上 下
22 / 27
ゴブリン

ゴブリン(4)

しおりを挟む
「どうなってる?」
 アメノは、目の前に広がる光景に猛禽類のような目を顰める。
 リンツは、思わず長衣ローブの袖で口元を覆い、ヘーゼルは目を背け、ロシェは口元を両手で覆う。
 ロシェ達の目の前に広がるもの、それは無惨に刻まれ、砕かれ、全身を赤黒い血溜まりに沈め、森の木々の中に散らばった大量のゴブリンの死体だった。
 しかも大分、時間が経っているようでほとんど腐りかけていた。
「これって・・一体なんすか⁉︎」
 生唾を何度も飲み込みながらリンツは言う。
「さあな?」
 アメノは、唾と一緒に言葉を吐き捨てる。
 ロシェの鼻を頼りに森の中を歩いている最中、アメノ達にも分かるような生臭い臭いが漂い、紐を辿るように向かうとこの光景に出会でくわした。
 アメノは、刀を鞘ごと抜くと、その先端で腹這いになって死んでいるゴブリンの一体をひっくり返し、鼻の頭に皺を寄せる。
 ゴブリンの死体は胸の部分は胸骨が引き剥がされ、ぽっかりと穴が開いていた。
 その中は・・・。
「心臓がない」 
 アメノは、猛禽類のような目をきつく細める。
 その言葉にロシェとヘーゼルの顔が青ざめる。
「抜き取られたっすか?」
 リンツは、口元を押さえて覗き込む。
「村の人間たちのように切れ味の刃物で切り取られたと言った感じではない。食いちぎられたというか、引きちぎられたと言う感じだな」
 正体の知れない何者かがゴブリンの心臓を抜き取る姿を想像し、ロシェは治ったはずの嘔吐感が蘇り、顔を背ける。
 アメノは、顔を上げて、ゴブリンたちの死体の奥にある草を踏み潰して出来たような道を見る。
「ロシェ」
 アメノの声にロシェは口元を押さえたまま振り返る。
「何か臭うか?」
 正直、嘔吐感に苛まれて臭いを嗅ぐどころではなかった。
 しかし、それでは自分がここにいる意味なんてほとんどない。ロシェは生唾を飲み込み、嘔吐感を抑えこむと鼻を奥の道に向けて鼻腔を動かす。
 ほとんどが目の前のゴブリンの死体から漂う血と腐臭の臭い。しかし、その中に紛れ込むように・・。
精製された石油ガソリンの臭い・・凄く近いです」
 ロシェの言葉にアメノは、ゴブリンの血で汚れるのも構わず、鞘を腰に差し直し、刀を抜く。
 リンツは、袖から短い樫の木の杖を取り出していつでも魔法が唱えられる体制を取り、ヘーゼルもいつの間にかデリンジャーを手にしている。
 あまりにも自然な動きを目にし、ロシェは慌てて棘付き鉄球モーニング・スターを握り直す。
「行くぞ」
 アメノは、ゴブリン達の死体を避けて前に進む。
 その後ろをロシェ達は最大限に警戒しながら付いていった。

 森が途切れると小さな崖が現れる。
 土を削り取ったような小さな崖で覗き込むと石と土が剥き出しの底と反対側の粘土質な土壁を見ることが出来た。
 そしてその土壁に鼠が開けたような丸い穴とその前を溜むろすように徘徊するゴブリン達の姿も。
 アメノ達は崖の端に膝を付いてしゃがみ込み、ゴブリン達にバレないように覗き込む。
「ここが新しい巣のようっすね」
 リンツが緑色のきつく細めてゴブリン達を睨む。
「何で・・こんな所に?」
 ヘーゼルは、眉を顰める。
「確かに巣としては外敵にバレないかもしれませんが狩猟や略奪をするにはあまりに不向きです」
 まず、この崖から出るだけでも一苦労だし、略奪品を運ぶのにも適さない。自分たちのように上から見つけて弓矢や岩でも落とされたら一網打尽だ。
「バレないことしか考えてないんだろう」
 アメノは、猛禽類のような目を細める。
「ここは奴らの巣穴じゃない。隠れ家だ。そして・・」
 アメノは、ゴブリン達が守っている丸い穴を見る。
「奴らの守っている何かがあの中にいる」
 アメノは、ロシェを見る。
 ロシェは、崖を覗き込んでからずっと青い顔をしていた。
「臭いか?」
 アメノの問いにロシェは目を震わせながら頷く。
「腐臭と・・精製された石油ガソリン、そして微かに竜の臭いが・・」
 ロシェは、爪を立てて土を握る。
 アメノは、猛禽類のような目を細める。
「どうするっす旦那?」
 リンツは、緑色の目をアメノに向ける。
「侵入するっすか?それなら睡眠スリーブで見張りの奴を眠らせて・・・」
「論外だ」
 アメノは首を横に振って否定する。
「何が潜んでいるかも分からないような穴に無策で侵入するほど馬鹿なことはない」
 馬鹿っと言われてリンツはムッと頬を膨らませる。
 ヘーゼルは、落ち着かせるようにリンツの肩に手を置く。
「では、どのようにされますか?ゴブリン達が動き出すのを待ちますか?」
「いえ、暗くなってからでは我々が不利です。明るい内にやってしまいましょう」
「じゃあ、どうするっすか?」
 リンツは、苛立ち、眉を顰める。
 怒っても綺麗だな、とロシェは不謹慎と思いながらもリンツの顔を見る。
「ヘーゼル」
「はいっ」
「銃の弾は何発ありますか?」
「装填されているのは6発です。予備の弾薬はありますが一度使い切ると再装填するのに多少の時間はかかります」
「腕前は?」
「この下にいるゴブリンを当てる程度なら問題ありません」
「分かりました」
 アメノは、次にリンツを見る。
旋風ストームは使えるか?」
「ここなら媒体無しでもいけるっす」
 リンツは、眉を顰める。
「でも、何で?」
 しかし、アメノはリンツの質問に答えずロシェを見る。
「前言撤回だ」
 アメノの言葉の意味が分からず、ロシェは首を傾げる。
「思い切り吹け」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...