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3章
Part 189『伝書人形』
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結局、俺の扱いは捕虜と言うよりは客人に近い扱いのようで特に拘束される事もなかった。
ただ、別段する事もないので、日課としてやっていた筋トレを行なったり、風呂を使わせてもらったりとかなり自由に過ごしていた。
だが、気がかりなのは、俺の無事を鬼島の人達に伝える事が出来ないという事だ。
俺が拉致されたと言う情報は、確実に氷華さん達にも伝わっているはずだ。つまり、必然的にその情報は、サクヤにも伝わるはずだ。
「心配させてるだろうな。」
正直に言えば、それが一番の気がかりだった。俺はこうして五体満足で無事だ。だからこそ、こうして余裕を持っていられるが、サクヤ側からすれば突然、拉致されたので心配しない訳がない。
だが、協力すると言ったからには俺が外部に情報を送るのは、逆に俺の命の危険が増加する。
「あ、あの人形・・・・・・」
俺は思い出して、よろずで購入したミイラ男のようなフォルムの人形を取り出した。話によれば、お互いの位置が分かるらしい。けど、それってどういう事なんだろうか。詳しく聞かずにお守り感覚で購入した道具だった事もあって、使い方に関してはあやふやだ。
けれど、現在は持っていても特に何も感じることはない。と言うことは、この人形の使用方法は別にあるはずだ。そして、鬼島のところにいる誰かがこの人形に関して思い出せば、おそらくここの場所が特定されるのも時間の問題だろう。
だが、ここの場所が露見するという事は子供達に危険が及ぶ可能性がある。
子供には、罪はない。だから、被害は出来る限り抑えたい。
「・・・・・・そうだ。」
うまく交渉出来るかは分からないが、水仙に協力してもらうというのはどうだろうか。
水仙の話が本当なら眠っている間は人形に意思を宿らせる事が出来る。上手くいけばサクヤに無事を伝える事も出来るはずだ。
俺は、すぐに部屋を出て食堂の方へと向かった。
すると食堂には、洗濯物を小さな体で器用にたたむクマのぬいぐるみの姿があった。
俺が駆け寄ってくるのに気付いたようで体をこちらに向けて話しかけてくる。
「・・・・・・あら、どうかしたの? 晩御飯には少し早いわよ?」
「えっと、君が動いてるって事は、水仙は今、寝てるのか。」
「ええ、まだ、夕食の準備には時間があるから、私は寝ているわ。彼女は基本的に1日の半分は寝ているのよ。用があるなら聞くけれど?」
記憶は共有されていると言っていたし、クマに話しても問題ないだろう。
「実は相談があるんだ。水仙の結晶をこのぬいぐるみに埋め込んで動かす事は可能か?」
「ええ、まあ、不可能ではないわよ。まあ、どんな性格の子が生まれるかは分からないけどね。ただ、どうしてかしら?」
俺は、ざっくりと手に持っている人形の効果とここが戦場になるかもしれないという事を伝えた。
クマは、表情を変えず、というよりも元から可愛らしいクマのぬいぐるみなので表情は変えようがないのだが、俺の話を聞いてくれた。
そして、一通り話を聞くとクマは「なるほどね。結晶を付けてあげてもいいわよ。ただ、最低でもレンジさんには許可を取ってもらうわ。」と回答した。
「それは、構わない。実際、言わないとフェアじゃないと思うしな。」
「ただ、レンジさんが拒否したら私達は手伝えないわ。良いわね?」
「ああ、それで良い。ただ、お互いメリットがあるんだ。協力してくれるさ。」
レンジもここの子供達を大切にしているのだ。拒否する理由はないはずだ。
「別に良いぞ。」
俺がそう考えていると巨大な狼が部屋の入り口から顔を出しそう言った。
その突然の状況に驚くがすぐにその狼の姿は小さくなりいつものレンジの姿に戻っていた。
「というよりも、許可しない訳にいかないだろ。壊す訳にもいかないしな。届けてきてやる。鬼島の怒りがこれである程度静まる可能性もあるって考えれば十分にメリットがある。」
「盗み聞きなんていい趣味ね。」
「耳が良くてな。聞かれたくない話ならせめてもう少し声を落とすべきだ。」
「いや、別に聞かれて困る話って訳でも・・・・・・」
「そうなのか? 俺にその人形が処分される可能性は考えなかったのか?」
「わざわざ、そんな俺に嫌われるような事をするメリットが今はないだろ。」
俺の協力がなくては、封印は解除出来ないのだ。人形を処分されれば、俺のレンジ達に対する印象を悪くするのは間違いない。
「そりゃあ、そうだな。」
レンジは、笑ってそう言うとクマに向かって「と言う訳だ。結晶を準備してやってくれ」とお願いする。
「分かったわ。ただ、入れてみるまでは私もどんな性格の子が出てくるのか分からないから問題児でも責任はとらないわよ。日向、そのぬいぐるみを貸してちょうだい。」
