを取られた気になったけど、これも成長よね、と笑った。

 別れ際のキスやオスカル様の切ない表情が瞼の裏に浮かび、疲れているのに私はなかなか寝付けなかった。
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