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9章 祝福

一方────二人の男

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 時は、レクス達がモウバルトと戦う前まで遡る──────


「お、おい、結構お宝ありそうな雰囲気じゃねえか?」


「ああ、あったら横から掠め取ってでも奪ってやる」


 二人の男の頭の中には財宝しかなかった。一攫千金。しかも、今まで見たこともない隠し通路ときた。これは将来安泰かもしれない。ただ一つを覗けば、だが。


「「………………………」」


 二人とも同じことを思ったのか、はぁ…………とため息をつく。そう。二人はこの歳────まだ三十くらいだが────になっても、頻繁に会ってはちょっと冒険したりバカ騒ぎしたりしているのだ。つまり、そういうことである。可哀想な二人であった。


「お、おい、このままじゃ見失うぞ」


「そ、そうだなっ。とりあえず急ぐか」


 切り替えることにした。還暦までにはなんとかしたいなんて思う二人。多分、無理だろうが。


「角曲がった」


「大丈夫でっせっ、待ち伏せはありやせん」


「お前、その口調やめろっ。一応尾行なんだぞ、これは。俺が吹き出したらどうするんだ」


 一人の必死に笑いを堪えていた。


「いや、面白くもなんともないけどな? お前のツボがおかしいだけだろ」


「くくっ…………い、いや、俺はいたって正常なツボを持ってるぞ」


「既に笑ってんじゃねーか。ったく……………」


 二人の男がそんな下らない会話を繰り広げていると─────





ドゴオオオオォォォォォォ!!


キイイイイィィィィィ──────!!


ドガァン! ドガァン! ドガァン!





「な、なんだ、この音……………」


「お、おい、後ろ! あぶねえ!」


 男がもう一人の男を突き飛ばす。すると─────その位置を通りすぎるように丁度魔弾が飛んできた。二人の遥か後方で魔弾はダンジョンの壁に衝突し─────凄まじい衝撃波が発生した。


「うわっ!?」


「ぐおっ!?」


 二人はその衝撃に驚く。もはや人為を越えていた。二人は冷や汗をかく。


「「………………………………」」


 二人は悟った。これは財宝云々じゃない。冒険で一番大事なのは命だと。


「………………帰ろうぜ」


「……………おう」


 示し合わせたかのようにそう言い合う二人。二人は脱兎の如くもと来た道を引き返していくのだった。もう暫く独り身でもいいかと思ったくらい、その時の二人は必死だった。



◇◆◇◆◇


女帝ミストレス様、ご報告がございます」


「なんだ、申してみよ」


「各団が女帝ミストレス様の事を追っているようです。ここに居ては危険かと思われます」


「うむ……………」


 などと考えている女帝ミストレス、ミリンであったが、その内心は───────


(だ、団が動くのっ!? ど、どうしようっ……………)


 騎士団やら魔法師団やら槍師団やらが一気に押し掛けて来たら……………ミリンなどすぐに捕らえられてしまうだろう。巻き込まれただけなのにっ! なんて思っていた。逃げたいと思った。ただの貴族の少女のだったのに…………今や立派な指名手配犯。笑えない冗談だった。


「………………いや、拠点は移動せん」


「…………それは誠で?」


「……………お前は、砂漠に居て、少ない水と水が多く入ったコップ、どちらを飲む?」


「多い方でございます」


「つまり、そういうことだ」


(何言ってんだろ…………私)


 自分の発言に呆れてしまった。馬鹿なの私、とすら思った。


「なるほど、分かりました。そのように皆に伝達して参ります」


(いやいや、納得しちゃ駄目でしょ! …………あれ? でも、ここは納得してくれた方が好都合………? んん…………?)


 もう訳が分からなくなっていた。


「ああ、待て」


「なんでしょう」


「……………あの装置だけは隠しておけ」


「分かりました」


 あれだけ見つからなければいいや、とミリンは思った。
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