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9章 祝福

初授業とて、レクスは魅せる………のかもしれない

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「それじゃ、少し遅れたけど、授業を始めるよ」


 演習場から戻ったのも束の間。レクスは早速授業を始めようというわけなのだが─────


「……………キィク君。しっかり授業を受けると約束したはずなんだけど」


「だから、自習もせずにしっかり聞いてるだろ?」


 べつにその事を言っているわけではない。レクスが言っているのは──────聞く態度だ。足を相変わらず机の上に放り投げ、姿勢も悪い。全く改善した様子すらないように見えるのは、気のせいなのだろうか。


「まあ、いいや。じゃあ、魔法座学を始めるけど──────その前に一つ、言っておくことがあるんだ」


 レクスは教室全体を見回して一拍溜めて、こう言う。


「───────教科書は使う気はないので、明日以降持ってこなくても結構です。あ、でも、多少の板書はするので、メモを取るものはお忘れなく。教科書は、テストには出ると思うのでそこは各自しっかりと対策してもらおうと思ってるから、そこは宜しくね」


 レクスの教科書を使わない発言に、クラス中にざわめきが起こる。


「教科書は使わない……………?」


「ほ、ほんとに大丈夫かなぁ…………?」


「………………駄目かもしれない」


 などなど、様々な声が聞こえる。



「まあまあ、教科書使わなくて不安な気持ちは分かるけど、とりあえず落ち着いて」


 レクスは一旦みんなを落ち着かせる。やはり、最初は受け入れられなくて当然だろう。だが、レクスとて最初から受け入れてもらおうとは毛頭思っていない。


「じゃあ、みんなに質問するよ。魔法ってなんだと思う?」


 レクスの問いかけに一人の生徒がはっと馬鹿にしたように笑っていた。もちろんキィク─────ではなく、別の生徒だ。


「………………君は?」


 レクスはその生徒に視線を向ける。


「リーシュよ」


 赤茶色のツインテールにレクスより一回り小さい、ある意味で微笑ましく思える少女─────リーシュがそう言った。


「じゃあ、リーシュさん。答えてもらおうかな」


「そんなの簡単よっ! 魔法っていうのは特定のルーン言語に呼応して発動する人為的な現象をさすわっ!」


 恐らく、彼女のは教科書に書いてある類いの答えだろう。だが、少し違う。


「教科書にはそう書いてあるんだろうけど────」


「え? 書いてないわよ?」


「え?」


「自分で要約したのよ、自分で!」


「へぇ……………」


 なんか誉めて誉めてオーラを出しているが………………きっと気のせいだろう。レクスは気にせずにそっか、と当たり障りのないことを言って続ける。


「悪いけど──────特定のルーン言語によって魔法が発動する、という考えは一旦隅に置いといてもらっていいかな? それは最終的な手段にするってことで」


「では、逆に聞きますが、魔法とは何ですか? あなたが言う、特定のルーン言語を使わない魔法とは」


 レクスはうーん…………と考え込む。その指摘はごもっとも。だが、説明するのは難しい。大勢に説明して納得してもらうのは、案外至難の業だったりするのだ。



「……………魔法を唱える際のルーン言語は、想像したものを魔法に変換するための媒介なんだよ。つまり─────ルーン言語はなんだっていいんだよ。例えば…………こんな感じで。…………水よ、剣を成せ。『水剣アクアソード』!」


 レクスがそう唱えると─────一本の水の剣がレクスの手元に形成された。生徒達がその様子に驚いている。普通なら、『水よ、大地の高鳴りに応えて、鋭い切っ先を持つつるぎとなれ』だ。それをあんな詠唱で、成功させてしまったのだ。驚かないわけがない。


「……………………」


 反抗的な態度を取っていたキィクでさえも口をあんぐりと開いて驚いていたのだった。
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