咲かない桜

御伽 白

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3章

Part 209『待ちの極意』

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 レンジと冬夜の戦闘は、先ほどの再現を見ている様に同じように進んだ。

 攻撃は躱され、逸らされ、反撃される。レンジは、このままでは、自分に勝機がない事も理解していた。

 最大限勝算を高めるための作戦をレンジは思考する。

 相手には完全に自分の動きが読まれている。であるならば、回避の出来ない一撃を与えれば良い。しかし、どうすれば、良いのか。

 レンジは、今の状況を分析して一つの結論に達した。

 攻撃しないという選択

 攻撃は最大の防御というが、それは、相手に攻撃の隙を与えなければ、結果的に攻撃を受けることがないという意味である。

 つまり、相手に攻撃の隙を与えてしまう状況下では、攻防一体というのは難しい。

 相手に攻撃する瞬間は常に隙が生まれる。その隙を攻撃するのがカウンターである。本来であるならば、そのカウンターを崩すためにフェイントを行い相手のタイミングをずらす事により攻撃を通すのが定石である。

 しかし、全ての攻撃が予想されている現状では、冬夜にフェイントはほとんど意味をなさない。

 だからこその攻撃しないという選択

 攻撃をした瞬間、隙が生まれるのは冬夜であっても例外ではない。

 鏡で生み出したタイムリミットのあるレンジでは行えなかった長期戦覚悟の作戦

 そして、冬夜が本気であれば行う事の出来ない策でもあった。

 本来であるなら、陽炎を持っている時点で一撃を受ければ敗北という勝算のない勝負になっていた。

 けれど、冬夜は、陽炎を抜く様子はない。つまり、一撃必殺の一撃を冬夜は持っていない。

 レンジは、腰を低くして右拳を引いて構える。左腕は、顔を守るように立てられた。

 相手が自分に攻撃を仕掛けてくれば狙い撃つ。

 両者は、向かい合う。レンジは、冬夜の動きを見逃さないようにしっかりと研ぎ澄まされた集中力を向ける。

 冬夜は、その姿に先ほどまでの退屈そうな表情から真剣な表情を浮かべて刀を握る手に力を込めた。

 ピリピリとした緊張感に冬夜は、自分の求めていた戦いがやって来たのだと実感していた。

 しかし、気持ちの高ぶりとは正反対にその集中力は深く、レンジは自分の全てが見透かされているような本能的な恐怖を感じた。

 人間がここまでの境地に至れるのかと戦慄するが、しかし、自分自身を認めたというその事実に笑みが溢れる。

 お互いが硬直したその光景は、時間が止まったようである。

 時間を動かしたのは、冬夜であった。踏み込み、鞘に収まった陽炎を振り下ろす。

 レンジは、それを防ぐーーーーー事などはしなかった。

 攻撃を回避する時間の余裕などはない。一撃を決める。相手には一撃で致命打を負わせるだけの威力はない。

 肉を切らせて骨を断つ。それは、鬼島のイズキの戦闘スタイルに似ていた。

 避けるのではなく、避けるのでもなく、被害が最小限になるように受ける。攻撃を受ける覚悟を決めて、受けきる。

 レンジのそれは、命の取り合いでは使えるレベルではない。しかし、相手が獲物を抜かないのであれば使える確実な一手であった。

 体に襲いかかる痛みに耐えて、そのまま、相手の無防備に晒された体に一撃を叩き込んだ。

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