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9章 祝福

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「ククク……………やはりいたぶるのは、最高に気分がいいねぇ」


 地面に転がる多くの動かない人々を見て、そう言う女性。


「はぁ………………趣味を楽しむのも結構だが、やりすぎるのとかはなしにしてくれよ? 一応秘密裏に動いてるんだから」


「わぁったよ……………程々にしとくよ」


 表情と言葉が一致していないとは、この事だろう。その表情は愉悦に支配され、何もかもが歪んでいた。男性は、頼むよ? …………ホントにと嘆息していた。


「ガグルルルル…………………」


「おーよしよし。お前も満足したようでぇ、何よりだ」


 女性は四本足で立っている魔物の頭を撫でる。その魔物は、五つの目を持ち、全身は赤色のふさふさの毛並みに覆われているが──────この毛並みは、時には凶器にもなるのだ。


「さあてと……………まだまだやることは多い…………気張っていくぞ」


 女性は口元を歪め、そう言った。彼らの目的を果たすためには、人間の魔力が必要なのだ。手段は厭わない。全ては自分達のために。二人をの太陽が照らしていた。



◇◆◇◆◇


「さあさあ、フェンリルの毛並みを是非とも堪能してみませんか! 一回二十万セルクで触れることができますよ!」


 さっきから少女にフェンリル触りませんか! と勧誘され続けているレクス。……………これは、フェンリル撫でないと、永遠に続くような気がする。


「はぁ………………分かったよ。一回触らせてもらっていい?」


「いいですよ! ……………やたっ」


 小さくやったっ、とかガッツポーズしているが、レクスには聞こえている。天使エンジェリング族─────だと思う────がこれほどがめつい? とは思わなかった。


 因みにだが天使エンジェリング族は、神の使徒だとも言われており、一説には、天使エンジェリング族から神になった者もいるとかいないとか。………………神もがめついのだろうか。そうではないと思いたい。


「じゃあ、二十万セルクいただきますね!」


 レクスは魔法袋マジックバッグから、二十万セルクを取り出して少女に渡す。


「ではでは、どうぞご堪能ありぇー!」


(…………噛んだ。しかも顔真っ赤になってる。恥ずかしかったんだね……………)


 押し売りした罰が下ったのでは……………なんて的外れなことを考えるレクスであった。


 レクスはフェンリルの毛並みに手を触れる。まあ、確かにフワフワであった。…………二十万セルク払う価値があるのかは別にして。


「クゥーン………………」


 フェンリルが足元にすり寄ってきた。フェンリルは意外に人懐っこいようだ。


「あぁーーーーー! 決して人に懐かないはずのフェンリルが! え? 『頭撫でるの上手いから、この人がご主人様になって欲しい』!? だ、駄目だよ!?」


 ………………全部丸聞こえである。どうやらフェンリルは人懐っこくないらしい。というか、フェンリルも念話ができたりするのだろうか。試す方法があれば………………あっ。


「『話す』」


 今まで思い付かなかったが、これなら念話も可能になるのでは──────なんて思うレクス。まあ、少々楽観的かもしれないが。



『やあ、フェンリル………………くん? さん?』


『うひゃっ!?』


 ………………できてしまった。


 もっと早く思い付いていれば、レインとも念話が再開できてたかもしれない……………とレクスは苦笑しながらそんなことを考えたのだった。
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