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81.エルの顔を見られた幸運に感謝を
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朝の支度に訪れた侍女の甲高い悲鳴に、わっと人が集まる。宮殿内で働く人もいれば、お祖父様やお祖母様へ報告に走る人も出た。嗚咽を漏らす侍女の脇を抜けたお母様に抱き締められ、肩に落ちる涙が部屋着を濡らす。
「……気持ちは分かるが、扉を閉めるからな」
苦笑いしたお父様に指摘され、部屋着に上掛けを被った姿だと気づいた。身支度も終えていないのに、人前に出ていたなんて。恥ずかしくて、でも見えることが嬉しくて、溢れた涙が止まらなくなった。
駆け付けたお祖父様達が部屋に入り、お互いに感極まって抱き締め合う。ようやく落ち着いたところへ、離宮から駆けてきたひいお祖父様が飛び込んだ。お祖父様やお祖母様は朝が早く、すでに着替えていた。でもひいお祖父様は部屋着のまま。
まさかそのお姿で、離宮から駆けてきたんですか? 上にローブを羽織っているが、それは追いかけた執事が差し出したらしい。
「よかった……わしの目をくれてやれるなら、そうしたかったぞ」
ひいお祖父様の本音に、ほぼ全員が頷く。室内が家族だけなので、上掛けを退けて上着を羽織った。顔も洗えてないのに、目元が腫れてボロボロになった私は、ゆっくりと部屋を見回した。宮殿内に与えられた私室で、手を伸ばしてベビーベッドを引き寄せる。
さすがにこの騒ぎで眠れるほど豪胆ではないようで、ナサニエルは大きな琥珀の瞳をぱちくりと瞬いた。
「あ゛うっ!」
私の顔を見て嬉しそうに手を伸ばす。ここしばらく、抱っこは控えていた。ベッドに座って安全な時だけ。見えないから何があるか分からなくて、抱っこの時間は減っていた。それが不満だと言いたげに、無邪気に手を伸ばす息子を腕に抱く。
くにゃくにゃと猫のようだった体は硬くなり、芯が通ってしっかりした。そんなナサニエルに頬擦りをする。涙で濡れているが、嫌がる様子はなかった。不思議なことに、数年ぶりの再会に似た感動が湧き起こる。
「きゃぁっ! あ、ぅうう!」
お喋りするみたいに聞こえる声に頷き、また顔を見られた幸運に心から感謝した。ここでようやく宮廷医師が到着する。診察の邪魔になるからとお母様以外は退出し、お医者様はカーテンを開けなかったことを褒めた。
「いきなり強い光を見ると目が傷つきます。ゆっくり、薄暗い部屋から慣らしましょう。今日はこの部屋くらいの明るさまで。明日はもっと明るくして。徐々に慣らせば、すぐに戻りますよ」
目の前に立てた指を数えたり、右手と左手のどちらが上がっているか答えたり。確実に見えることを確認した医師は、ほっとした表情を浮かべた。
「ありがとうございました」
朝早くから駆け付けた医師にお礼を言って、私はようやく一息つく。
「今日のお茶会、どうしようかしら」
「室内でしたらいいわ。カーテンを引いた薄暗い部屋で、ね」
「そうですわね」
お礼をしたいのが一番だから、驚かせるのを加えても構わないわよね。お母様の提案で、客間をひとつ用意してもらうことにした。
そうだ! オスカル様やリリアナにも伝令を出してもらわないといけないわ。
「……気持ちは分かるが、扉を閉めるからな」
苦笑いしたお父様に指摘され、部屋着に上掛けを被った姿だと気づいた。身支度も終えていないのに、人前に出ていたなんて。恥ずかしくて、でも見えることが嬉しくて、溢れた涙が止まらなくなった。
駆け付けたお祖父様達が部屋に入り、お互いに感極まって抱き締め合う。ようやく落ち着いたところへ、離宮から駆けてきたひいお祖父様が飛び込んだ。お祖父様やお祖母様は朝が早く、すでに着替えていた。でもひいお祖父様は部屋着のまま。
まさかそのお姿で、離宮から駆けてきたんですか? 上にローブを羽織っているが、それは追いかけた執事が差し出したらしい。
「よかった……わしの目をくれてやれるなら、そうしたかったぞ」
ひいお祖父様の本音に、ほぼ全員が頷く。室内が家族だけなので、上掛けを退けて上着を羽織った。顔も洗えてないのに、目元が腫れてボロボロになった私は、ゆっくりと部屋を見回した。宮殿内に与えられた私室で、手を伸ばしてベビーベッドを引き寄せる。
さすがにこの騒ぎで眠れるほど豪胆ではないようで、ナサニエルは大きな琥珀の瞳をぱちくりと瞬いた。
「あ゛うっ!」
私の顔を見て嬉しそうに手を伸ばす。ここしばらく、抱っこは控えていた。ベッドに座って安全な時だけ。見えないから何があるか分からなくて、抱っこの時間は減っていた。それが不満だと言いたげに、無邪気に手を伸ばす息子を腕に抱く。
くにゃくにゃと猫のようだった体は硬くなり、芯が通ってしっかりした。そんなナサニエルに頬擦りをする。涙で濡れているが、嫌がる様子はなかった。不思議なことに、数年ぶりの再会に似た感動が湧き起こる。
「きゃぁっ! あ、ぅうう!」
お喋りするみたいに聞こえる声に頷き、また顔を見られた幸運に心から感謝した。ここでようやく宮廷医師が到着する。診察の邪魔になるからとお母様以外は退出し、お医者様はカーテンを開けなかったことを褒めた。
「いきなり強い光を見ると目が傷つきます。ゆっくり、薄暗い部屋から慣らしましょう。今日はこの部屋くらいの明るさまで。明日はもっと明るくして。徐々に慣らせば、すぐに戻りますよ」
目の前に立てた指を数えたり、右手と左手のどちらが上がっているか答えたり。確実に見えることを確認した医師は、ほっとした表情を浮かべた。
「ありがとうございました」
朝早くから駆け付けた医師にお礼を言って、私はようやく一息つく。
「今日のお茶会、どうしようかしら」
「室内でしたらいいわ。カーテンを引いた薄暗い部屋で、ね」
「そうですわね」
お礼をしたいのが一番だから、驚かせるのを加えても構わないわよね。お母様の提案で、客間をひとつ用意してもらうことにした。
そうだ! オスカル様やリリアナにも伝令を出してもらわないといけないわ。
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