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第十章 一緒に帰ろう
一緒に帰ろう(1)
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赤い血が私の頬を濡らす。
血溜まりが石畳に広がり、石と石との隙間に入り込んでいく。
「何を腑抜けているのです⁉︎」
イーグルは、苦悶に歪んだ表情で私を睨む。
彼は、私の前に立ち、剣を盾のように構えて何かを防いでいた。その足元に血が滴り落ちる。
私は、飛散しかけた意識を戻し、現状を把握する。
何かを遮るように私の前に立つ血まみれのイーグル。
その向こうに見えたのは燃え上がる青白い炎に包まれた・・。
「マナ?」
そこにいたのは青白い炎の体毛に包まれた一糸纏わぬ姿で和かに微笑んでいる少女、マナであった。
青白い炎の体毛に包まれているその姿は明らかにマナのはずなのにそこから感じる気配は明らかに異なる。
マナは、あの頃と同じ和かな笑みを浮かべて小さな右腕をイーグルに向けている。
その右腕は青白い炎で形成された巨大な獣の腕に変貌し、槍のように太い爪が板金鎧を貫き、イーグルの身体を焼き、痛めつけていた。
剣を盾にして防御していなかったら爪はさらに深く刺さり、即死に繋がっていただろう。
イーグルは、剣の腹に左手を添え、力の限りを込めてマナを押し弾く。
炎の爪が抜け、マナの小さな身体が吹き飛ばされる。
マナは、子猿のように宙で回転して何事もなかったかのように離れた場所に音もなく着地し、私たちに向かって微笑む。
イーグルが苦鳴を上げて膝を着く。
青白い炎に溶かされた板金鎧がイーグルの身体を焼く。
私は、大鉈で振るい、イーグルの板金鎧の留め金を破壊し、脱がせる。
鎧の下に溜まっていた血が流れ、赤く爛れた火傷が飛び出す。
「余計なことを」
イーグルは、苦々しく呟く。
「貴方は・・・私を助けてくれたのですか?」
私が訊くと彼は一瞬、目を大きく見開き、そっぽ向く。
「妹を守るのは・・・兄の務めですから」
妹?
私は、首を傾げる。
「そんなことよりも彼女です」
剣を杖の代わりにしてイーグルは、マナを見る。
マナは、穏やかで可愛らしい笑みを浮かべてこちらを見ている。
しかし、そこから放たれる肌を突き刺すような気迫と魔力はさっきまでの巨大な犬の姿を遥かに超えるものだ。
まるで異質な世界から来た生物のような気配に私は肌を粟立たせる。
「魔印の暴走ですね」
魔印の暴走?
私は、眉を顰めてイーグルを見る。
イーグルは、左手の人差し指でマナを指す。
「彼女の身体を包む炎をよく見てください」
イーグルに促されるままに私はマナを見る。
青白い炎の体毛に覆われたマナ。
その体毛に模様のように浮かび上がる線や丸や歪な文字のような模様。
その模様はただ描かれているのではなく、木菟のように華奢なマナの身体を這いずり回っている。
私は、あまりの悍ましさに背筋が震えた。
「恐らくあの魔法騎士に何かが起きて制御が効かなくなったんです」
私は、イーグルに倒された偽物を見る。
偽物の身体からは既に魔印が消え去っていた。
それは本体であるヌエ自身に何かが起き、一部譲渡の影響が失せたのを意味していた。
「恐らくですが彼女の中の凶獣病のウイルスと魔号が結合したのではないでしょうか?それがアレを生み出した」
イーグルは、悔しそうに唇を歪める。
「それじゃあマナは・・・」
「あれはもう貴方の従者ではありません」
イーグルは、震える足に力を入れて剣を構える。
「ただの化け物です」
化け物・・・。
その言葉が私の心に重く圧し掛かる。
「どちらにしろアレを何とかしないとこの反乱は収まりません」
イーグルは、動揺する私を横目で見る。
国民達は鬼の姿のまま蜂蜜に絡まり踠き、残りは今だスーちゃんが相手にしている。
つまり術を解く要因はヌエでもあの偽物でもなく、マナ自身を何とかするしかないのだ。
「覚悟を決め・・・」
