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8章 ダンジョンを守れ ~異種族間同盟~

回想

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 時は少し遡り──────派閥が出来る少し前の話。


 始まりは、ある男の言葉だった─────。


「なあ、ダンジョンって俺らの祖先が作ったんだろ? だったら、俺らがそれを使って領地を拡大してくってどうよ? ダンジョンが元々そこにあって、国が後から建った訳だし、実質俺らのもんだろ」


 この時は、まだ戦いが止めどなく続き、領地を奪い合っていた。妖精族は、どこの国とも協力する訳でなく、中立の立場にあった。


 この男は、王の補佐を務めるような実力の持ち主で、主に武の方面ではその才を遺憾なく発揮していた。この男の言葉に賛成するものは多く、その日を境に中立派だった妖精族は、穏健派と推進派に分かれてしまう。


 推進派というのは、積極的に領土を獲得しようという派閥だ。

 しかし、当時はまだ穏健派の方が数多くいたために、推進派も動くに動けなかった。そして、徐々に推進派も増え始めた頃─────。


「王の座を奪おうではないか!」


「おおおぉぉぉぉぉぉ──────!」



 遂に内乱に発展。結果的に推進派は負け、王の補佐だった男は処刑。そこから徐々にその陰は薄れていくことになったのだった。



◇◆◇◆◇


「──────てな感じでさ」


「なるほど…………穏健派と推進派か………。厄介だね」


 レクスは少し眉間を寄せてそう言った。これで、妖精族の中に裏切り者がいる可能性も出てきたって訳だ。犯人候補が増えたことで、より調査に時間を要するだろう。だが─────逆にいえば、もう一つの筋道が見えてきたことにもなる。


「…………レクス、ありがとう。関係ないことに巻き込んで、その上こんなことまで」


「ううん。セレニア皇国のダンジョンが悪用されたら、僕も少なからず被害を被る訳だからね。このくらいは全然。大したこともないよ」


「………………そう言ってくれると助かるよ」


 マリューシュはそう言って苦笑した。


「じゃあ、僕は一旦帰るよ。派閥の事もそうだし、探りを入れてくるよ」


 今や妖精族の誰がどの派閥に属するかなど、分からない。この事は他言無用にしなければならない。


「うん、分かった。気をつけてね」


 レクスの言葉に、マリューシュはうん、と返事をすると、そのままこの空間から消えていった。正確にいえば、妖精族の国に繋がる空間に消えていったというべきだろう。


「僕も帰ろうかな…………」


 でも、せっかく僕だけでここに来たんだし…………どうせなら行ける層まで行っちゃおうかな。


 レクスはそんなことを思うと、ダンジョンコアのある場所を出て、ダンジョンの中を進んでいくのだった。



◇◆◇◆◇


「ただいま戻りました」


「お疲れ。どうだい、ダンジョンに異常はなかったかい?」


「ええ、特には何も」


「そうかい。それは良かった」


 リライは、優しく微笑みながらそう言った。


「ああ、そういえばですが──────妖精族にも、派閥がありましたよね?」


「………………ああ、そうだね。確か、推進派と穏健派、だったかな」


 リライはやや言葉に詰まった後に、そう言った。その時のリライの顔は、僅かではあるがギクッとしたような顔をしていた。


 マリューシュがここでこの発言をしたのは、公の場なら誰かしら計画に関わっている同族がいるかもしれないからだ。そうすれば、自分から尻尾を出してくれるかもしれないと、淡い期待も込めて。


「まあ、今はかつてあった派閥もないようなもんだし、皆上手くやっていってくれているさ」


「…………そうですね」


 リライの言葉に、マリューシュは頷いてそう返事した。これで種は蒔いた。あとは誰かが拾ってくれればいい。


「…………それでは、僕はこれで」


 そう言ってマリューシュはその場を後にする。その場には、リライやその他数名が残っていた。


 このマリューシュの危険な賭けは、果たして──────。
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