咲かない桜

4章

Part 279『計画の種明かし』

　「どうしてここに？」

　「偶然でございますよ。まあ、追われる身としては、こちらに逃げてきた方が安全ではございますしね。」

　ハチは、餓狼衆と呼ばれる組織を鬼島にけしかけた首謀者ではないかと容疑をかけられていた。確かにこちらの世界に来ること自体は簡単ではないし逃走場所としては理にかなっている。

　「つまりは、あの一件の首謀者は、ハチだったってわけだ。」

　俺がそう言うとハチは悪びれもせず「そうでございます。」と同意した。

　「一般人の峰さんを危険に晒すのは、心苦しく思ってはいたでございます。ただ、どちらの目的から見ても峰さんの生存率は非常に高かった。餓狼衆が壊滅状態になる事は、鬼島の精鋭が出て行った時点で、確定していたでございます。まあ、一瞬でも油断させる事が出来れば問題なかったでございますしね。」

　危険性は低かったとハチはそう告げた。実際、餓狼衆のメンバーは、俺に危害を加える事はしていない。

　透明化の魔法具も俺の拉致をやりやすくするためだ。

　「魔女の殺害の依頼料は、人間を餓狼衆に届ける事でございますから。その後はどうなろうと仕事の範囲外でございます。」

　「でも、俺が来る前にはすでに餓狼衆は殺しに入ってたはずだろう。」

　「急遽、予定を変更したのでございますよ。リューさんが人間と親交があることは知っていたでございます。多忙な身の上だということも。であれば、魔女が殺され、品物は盗まれ、あちらとこちらの時間の流れは不規則、そうなれば、最終的にーーー」

　「人間である俺達に依頼をするだろうって事なのか？」

　「おおむねそのように事が運べば良いかと思っていたでございます。もし、それが無理なら、私達のようにこちらに転移して、連れ帰るというのも考えてはいたのでございます。しかし、行くだけならともかく帰るとなると費用がかさむでございます。」

　ハチは、おそらく、隠していただけで、魔女が所有していたであろう金品や魔法具の大多数を所有している可能性が高い。というよりも確実だろう。こちらの世界に転移してきた事もそれを裏付けている。

　「それで、なんで俺のところに？　ブレスレットの回収に来たとか？」

　目的があるんじゃないかと俺はハチに疑いの視線を向けたが、ハチは特に気にした様子もなく「偶然だと言ったでございます。」とあっさりと否定した。

　「まあ、挨拶程度は考えていたでございますが、探し歩いていた訳でもございません。散歩のついでに運良く会えたらと思っただけでございます。」

　「それで運良くあったと？」

　「偶然とは怖いものでございますね。あ、ブレスレットに関しては、差し上げるでございます。せめてものお詫びの品でございます。」

　ハチは、本当に特に用事もないような表情で俺にそう言った。犯罪の首謀者とは思えない態度だった。

　「ところで、お時間はおありでございますか？」

　「え？　あ、うん。まあ、時間ぐらいはあるけど」

　「少し、お茶でもどうでございます？」

　友人を誘うような親しげな態度に思わず硬直する。自分を罠に嵌めた張本人とお茶など出来るかと言いかけた。

　「なにやら悩んでおられるご様子でございますし、お詫びも兼ねて相談にのるでございます。力になれると思うでございますよ。」

　ハチのその言葉に出かかった言葉が止まる。魔道具や魔法などに詳しいハチなら何か現状を打開する何かがあるかもしれない。それこそ、呪いに関しても何かしら知っている可能性がある。

　結局、俺は自分でも無防備だとは思いながらもハチの誘いに乗ったのだった。