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98.ニエト子爵夫妻との出会い
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学院の制服や教科書は、すべてお祖父様とお祖母様にお願いした。ひいお祖父様も鞄や靴を仕立てると気合を入れている。だからリリアナのために、何が用意できるか考えた。
「ペンやインクは一緒に揃えましょうか」
これなら誰かがすでに用意していても、部屋で使うことが出来る。それに消耗品なので、無駄にならないわ。理由も添えて提案すれば、リリアナは喜んだ。髪を結ぶリボンも揃えたいので、買い物に出ることに決めた。
大叔父様と酒を飲み交わしたベルトラン将軍は休日。宮殿から同行した騎士達も置いていくので、オスカル様と大公家の騎士達が一緒だ。馬車に揺られて到着した都は、今日も賑やかだった。
「お義母様、こっちよ。ここに可愛い雑貨も売ってる筆記具屋さんがあるの」
喜んだリリアナに手を引かれ、私は軽く走った。歩くのではなく走るなんて、久しぶりだわ。学生時代を思い出す。角を曲がったリリアナが、一人の男性とぶつかった。
「きゃっ」
尻餅をついた彼女に合わせて姿勢を屈めた私は、慌てて謝罪を口にする。前を見ていないリリアナが悪いし、注意しなかった私の責任だった。
「ごめんなさい、おケガはありませんか?」
「いえ、大丈夫です。可愛らしいご令嬢ですね」
穏やかな口調の男性は、怒ってないようだ。微笑んだ彼の後ろに、奥方らしき幼子を抱いた女性もいた。身なりからして貴族だろう。
「奥様に当たらなくてよかったわ。リリアナもケガはない?」
「はい、ごめんなさい」
ぶつかったことを紳士に謝罪したところへ、オスカル様が追いついた。ぱちくりと目を瞬かせ、紳士とオスカル様はほぼ同時に一礼する。
「これは……アルムニア大公ご嫡男オスカル様でしたか。大変失礼いたしました」
「ニエト子爵。こちらこそリリアナがぶつかったようで申し訳ない。おケガがなくてよかった」
「リリアナ嬢を受け止めるくらいの余裕があれば良かったのですが」
苦笑いする紳士は、ニエト子爵らしい。聞き覚えのある家名に、記憶を攫う。すぐに気づいたが、オスカル様が首を横に振った。確かにこんな人通りの多い街道でする話じゃないわ。
「よろしければお茶などいかがですか」
オスカル様が誘いの声をかけ、頷き合って移動した。リリアナに「お買い物はもう少し後でね」と約束する。アルムニア公国の首都は、オスカル様の庭のような場所。すぐに個室のあるお店に入った。入り口に蔦が絡んで、隠れ家のような雰囲気だった。
店の通路にも蔦や小ぶりな木が飾られている。落ち着いた家具が並ぶ個室で席に着くと、ようやく本題を切り出すことができた。
「ニエト子爵様、離婚前の私はセルラノ侯爵夫人でした。元夫や義家族がご迷惑をお掛けして……お詫びのしようがありません。申し訳ございません」
しっかり頭を下げる。事情を知らないリリアナは、不安そうにきゅっと手を握った。
「ペンやインクは一緒に揃えましょうか」
これなら誰かがすでに用意していても、部屋で使うことが出来る。それに消耗品なので、無駄にならないわ。理由も添えて提案すれば、リリアナは喜んだ。髪を結ぶリボンも揃えたいので、買い物に出ることに決めた。
大叔父様と酒を飲み交わしたベルトラン将軍は休日。宮殿から同行した騎士達も置いていくので、オスカル様と大公家の騎士達が一緒だ。馬車に揺られて到着した都は、今日も賑やかだった。
「お義母様、こっちよ。ここに可愛い雑貨も売ってる筆記具屋さんがあるの」
喜んだリリアナに手を引かれ、私は軽く走った。歩くのではなく走るなんて、久しぶりだわ。学生時代を思い出す。角を曲がったリリアナが、一人の男性とぶつかった。
「きゃっ」
尻餅をついた彼女に合わせて姿勢を屈めた私は、慌てて謝罪を口にする。前を見ていないリリアナが悪いし、注意しなかった私の責任だった。
「ごめんなさい、おケガはありませんか?」
「いえ、大丈夫です。可愛らしいご令嬢ですね」
穏やかな口調の男性は、怒ってないようだ。微笑んだ彼の後ろに、奥方らしき幼子を抱いた女性もいた。身なりからして貴族だろう。
「奥様に当たらなくてよかったわ。リリアナもケガはない?」
「はい、ごめんなさい」
ぶつかったことを紳士に謝罪したところへ、オスカル様が追いついた。ぱちくりと目を瞬かせ、紳士とオスカル様はほぼ同時に一礼する。
「これは……アルムニア大公ご嫡男オスカル様でしたか。大変失礼いたしました」
「ニエト子爵。こちらこそリリアナがぶつかったようで申し訳ない。おケガがなくてよかった」
「リリアナ嬢を受け止めるくらいの余裕があれば良かったのですが」
苦笑いする紳士は、ニエト子爵らしい。聞き覚えのある家名に、記憶を攫う。すぐに気づいたが、オスカル様が首を横に振った。確かにこんな人通りの多い街道でする話じゃないわ。
「よろしければお茶などいかがですか」
オスカル様が誘いの声をかけ、頷き合って移動した。リリアナに「お買い物はもう少し後でね」と約束する。アルムニア公国の首都は、オスカル様の庭のような場所。すぐに個室のあるお店に入った。入り口に蔦が絡んで、隠れ家のような雰囲気だった。
店の通路にも蔦や小ぶりな木が飾られている。落ち着いた家具が並ぶ個室で席に着くと、ようやく本題を切り出すことができた。
「ニエト子爵様、離婚前の私はセルラノ侯爵夫人でした。元夫や義家族がご迷惑をお掛けして……お詫びのしようがありません。申し訳ございません」
しっかり頭を下げる。事情を知らないリリアナは、不安そうにきゅっと手を握った。
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