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20.なぜこんな目に――SIDE元夫

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 国王カルロス陛下に呼び出され、仕方なく出向く。どうせ、ねちねちと文句を言われるのだろう。皇族の血が欲しいなら、選ばれなかった自分達を嘆くべきだ。少なくとも俺はバレンティナに選ばれたのだから。

 息子の奪還に失敗した男は、図々しくも代金を請求した。もちろん突っぱねたが、あまりにしつこいので別の仕事を与える。バレンティナが国外へ出る前に、捕まえろ。それで約束通りの報酬を払う。渋っていたが、男は承知した。

 そもそも、あの時に仕事の代金の交渉をせずに、大急ぎで向かったら間に合ったのではないか? そう思うから腹立たしさが増した。利用して、最後は金を払わず首を刎ねてやる。あの腹立たしい髭男め。罵りながら、王宮へ降りた。

 僅か七代、歴史は二百年余り。権威を高めるために初代国王が建造を命じた王宮は、豪華絢爛より壮大さを優先させた。見上げるほど大きな塔、森を含む広い庭、我が侯爵家の5倍近い建築面積を誇る。

 案内する侍従について、王宮内へ足を踏み入れた。執務室だろうと予想したが、謁見の間へ向かっていた。なぜだ? すでに帝国の使者でも来たのか。いや、出産直後のバレンティナを連れて、まだ出国はできないはず。今頃は父母がエリサリデ侯爵家へ向かっている。

「入れ」

 到着を告げる衛兵は、内側からの声にゆっくりと扉を開いた。その先に、伯爵家以上の貴族がずらりと並ぶ。いつの間に招集をかけた? いや、それより、この短期間でどうやって集まったのだ。不思議に思う俺は、押されるように前へ出た。

「セルラノ侯爵ベルナルド、お呼びに従い御前に参上いたしました」

 一礼した後、声がかかるまで姿勢を保つ。だがいつまで待っても、許しの声はかからなかった。不満に思うが、まだこの国の王であるカルロスに逆らうのは得策ではない。

「口上が間違っています」

 聞こえたのは、国王ではなく宰相の声だった。何を言われたのか分からず、顔をそちらへ向ける。いい加減腰が痛い。

「セルラノ侯爵家は爵位剥奪となったため、平民のベルナルドです」

「は?」

 間抜けな声が出た。爵位剥奪? なぜだ! まだ叛逆もしていないし、家族内でちょっと揉め事はあったが……国王が動く状況ではない。甘い言葉を囁いて、優しくしてやればバレンティナは戻ってくるのだ。いくらでもやり直しは可能だった。

「ふむ、この者は平民ゆえ礼儀作法を知らぬと見える。衛兵!」

 辺境伯家の先代が檄を飛ばす。王宮騎士団の指南役を務める男の号令に、両脇に並んだ衛兵が動いた。国王の前で剣を佩くのは近衛騎士のみ。衛兵達は槍に見立てた棒を使い、俺を跪かせた。

「なぜです! 国王陛下」

「理由が分からぬようだ。説明してやれ」

 カルロス王は怒りの形相で歯を食いしばり、絞り出すように吐き捨てた。宰相は数歩進み出て、淡々とした口調で申し渡す。

「カルレオン帝国第三皇女フェリシア殿下の御息女、バレンティナ皇女殿下に対する不敬と虐待の罪です。反論は不要、すでに罪も罰も確定しました」

 茫然とする。こいつらはおかしい。バレンティナは皇族の血を引くが、この国の侯爵令嬢に過ぎない。エリサリデ侯爵の一人娘……なのに、どうして皇女扱いされているんだ?

 まだ叛逆もしていない俺を罪人扱いして、爵位を剥奪するだと?! そんな横暴が許されるわけがない。付き合いのある貴族を探して周囲を見回すが、集まった者達は睨み付けるばかり。誰も助けの手を伸ばそうとしなかった。
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