しかし、その言葉の続きが紡がれることはなかった。
イーグルのいた場所にマナが立っていた。
和かな笑みを浮かべて私を見る。
私は、驚愕に目を瞠る。
一拍遅れて何かの砕ける衝撃音が伝わってくる。
私は、視線だけを音の方に向ける。
建物の壁が大きくひび割れ、その中心に壁の中にめり込み、血まみれに染まるイーグルの姿が見えた。
青白い炎が視界を覆う。
私は、反射的に大鉈を持ち上げる。
衝撃と熱が身体を襲う。
マナの両腕が青白い炎に包まれて巨大化し、大鉈を、私を激しく殴りつける。
私は、大鉈の刀身の中に身体を隠し、防御する。
マナは、笑顔のままに私を乱打する。
私は、柄に力を込めて大鉈を振り上げる。
小さなマナの身体は宙へと浮かぶ。
私は、両手で大鉈を構える。
刀身に革袋がぶつかり、蜂蜜が覆う。
私は、大鉈を振り上げ、宙に浮かぶマナへと蜂蜜を飛ばす。
蜂蜜は、小さなマナの身体にぶつかり全身を覆う。
刹那。
蜂蜜は白い煙を上げて消滅し、甘い香りを充満させる。
マナの全身を包む青白い炎の体毛の熱に一瞬で焼けて消滅した。
私は、驚愕に一瞬身体の動きを止める。
マナの目が妖しく揺れる。
膨れ上がった両腕の五指から青白い炎の爪が伸び、私に向かって振り下ろされる。
私は、身体を反らして攻撃を避ける。
炎の爪は石畳を抉り、石炭のように黒く焦がす。
マナは、地面に降り立ち、口を大きく開く。
青白い炎が口の中から立ち昇り、熱線を放出する。
私は、再び身体を反らして交わそうとする。が、その背後に蜂蜜に絡まって動けなくなっている鬼がいることに気づき、逃げるのを止め、石畳を踏み締め、大鉈を横薙に振り、熱線に刃を叩きつける。
熱風が巻き起こり、衝撃が空気と建物、そして私の身を叩く。
肉の焦げる臭いと共に激しい痛みと熱が私を襲う。
マナの放った熱線は、大鉈の刃を半月に砕き、戦乙女のプレートを抉り、板金鎧の右の肩当てを破壊し、私の肩を貫いた。
私の肩を貫いた熱線は、そのまま背後の大きな建物にぶつかり、破壊する。幸いにもその下には鬼達はいなかった。
私は、悲鳴を上げそうになるのを堪えるもあまりの痛みに膝を付く。
傷は焼けただれ、赤い肉を剥き出し、皮膚が黒く炭化している。焼けたお陰で血が流れないのが唯一の救いだ。
遠くからマダムと4人組の悲鳴が聞こえる。
マナは、痛みに踠く私を見ても尚、可愛らしい笑みを浮かべて走ってくる。
革袋の球が幾つも飛んできてマナの身体にぶつかるもダメージも牽制することもできないままに燃え尽きる。
マナは、右腕を大きく振り上げる。
私は、大鉈を持ち上げて防ごうとするも肩に走る激痛に
大鉈を落としてしまう。
マナの炎の爪が私の身体を捉える。
嘶きが私の耳を打つ。
疾風の如く走ってきたスーちゃんがその巨体をマナの身体に叩きつける。
マナの身体は、小石のように弾かれて建物の壁を破壊し、瓦礫の中に埋もれる。
スーちゃんは、動けないでいる私に近寄り、大きな首を使って私の身体を起こし、支えてくれる。
「ありがとうスーちゃん」
私にお礼を言って左手で大鉈を拾い上げる。
もう右腕を動かすことは出来そうにない。
瓦礫が吹き飛び、マナが姿を現す。
青白い炎がさらに大きく膨らむ。
マナは、可愛らしい笑みを浮かべて私を見る。
スーちゃんに吹き飛ばされたと言うのに傷一つも負っていない。
スーちゃんは、炎のような目を細めてマナを見据える。
私は、大鉈をぎゅっと握る。
もうダメだ。
もう命を奪う以外でマナを止める方法が思いつかない。
私は、遠くの屋根の上にいるマダムと4人組、そしてグリフィン卿を見る。
みんな怯え、恐怖と絶望の表情で私を見ている。
ここからは見えないが凶獣病から逃れること出来た人々が恐怖に包まれてこちらを見ている気配がする。
そして頭で理解出来なくても本能で状況を理解し、蜂蜜で固められた身体で足掻き逃げようとする鬼達。
彼らを守るにはもう・・・。
私は、スーちゃんから離れる。
大きく息を吸って、吐き、爪先と踵を動かして旋律を刻む。
ターンッターンッターンッターン!
