咲かない桜

御伽 白

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3章

Part 169 『天性の肉体』

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 真冬が、相対しているのは、爬虫類、特にトカゲによく似た妖怪だった。大きな瞳、ギザついた牙、体を覆う乾いた鱗、それらが爬虫類としての印象を強めていた。

 その鋭く鋭利な薄い尻尾は、別の生き物の様に動き回っていた。さらに手は鋭い鉤爪を持っており体の一部一部が刃の様であった。しかし、驚くべきは、その尻尾の切れ味である。尻尾は、急加速し、近くの岩に直撃する。その瞬間、岩は、二つに分かれ崩れ落ちる刃物で野菜を切った様に綺麗に真っ二つにされた岩を見て妖怪は、満足そうに笑った。

 肉眼で見る事が出来な位ほどに早い攻撃は、鋭さも相まって一撃必殺といっても差し支えがないほどである。

 「マジ、絶好ちょーだし、負ける気がしない。」

 「そうですか。」

 爬虫類の妖怪の自信満々な言葉に真冬は、特に興味もなさそうに言葉を返した。

 「早すぎて何が起こってるのか分かってないのか? お前もすぐに胴体と頭が真っ二つになるってのに・・・・・・」

 「それはどうですかね。こう見えて私、結構強いんですよ。」

 「俺は、昔、鬼も相手にした事があるぜ。その時は、アッサリ殺しちゃってよぉ。マジで呆気ねーっていうかさ。」

 「あの・・・・・・」

 「ん?」

 「お話長くなります? お話に来られたのでしたら、お帰りください。急ぎの用がありますので・・・・・・」

 妖怪の話を聞く気もないようで、明らかに分かる愛想笑いを浮かべながら真冬は、そう言った。

 「テメェ・・・・・・いいぜ、ぶっ殺してやるよ。一撃でな。」

 その妖怪の判断は、早かった。首元を狙った尻尾の一撃、音すらも追い越すその速度、妖怪は、勝利を確信していた。

 負けるはずがない。そう思うほどに妖怪は自身の尻尾の速さ、そして鋭さに自身があったのである。

 しかし、その自身は、ほんの一瞬で砕け散ることになる。

 「なんだと・・・・・・」 

 いともたやすく尻尾が掴まれていた。いや、その表現は正確ではない。つままれていたのだ。親指と人差し指で・・・・・・

 常人では視界に捉えることすら不可能な速度で振るわれた尻尾は、どれだけの力で掴まれているのか、一向に振りほどく事ができない。

 「二度目はありません。無駄な抵抗はやめて降伏してください。痛いのは嫌いでしょう? お互いに」

 真冬は、優しく諭す様に指を離し、尻尾を逃す。

 圧倒的なレベルの差を見せつけられていた。妖怪は、考えるように大きな瞳を真冬に向ける。

 「・・・・・・分かった。負けを認める。」

 妖怪は、両手を上げて降伏を示す。それを見て真冬は安堵した様に「お話の通じる方で良かったです。では、ここで大人しくしていてください。私は、他の方の手伝いでもします。」と真冬は妖怪に背を向けた。

 その圧倒的な油断を妖怪は見逃さなかった。もとより相手は、犯罪者、降伏の言葉などは、相手を油断させるためのブラフである。たしかに明らかな実力差、しかし、不意を打たれた今ならばどれだけ強くとも関係などない。

 もう一度、妖怪は、尻尾の斬撃を真冬にぶつける。

 相手がどれだけの化け物か完全に見誤っていた事に三ヶ月後のベッドの上で意識を取り戻してから気づくのであった。

 
 それは、一瞬の事であった。鋭利な尻尾は確実に真冬を真っ二つにする軌道描いていた。しかし、その未来は訪れない。

 本来の鬼、つまりは、筋力が強い鬼であったなら勝算はあったのかもしれない。圧倒的なパワーに差はあれど再生能力は、他の妖怪と比べてもそれほど高くない。

 岩をもバターの様に切り裂くその尻尾は、致死性の攻撃になっていたのかもしれない。

 けれど、相手が悪かった。真冬は、鬼の中でも群を抜いていた。身体能力だけならば、鬼島の中で並ぶものはいない。

 それは、回復能力に関してだけではない。筋力、反射神経、回復力、瞬発力、魔法能力、それら全てにおいて真冬は、群を抜いていた。

 鬼島において一番の実力者と言われるマコトですら身体能力だけで言うのならば、手も足も出ない実力差である。

 格が違う。そういう表現するのが適切だろう。勝負をするという段階ではないのだ。

 そんな相手に不意を突いた攻撃がどれだけの効力があるのか。

 真冬は、器用に尻尾を掴み完全に勢いを殺し、そのまま、まるで釣り人が浮きを投げる様に、しかし、圧倒的な速度で尻尾を振り下ろした。

 その勢いに突風を伴いながら、尻尾を引っ張られた妖怪は、体を持っていかれ、そして、真冬の前方に吹き飛ばされた。

 手には尻尾が握られたままであったが妖怪は、そのまま、遠くへと飛ばされていた。

 「あ、そう言えば、トカゲは尻尾を切るんでしたね。」

 真冬は、納得する様に呟いた。勝負は一瞬、非常に呆気なく倒してしまった。
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