俺は、すぐにクマのぬいぐるみにミイラ男のぬいぐるみを差し出すとクマは受け取ってそのまま、奥へと向かって行ってしまった。
ただ、別段する事もないので、日課としてやっていた筋トレを行なったり、風呂を使わせてもらったりとかなり自由に過ごしていた。
だが、気がかりなのは、俺の無事を鬼島の人達に伝える事が出来ないという事だ。
俺が拉致されたと言う情報は、確実に氷華さん達にも伝わっているはずだ。つまり、必然的にその情報は、サクヤにも伝わるはずだ。
「心配させてるだろうな。」
正直に言えば、それが一番の気がかりだった。俺はこうして五体満足で無事だ。だからこそ、こうして余裕を持っていられるが、サクヤ側からすれば突然、拉致されたので心配しない訳がない。
だが、協力すると言ったからには俺が外部に情報を送るのは、逆に俺の命の危険が増加する。
「あ、あの人形・・・・・・」
俺は思い出して、よろずで購入したミイラ男のようなフォルムの人形を取り出した。話によれば、お互いの位置が分かるらしい。けど、それってどういう事なんだろうか。詳しく聞かずにお守り感覚で購入した道具だった事もあって、使い方に関してはあやふやだ。
けれど、現在は持っていても特に何も感じることはない。と言うことは、この人形の使用方法は別にあるはずだ。そして、鬼島のところにいる誰かがこの人形に関して思い出せば、おそらくここの場所が特定されるのも時間の問題だろう。
だが、ここの場所が露見するという事は子供達に危険が及ぶ可能性がある。
子供には、罪はない。だから、被害は出来る限り抑えたい。
「・・・・・・そうだ。」
うまく交渉出来るかは分からないが、水仙に協力してもらうというのはどうだろうか。
水仙の話が本当なら眠っている間は人形に意思を宿らせる事が出来る。上手くいけばサクヤに無事を伝える事も出来るはずだ。
俺は、すぐに部屋を出て食堂の方へと向かった。
すると食堂には、洗濯物を小さな体で器用にたたむクマのぬいぐるみの姿があった。
俺が駆け寄ってくるのに気付いたようで体をこちらに向けて話しかけてくる。
「・・・・・・あら、どうかしたの? 晩御飯には少し早いわよ?」
「えっと、君が動いてるって事は、水仙は今、寝てるのか。」
「ええ、まだ、夕食の準備には時間があるから、私は寝ているわ。彼女は基本的に1日の半分は寝ているのよ。用があるなら聞くけれど?」
記憶は共有されていると言っていたし、クマに話しても問題ないだろう。
「実は相談があるんだ。水仙の結晶をこのぬいぐるみに埋め込んで動かす事は可能か?」
「ええ、まあ、不可能ではないわよ。まあ、どんな性格の子が生まれるかは分からないけどね。ただ、どうしてかしら?」
俺は、ざっくりと手に持っている人形の効果とここが戦場になるかもしれないという事を伝えた。
クマは、表情を変えず、というよりも元から可愛らしいクマのぬいぐるみなので表情は変えようがないのだが、俺の話を聞いてくれた。
そして、一通り話を聞くとクマは「なるほどね。結晶を付けてあげてもいいわよ。ただ、最低でもレンジさんには許可を取ってもらうわ。」と回答した。
「それは、構わない。実際、言わないとフェアじゃないと思うしな。」
「ただ、レンジさんが拒否したら私達は手伝えないわ。良いわね?」
「ああ、それで良い。ただ、お互いメリットがあるんだ。協力してくれるさ。」
レンジもここの子供達を大切にしているのだ。拒否する理由はないはずだ。
「別に良いぞ。」
俺がそう考えていると巨大な狼が部屋の入り口から顔を出しそう言った。
その突然の状況に驚くがすぐにその狼の姿は小さくなりいつものレンジの姿に戻っていた。
「というよりも、許可しない訳にいかないだろ。壊す訳にもいかないしな。届けてきてやる。鬼島の怒りがこれである程度静まる可能性もあるって考えれば十分にメリットがある。」
「盗み聞きなんていい趣味ね。」
「耳が良くてな。聞かれたくない話ならせめてもう少し声を落とすべきだ。」
「いや、別に聞かれて困る話って訳でも・・・・・・」
「そうなのか? 俺にその人形が処分される可能性は考えなかったのか?」
「わざわざ、そんな俺に嫌われるような事をするメリットが今はないだろ。」
俺の協力がなくては、封印は解除出来ないのだ。人形を処分されれば、俺のレンジ達に対する印象を悪くするのは間違いない。
「そりゃあ、そうだな。」
レンジは、笑ってそう言うとクマに向かって「と言う訳だ。結晶を準備してやってくれ」とお願いする。
「分かったわ。ただ、入れてみるまでは私もどんな性格の子が出てくるのか分からないから問題児でも責任はとらないわよ。日向、そのぬいぐるみを貸してちょうだい。」
俺は、すぐにクマのぬいぐるみにミイラ男のぬいぐるみを差し出すとクマは受け取ってそのまま、奥へと向かって行ってしまった。
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