「ごめん・・・マナ」
戦いの制限を解除した瞬間、何十通り、何百通りもの戦闘方法、マナの命を奪う戦略が浮かんでは消える。
右腕が動かなかろうが関係ない。
ただただ命を奪えばいいだけの話し。
視野と思考を狭くする。
意識を全てマナだけに持っていて、その身体を観察する。
青白く燃え上がる体毛、身体中を泳ぐように這う魔号、膨れ上がった炎の両腕に槍のように鋭く大きな巨大な五指の爪。
しかし、その身体自体は人であった頃と変わらない。
人の姿でいる、それはつまり急所や弱点も変わらないということ。
それだけで脅威はもはや脅威では無くなる。
あとはどれだけ身体を痛めつけられようが死にかけようが命を奪うまで攻撃をする。
ただ、それだけだ。
スーちゃんが私の思考を読み取ったように首を振るい嘶く。
ごめん。スーちゃん止めないで。
もうこれしか思いつかないの。
私の脳裏に嘆き悲しむマダムの顔が、恐怖と失望に沈む4人組の顔が、そして悲しげに顎に皺を寄せて私を見るカゲロウの顔が浮かぶ。
みんなごめんなさい。
やっぱり私は、笑顔のないエガオのままでした。
私は、これからマナの命を奪います。
ごめんね。マナ。
血溜まりが石畳に広がり、石と石との隙間に入り込んでいく。
「何を腑抜けているのです⁉︎」
イーグルは、苦悶に歪んだ表情で私を睨む。
彼は、私の前に立ち、剣を盾のように構えて何かを防いでいた。その足元に血が滴り落ちる。
私は、飛散しかけた意識を戻し、現状を把握する。
何かを遮るように私の前に立つ血まみれのイーグル。
その向こうに見えたのは燃え上がる青白い炎に包まれた・・。
「マナ?」
そこにいたのは青白い炎の体毛に包まれた一糸纏わぬ姿で和かに微笑んでいる少女、マナであった。
青白い炎の体毛に包まれているその姿は明らかにマナのはずなのにそこから感じる気配は明らかに異なる。
マナは、あの頃と同じ和かな笑みを浮かべて小さな右腕をイーグルに向けている。
その右腕は青白い炎で形成された巨大な獣の腕に変貌し、槍のように太い爪が板金鎧を貫き、イーグルの身体を焼き、痛めつけていた。
剣を盾にして防御していなかったら爪はさらに深く刺さり、即死に繋がっていただろう。
イーグルは、剣の腹に左手を添え、力の限りを込めてマナを押し弾く。
炎の爪が抜け、マナの小さな身体が吹き飛ばされる。
マナは、子猿のように宙で回転して何事もなかったかのように離れた場所に音もなく着地し、私たちに向かって微笑む。
イーグルが苦鳴を上げて膝を着く。
青白い炎に溶かされた板金鎧がイーグルの身体を焼く。
私は、大鉈で振るい、イーグルの板金鎧の留め金を破壊し、脱がせる。
鎧の下に溜まっていた血が流れ、赤く爛れた火傷が飛び出す。
「余計なことを」
イーグルは、苦々しく呟く。
「貴方は・・・私を助けてくれたのですか?」
私が訊くと彼は一瞬、目を大きく見開き、そっぽ向く。
「妹を守るのは・・・兄の務めですから」
妹?
私は、首を傾げる。
「そんなことよりも彼女です」
剣を杖の代わりにしてイーグルは、マナを見る。
マナは、穏やかで可愛らしい笑みを浮かべてこちらを見ている。
しかし、そこから放たれる肌を突き刺すような気迫と魔力はさっきまでの巨大な犬の姿を遥かに超えるものだ。
まるで異質な世界から来た生物のような気配に私は肌を粟立たせる。
「魔印の暴走ですね」
魔印の暴走?
私は、眉を顰めてイーグルを見る。
イーグルは、左手の人差し指でマナを指す。
「彼女の身体を包む炎をよく見てください」
イーグルに促されるままに私はマナを見る。
青白い炎の体毛に覆われたマナ。
その体毛に模様のように浮かび上がる線や丸や歪な文字のような模様。
その模様はただ描かれているのではなく、木菟のように華奢なマナの身体を這いずり回っている。
私は、あまりの悍ましさに背筋が震えた。
「恐らくあの魔法騎士に何かが起きて制御が効かなくなったんです」
私は、イーグルに倒された偽物を見る。
偽物の身体からは既に魔印が消え去っていた。
それは本体であるヌエ自身に何かが起き、一部譲渡の影響が失せたのを意味していた。
「恐らくですが彼女の中の凶獣病のウイルスと魔号が結合したのではないでしょうか?それがアレを生み出した」
イーグルは、悔しそうに唇を歪める。
「それじゃあマナは・・・」
「あれはもう貴方の従者ではありません」
イーグルは、震える足に力を入れて剣を構える。
「ただの化け物です」
化け物・・・。
その言葉が私の心に重く圧し掛かる。
「どちらにしろアレを何とかしないとこの反乱は収まりません」
イーグルは、動揺する私を横目で見る。
国民達は鬼の姿のまま蜂蜜に絡まり踠き、残りは今だスーちゃんが相手にしている。
つまり術を解く要因はヌエでもあの偽物でもなく、マナ自身を何とかするしかないのだ。
「覚悟を決め・・・」
しかし、その言葉の続きが紡がれることはなかった。
イーグルのいた場所にマナが立っていた。
和かな笑みを浮かべて私を見る。
私は、驚愕に目を瞠る。
一拍遅れて何かの砕ける衝撃音が伝わってくる。
私は、視線だけを音の方に向ける。
建物の壁が大きくひび割れ、その中心に壁の中にめり込み、血まみれに染まるイーグルの姿が見えた。
青白い炎が視界を覆う。
私は、反射的に大鉈を持ち上げる。
衝撃と熱が身体を襲う。
マナの両腕が青白い炎に包まれて巨大化し、大鉈を、私を激しく殴りつける。
私は、大鉈の刀身の中に身体を隠し、防御する。
マナは、笑顔のままに私を乱打する。
私は、柄に力を込めて大鉈を振り上げる。
小さなマナの身体は宙へと浮かぶ。
私は、両手で大鉈を構える。
刀身に革袋がぶつかり、蜂蜜が覆う。
私は、大鉈を振り上げ、宙に浮かぶマナへと蜂蜜を飛ばす。
蜂蜜は、小さなマナの身体にぶつかり全身を覆う。
刹那。
蜂蜜は白い煙を上げて消滅し、甘い香りを充満させる。
マナの全身を包む青白い炎の体毛の熱に一瞬で焼けて消滅した。
私は、驚愕に一瞬身体の動きを止める。
マナの目が妖しく揺れる。
膨れ上がった両腕の五指から青白い炎の爪が伸び、私に向かって振り下ろされる。
私は、身体を反らして攻撃を避ける。
炎の爪は石畳を抉り、石炭のように黒く焦がす。
マナは、地面に降り立ち、口を大きく開く。
青白い炎が口の中から立ち昇り、熱線を放出する。
私は、再び身体を反らして交わそうとする。が、その背後に蜂蜜に絡まって動けなくなっている鬼がいることに気づき、逃げるのを止め、石畳を踏み締め、大鉈を横薙に振り、熱線に刃を叩きつける。
熱風が巻き起こり、衝撃が空気と建物、そして私の身を叩く。
肉の焦げる臭いと共に激しい痛みと熱が私を襲う。
マナの放った熱線は、大鉈の刃を半月に砕き、戦乙女のプレートを抉り、板金鎧の右の肩当てを破壊し、私の肩を貫いた。
私の肩を貫いた熱線は、そのまま背後の大きな建物にぶつかり、破壊する。幸いにもその下には鬼達はいなかった。
私は、悲鳴を上げそうになるのを堪えるもあまりの痛みに膝を付く。
傷は焼けただれ、赤い肉を剥き出し、皮膚が黒く炭化している。焼けたお陰で血が流れないのが唯一の救いだ。
遠くからマダムと4人組の悲鳴が聞こえる。
マナは、痛みに踠く私を見ても尚、可愛らしい笑みを浮かべて走ってくる。
革袋の球が幾つも飛んできてマナの身体にぶつかるもダメージも牽制することもできないままに燃え尽きる。
マナは、右腕を大きく振り上げる。
私は、大鉈を持ち上げて防ごうとするも肩に走る激痛に
大鉈を落としてしまう。
マナの炎の爪が私の身体を捉える。
嘶きが私の耳を打つ。
疾風の如く走ってきたスーちゃんがその巨体をマナの身体に叩きつける。
マナの身体は、小石のように弾かれて建物の壁を破壊し、瓦礫の中に埋もれる。
スーちゃんは、動けないでいる私に近寄り、大きな首を使って私の身体を起こし、支えてくれる。
「ありがとうスーちゃん」
私にお礼を言って左手で大鉈を拾い上げる。
もう右腕を動かすことは出来そうにない。
瓦礫が吹き飛び、マナが姿を現す。
青白い炎がさらに大きく膨らむ。
マナは、可愛らしい笑みを浮かべて私を見る。
スーちゃんに吹き飛ばされたと言うのに傷一つも負っていない。
スーちゃんは、炎のような目を細めてマナを見据える。
私は、大鉈をぎゅっと握る。
もうダメだ。
もう命を奪う以外でマナを止める方法が思いつかない。
私は、遠くの屋根の上にいるマダムと4人組、そしてグリフィン卿を見る。
みんな怯え、恐怖と絶望の表情で私を見ている。
ここからは見えないが凶獣病から逃れること出来た人々が恐怖に包まれてこちらを見ている気配がする。
そして頭で理解出来なくても本能で状況を理解し、蜂蜜で固められた身体で足掻き逃げようとする鬼達。
彼らを守るにはもう・・・。
私は、スーちゃんから離れる。
大きく息を吸って、吐き、爪先と踵を動かして旋律を刻む。
ターンッターンッターンッターン!
「ごめん・・・マナ」
戦いの制限を解除した瞬間、何十通り、何百通りもの戦闘方法、マナの命を奪う戦略が浮かんでは消える。
右腕が動かなかろうが関係ない。
ただただ命を奪えばいいだけの話し。
視野と思考を狭くする。
意識を全てマナだけに持っていて、その身体を観察する。
青白く燃え上がる体毛、身体中を泳ぐように這う魔号、膨れ上がった炎の両腕に槍のように鋭く大きな巨大な五指の爪。
しかし、その身体自体は人であった頃と変わらない。
人の姿でいる、それはつまり急所や弱点も変わらないということ。
それだけで脅威はもはや脅威では無くなる。
あとはどれだけ身体を痛めつけられようが死にかけようが命を奪うまで攻撃をする。
ただ、それだけだ。
スーちゃんが私の思考を読み取ったように首を振るい嘶く。
ごめん。スーちゃん止めないで。
もうこれしか思いつかないの。
私の脳裏に嘆き悲しむマダムの顔が、恐怖と失望に沈む4人組の顔が、そして悲しげに顎に皺を寄せて私を見るカゲロウの顔が浮かぶ。
みんなごめんなさい。
やっぱり私は、笑顔のないエガオのままでした。
私は、これからマナの命を奪います。
ごめんね。マナ。
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